デマと差別は戦争を招く 東京・新宿で「NO HATE」集会

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デマや差別をなくしていくために、一人ひとりができることを

デマと差別が蔓延する社会を許しません——東京・新宿駅前で10月17日、「NO HATE」集会が開かれました。1300人が参加。パレスチナ人の父と日本人の母を持つラッパーのDANNY JINさんが裏金議員の復権や排外主義に抗するリリックで会場を沸かせました。

集会はウエブ署名「国会議員はデマ・差別を止め、人権と憲法を守る義務を果たしてください!」の呼びかけ人が中心となって開いたもので、東京では2回目。参議院議員選挙で「日本人ファースト」を掲げる政党が躍進したことなどを受け、デマや差別に抗う声を可視化しようと、署名運動を媒介に全国各地の街頭での訴えを続けています。

呼びかけ人の一人、太田啓子弁護士は「国会開会に合わせて今日の集会を企画したが、まだゴタゴタしている。公明党の与党離脱による激震の後、自民党が維新、参政党、N国(NHKから国民を守る党)と組むという話も出ている。いずれもこれまで国会質疑などでデマを流したことがある政党です。参院選でもヤバかったが、どこまでヤバくなったら止まるのか。差別やデマを支持しないという意思を“見える化”しないといけないと考えています」と話しました。

リレートークから一部を抜粋して紹介します。

デマや嘘を口にする政治家に惑わされない

◇法政大学元総長の田中優子さん

日本におられる在留外国人の割合は全人口のたった3%。不法に滞在しているとされる人の数は1993年のピークから急激に減って2024年には4分の1になりました。刑法犯の検挙件数は2005年がピークだったそうですが、急激に減って2023年には3分の1にまでなっています。外国人の犯罪は増えるどころか減っているんです。にもかかわらず、犯罪が起きた時には「××国籍の人」と新聞が書きます。私はエッセーで、そのような事を書くのであれば、日本人の犯罪にも「日本国籍の」と書くべきだと言いました。そのようにして、数字とは別に印象操作が色々なところで行われています。

「外国人が奈良のシカを蹴った」というのはデマだと、みんな知っているのですが、自民党の新しい総裁は「シカを足で蹴り上げているとんでもない人がいる」「私なりに確かめた」と言いました。これから自民党と組んでいくさまざまな政党の方たちは、今までにもずいぶんたくさんのデマを言ってきました。いったいデマは何のためにあるんでしょう。デマは差別するためにあるんです。ですから私たちは少なくとも人に伝えない、信じない、ちゃんと調べる。インターネットで色々なことを調べられるようになっています。単に噂を伝えている人は調べていないんです。ちゃんと調べましょう。自分の知識を事実に沿ったものにしてゆきましょう。それだけでまずは十分なんです。

それが私たちの内なる差別感を次第になくしてゆきます。差別がなんで恐ろしいか。関東大震災の時の虐殺、戦争を引き起こす原因にもなりました。私たちは生まれてくる時にはすごく複雑な世界に生まれてきますね。まっさらな世界に生まれてくるわけではない。色んな情報に囲まれて迷います、引っ張られます。それを仕方のないことだと思ってはいけないわけです。多くの情報の中で、私にとっての事実は何かを、お互いに確認しながら進んでいくことによって、人を傷つけたり、殺したり、戦争を起こしたりといった道を閉ざしていくことができるんです。そういう可能性を少なくしていくことができるんです。

デマを信じない、差別を心の中からなくしていくというのは、戦争につながる道を少しでも狭くするためにとっても重要なことなんです。

私たちは一人ひとりでそれをやりましょう。これを多くの人に伝えて生きましょう。デマや嘘を口にする政治家の姿を私たちはさんざん見てきました。これからも見るかもしれません。惑わされないようにしましょう。みんなで一緒に確かな目を持って生きるようにしましょう。

