先日、ある国際会議に出席した。パレスチナ問題についてアメリカの政策に批判的な発言があった。すぐに司会者から「今の発言はオフラインでお願いします」と注釈が入った。
別の会議では、在米日本人がアメリカの状況について語った。しかし、米国当局に発言が覚知されると、強制退去させられる恐れがあり、たとえ日本語であっても聞いたことを発信することができない。
日本では関税ばかりが取り沙汰されているが、トランプ政権の政策で最も恐ろしいのはSNSと監視カメラ、AIを用いた言論統制だ。
アメリカではトランプ大統領の就任以降、正式なビザを持つ留学生が、親パレスチナ的な発言をしたり、DEI(ダイバーシティ、平等、インクルージョン)について推進の立場を示したりしたとして、警察に拘束され、ビザを取り消され、国外退去の危機にある。その数はロイター通信によると、4700人にものぼる。
また、トランプ大統領はハーバード大、コロンビア大など10大学に対して、キャンパス内での学生の反ユダヤ主義的行動を容認し、公民権法に反する差別を行っていると主張し、是正されなければ助成金計120万ドルを打ち切ると脅しをかけている。微罪での別件逮捕や国外退去があり得るため、学生も教員も細心の注意を払って行動しているときいた。
メディアもしかり。メキシコ湾をアメリカ湾と言い換えろという大統領令を拒否したAP通信は、ホワイトハウスから取材禁止措置を受けた。ワシントンの裁判所が4月8日、政府に取材禁止の仮差し止めを命じたところ、大統領執務室の取材枠から「通信社」というカテゴリーそのものが消されたという。
そして、4月9日、米移民局はSNSなどの投稿を検閲し、反ユダヤ的とみなされるような書き込みがあれば永住権の申請を却下すると発表した。米国の空港ではビザを持っていてもSNSをチェックされて入国拒否となるケースが相次いでいる。
かつて、イランの映画監督たちが亡命して映画を撮り、亡命先や西側諸国の映画祭でスピーチをする様子を「なんと不自由なことか」という思いで見ていた。しかし、アメリカという民主主義の大国「だった」国が、それ以上の不自由を全世界に強いている。知の、国際会議の結節点(ハブ)であるアメリカに滞在できない、入国できない不自由と天秤にかけ、黙らざるを得ない人がこれ以上増えることを座視していいのか。
自由闊達な議論がない世界は、いかなる意味でも発展しない。平和にもならない。 本当のことが言えない。そのことがつらい。