性教育の充実や避妊や中絶を選ぶ権利を訴える若者らでつくる「#なんでないのプロジェクト」が8日、国の第6次男女共同参画基本計画の策定に合わせて、10〜20代の意見をまとめた提言書を内閣府に提出した。提言では、性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の普及を念頭に、教育のあり方、差別や性暴力への対策などで具体的な取り組みを求めた。同プロジェクト代表の福田和子さん(30)は「日本では少子化対策という大きな流れの中で、妊娠出産や婚姻を巡る問題が語られてきた。その中で取り残されている若年層の課題について声を届けたい 」と話した。

男女共同参画基本計画は、社会のあらゆる分野への女性の参画拡大や、性別にかかわらず能力や個性を発揮できる社会に向けた国の取り組みを定め、5カ年ごとに策定する。第6次計画は12月に閣議決定する予定。政府のジェンダー平等に関わる施策を巡っては昨年10月、国連の女性差別撤廃委員会が8年ぶりに日本政府への対面審査を行い、改善に向けた勧告を公表。中でも、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの分野については、重点項目に挙げ、2年以内に政府の取り組み状況を報告するよう求めた。
市民団体「#なんでないのプロジェクト」による提言は、女性差別撤廃委員会による勧告を国の施策に反映させる狙いがある。30歳未満の学生や社会人を募り、4月から計4回の学習会やワークショップを通じて出た約30人の意見を提言にまとめた。8日、提言づくりに参加した若者ら8人が、内閣府男女共同参画局の岡田恵子局長に書面を手渡した。
提言書抜粋 (太字は国連勧告における重点項目)
・包括的な性教育に向けて、中学校学習指導要領(保健体育)などで「妊娠の経過(性交)は取り扱わない」とするいわゆる「歯止め規定」を廃止すること
・若年層に対して性や妊娠に関する知識の普及や健康管理を促す「プレコンセプションケア(プレコン)」について、「子どもを持つ、持たない」選択、性的自己決定は個人の権利であることを強調すること
・緊急避妊薬の薬局販売の実現を含め、若年層が手に取りやすい安価で安全な避妊方法の認可
・政府が掲げる「切れ目ない支援」に生理や避妊、中絶も対象に含め、孤立出産ゼロを目指すこと
・LGBTQ+を含む性暴力被害者を想定した相談員の配置、相談場所やシェルターの拡充
・中絶における配偶者同意要件の廃止に向けた母体保護法改正、刑法における堕胎罪廃止の検討
・国籍や民族、性的指向や障害の有無など複合的な差別を踏まえた包括的差別禁止法の制定
・政府から独立した国内人権機関の設立
国の男女共同参画 立ち遅れた「望まぬ妊娠」への対策
性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を巡っては、2000年に閣議決定された第1次男女共同参画基本計画で言及。しかし、2次以降の計画では、権利の普及啓発や具体的な施策が盛り込まれないままだった。 四半世紀を経ても、性と生殖に関する健康と権利への認知が国内で広まらない一因になったとみられる。
第2次計画(2005年閣議決定)では、「人工妊娠中絶については刑法及び母体保護法において規定されていることから、それらに反し中絶の自由を認めるものではない」と記載。続く第3次計画(2010年同)では、「性と生殖に関する健康と権利の視点が殊に重要」とうたったが、主に不妊治療への支援や対策を拡充した。「望まない妊娠」については、第4次計画(2015年同)で初めて言及したものの、避妊や中絶に関する知識の普及や相談体制の整備に留まった。
政府は7月下旬、2026年度から実施する第6次計画の骨子案を公表。「緊急避妊薬を処方箋なしに適切に利用できるよう(中略)検討」「避妊方法等を含めた性教育の推進」については、第5次計画からいずれも引き継いだ。福田さんは「中絶における配偶者の同意要件の廃止や安全で安価な避妊法を巡る国内認可の検討など、昨年の国連委員会による勧告で改善が求められたが、指針では盛り込まれなかった項目は多い」と指摘。「子どもを産むか産まないか、産むのであればどのタイミングか。そうした選択が女性の自己決定権として尊重される社会であってほしい」とする。

多様な幸せ「男女共同参画」で実現できる? 若者の声に耳傾けて
国が示した第6次計画の骨子案は、「企業における女性登用の加速化」「家事・育児・介護における女性への偏りの解消」に主眼を置いた施策が目立つ。骨子案は「女性も男性も暮らしやすい多様な幸せを実現する」と掲げる。提言書の作成に参加した若者からは「政府との意識の乖離を感じた」「男女共同参画という枠組みには限界がある」との声が聞かれた。
会社員の栃原磨衣さん(27)は「避妊中絶を巡っては法整備や認可など行政側にしか解決できない課題がある。内閣府の担当者と話してみて、制度や人権の課題について意識の乖離を感じた」という。大学1年の三村紗葵(さき)さん(23)は「今の社会では、学歴や職業、容姿や障害など複合的な差別は根強い。そうした声に耳を傾けほしい。建設的な対話を政府に求めたい」。20代の参加者の一人は「男女共同参画の枠組みが果たしてきた意義は大きいが、LGBTQ+やXジェンダー(性自認が男女どちらとも言い切れない人)など男女の二元論の中で排除される人もいる。多様な生き方、多様な性を包括した形での施策の取り決めが必要だ」と話していた。