デマで金儲けは、人間の知性でも良心でもないはず

◇東京大学教授の隠岐さや香さん

日本学術会議という、日本全国の学者が集まって研究について話す組織がある。今年の6月に、国の特別機関から特殊法人へと、無理矢理組織改革を迫られる法律が通ってしまった。この学術会議はデマに苦しんできた組織なんですね。長い歴史があって、できた直後(1949年)ぐらいからデマがあって、それが激しくなったのが1970年代。端的にいうと「共産党に支配されている組織だから、あれはなくした方がいい」というデマがずっとあった。驚くことに今年の6月、学術会議を改革のため、法人化するという審議の場でも、維新の議員が同じ主旨のことを大演説した。その場で共産党議員が「それは嘘だから」と否定したのですが、デマが信じられて組織が変えられるという場面を目の当たりにしたと思っています。他にもデマがいっぱい出てきた。「利権をチューチュー吸っている」とか「中国の軍事研究に加担している」とか。その結果、学術会議の執行部だった人たちはワークライフバランスが壊れてしまって、毎週日曜日に何時間も会議のようなことが起きた。国民の一部である研究者をいじめ抜く人たちが政府にいる。その中核を担った人たちの多くは裏金議員で、一度ポストを外されたが新総裁で戻ってきているということに危機感を持っています。

学術会議は大学の研究者に軍事研究、特に核兵器の開発を研究させたくないという意思を強く持って、作られた組織だった。政府・自民党の方針と合わない発言をしたりはしていた。しかし、それだけの組織を変えるのに、ものすごい圧を加えてきたというのは忘れられないと思います。ぜひ記憶にとどめていただきたい。デマは、当時は「学者がおかしい」というのですんでいたが、今は「外国人がおかしい」という形で広がっている。トランスジェンダーの方々へのデマもひどかった。なぜこんなことになっているのか。デマを広げて何が楽しいのか。

デマでもうけている人たちがいるんですよ。うまくテクノロジーを使っていて、SNSで何回も再生されると、もうかる人たちがいるんですよ。それが野放しになっている状況があります。残念ながら、「日本人ファースト」という言葉は意味として「いじめファースト」になっていると思います。

わかりやすく人々の攻撃心を刺激する動画を作って、ヤバいよねと視聴回数を稼いで、そして金にする。すごくまずいタイミングに来ていると思います。

究極の「日本人ファースト」がいじめ社会だというのは歴史を見ればわかることです。荻上チキさんと栗原俊雄さんが書かれた『大日本いじめ帝国』という本に、戦争中の日本でいじめがひどかったとある。戦争中の日本は最も「日本ファースト」の状況。その中でなぜいじめがひどかったか。「日本人ならこうしろ」「お前は本当に日本人か」とみんなが言い出すからなんです。おかしいヤツはいじめていい、攻撃していい、デマを言ってもいいという社会はまずいです。日本人として認められる人の定義がだんだん狭くなり、誰もがいじめられる、場合によっては死ぬまで追い詰める社会になりかねないと思います。

危機感を煽るようなことをいいましたが、最後に希望を語って終わりたい。今って、テクノロジーが発展し、AI(人工知能)も発達し、すごいことができるようになってきた。でも、それなのに差別はなくせないと思わせようとしている。そういう力を感じるんですよね。AIを作る力があるんだったら、差別、いじめはなくせるはずですよね。それをできないと思わされているとしたら、なぜなのか。ぜひ一緒に考えていきたいと思います。

観光客が多すぎるならどうすればいいか、マナーが悪い人にはどうしたらいいか。一つ一つ考えていけばいいのに、目を逸らさせて、差別動画で金をもうけることになっている。それは人間の知性じゃないはずだし、良心じゃないはずです。デマに満ちたこの社会は変えられる。私たち一人ひとりがそれを実現しましょう。

子どもの権利条約踏みにじる国こそルールを守って

◇東京大学学生 金澤伶さん

私は、仮放免の状態にある高校生が教育や支援を受けられず、退学に追い込まれる現実を変えるために活動しています。学費値上げや奨学金の問題にも取り組んでいます。

今年5月に法務省が発表した、自民党が公約にも掲げている「不法滞在者ゼロプラン」というものを皆さんご存知かと思います。

これは「国民の安全・安心」を掲げながら、実際には難民申請中の人々や家族などの強制送還を加速させてしまっている政策です。入管庁は政策の明確な根拠を示さず、「ルールを守らない人々」というふうにくくった上で、曖昧な言葉を繰り返しています。入管庁にかかれば、まだゴミ出しのルールがよくわからない外国人の方も、重犯罪を犯してしまった外国人の方も、入管法に違反してしまっている非正規の状態にあるという人たちも、一緒くたにされているように思います。

その結果、私たちが支援してきた子どもたちが次々に収容され、送還されています。

夏休み前まで学校に通っていた日本生まれの子。高校進学を控えていた子。バスケの試合に行ったその日に、突然連れ去られた子。大学進学を夢見ていた子もいます。

受験勉強に励みながら、なんとか自分の居場所を作っていきたいと頑張っていた子たちが次々に送還されています。彼らはみな、日本語を話し、日本で育ち、日本人の友だちや先生に囲まれて生きてきました。

この「ゼロプラン」実施後の強制送還の中で、特にトルコ国籍、その中でもクルド人の方たちがたくさん含まれていると見られています。この政策はクルドヘイトや蔓延する差別、排外主義に乗っかって、それをさらに煽る形で、クルド人の方を狙い撃ちにして行われている政策なのです。報道でも指摘されています。

「国民の安全」という名の下で、社会の分断と恐怖を生み出す――それがゼロプランの現実ではないでしょうか。

今、日本で生まれ育った子どもたちが、自分たちにとって「見知らぬ国」へ強制送還されようとしています。

さらにその一方で多くの大学、専門学校が経営判断、ブランディングの名のもとに、仮放免の子どもたちの受験や入学を拒否する事例も多発しています。これは排外主義が広まった結果です。そこに法的な根拠は何もありません。ほとんど奨学金の対象にもならず、学ぶ権利さえ奪われてきた子どもたちが、一縷の望みをかけて勉強したい、働きたい、育った場所でこのまま生き続けたい、そんなささやかな願いを持ってきた。そういった願いや、教育という命綱を断ち切られています。

入管に呼び出されて行くたびに、「お前には無理だ」「強制送還してやる」「諦めろ」と暴言を吐かれた子も多くいます。

中には、親が入管職員に暴行されるのを目撃し、心に深い傷を負った元仮放免の大学生もいます。入管から謝罪は一度もありませんでした。

ある子どもは「子どもなのに早く大人にならなければならなかった」と話しました。仮放免の子どもたちは、親の通訳や世話をする「ヤングケアラー」の立場に立たされ、家族を支え、地域に貢献しながら、人一倍の努力を重ねてきました。

「将来は助産師になりたい」「保育士になって社会に恩返ししたい」「自分と同じような境遇の人に、夢と希望を届けられる大人になりたい」。そんな夢を語る子どもたちがいます。

いつ強制送還されるかわからない恐怖に縛られながら、進学を目指して日々勉強に励んでいます。

もし、「非正規滞在であること」が「ルールを守らない」ことだとするなら、仮放免の子どもたちは、生まれながらにして「ルールを守らない存在」だというのでしょうか?

彼らは自分で国境を越えてきたわけではありません。

それなのに犯罪者のように扱われ、未来を絶たれようとしています。これは国家の不作為が生んだ結果ではないでしょうか。

日本は子どもの権利条約、難民条約、国際人権規約に批准しています。それでもなお、子どもを収容し、親と引き離し、家族をバラバラにし、教育の権利を奪い、強制送還しています。

条約を踏みにじるこの国の姿勢そのものがルールを守っていないんじゃないでしょうか。

非正規滞在というだけで、人生を壊すのはあまりにも非人道的です。国家がやっていいことではありません。

この子どもたちの生きる権利、学ぶ権利を守るためにも、在留特別許可、在留資格を出すべきなんです。子どもの権利は、国籍や在留資格に関係なく、すべての子どもたちのものなんです。未来を奪うのではなく、共に生きる社会をつくりましょう。11月7日に参議院会館講堂で院内集会をやります。当事者の子どもたちの声を聴いてください!

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