
安倍晋三元首相銃撃事件で殺人や銃刀法違反の罪に問われている山上徹也被告の初公判が10月28日に開かれ、裁判が続いています。2022年7月の事件によって、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との癒着が一定程度暴かれました。自民党は党内点検を実施、同年10月、今後は関係を断つと発表しました。当時は旧統一教会への多額の献金、厳しい教義による宗教2世への虐待など、被害者問題への関心も高まったものの、その後、具体的救済策が講じられたとは言いがたい状況が続いています。被害者たちはいまだに深刻な問題を抱えたままです。
一方で今年6月に新政権となった韓国では、特別検察によってようやく旧統一教会の首脳部に対し本格的な捜査が始まりました。総裁の韓鶴子(ハン・ハクチャ)被告を政治資金法違反罪や業務上横領罪などで起訴しました。
10月半ば、韓国の調査報道独立メディア・ニュース打破が、旧統一教会問題の取材のため来日しました。同行取材をした生活ニュースコモンズの記者は、過度な献金によって被害を受けた元信者や宗教2世など3人の方にお話を伺いました。弁護士や専門家らの解説・意見も交えて紹介します。
献金被害者・元信者:川野美子さん(仮名、62歳) の証言
10年前に夫を亡くし、現在は息子夫婦と孫と暮らす。自宅でパン教室を開いたりカリグラフィーを教えたりしている。
Q:旧統一教会に入ったのはいつ、どんなきっかけでしたか?
2009年の6月でした。当時、夫が経営する会社に勤めていたんですが、ある日、会社のポストに、姓名判断の案内ハガキが入っていたんです。ちょっと興味があったので、ハガキにあった連絡先に電話しました。
後日、言われた場所へ行き、姓名判断をしてもらったら、印鑑や数珠の購入を勧められました。勧められるままになんとなく数珠を購入しました。夫とうまくいくとか言われて……。数日後出来上がった数珠を受け取り、40万円を渡し、これで終わりかと思っていたら、後日、担当者から電話があって、今度は先祖の流れに興味はないかと訊かれました。興味がなくもなかったので、またオフィスを訪れました。オフィスはマンションの一室で、ブースで区切られていて、隣から音はしましたが、隣室の人には一度も会ったことはありませんでした。
先祖の悪霊に関する怖い内容のビデオを見せられました。交通事故に遭って病院にいる人の周りには家族が集まっていて、その人の霊がふわっと出てきて子どもに乗り移り、その子が悪い行いをする、このように悪いことはどんどん繋がっていくということを描いたビデオでした。
次に、家系図を作りませんかと言われて、役所に戸籍謄本を取りに行ったりしながら、週1回はそのマンションの一室に行き、ビデオを見てその感想を言ったり、先祖の流れなどを勉強させられたりしました。先祖が犯した罪は代々繋がっていくとか。一年くらいかけて家系図を作りました。家系図作りの費用は3000円くらいでした。毎回、私一人に対し、メインでお話する人は男性で、傍らに女性の霊能者がいました。
再臨主(キリスト教において、昇天したイエス・キリストが再び地上に現れることを指す)を通さないと天国に行けないと言われていました。一年経って初めて、私たちは統一教会ですと言われたんです。統一教会と言えば、すぐ(入信した歌手の)桜田淳子さんが浮かび、とても驚きましたが、その時はすでにマインドコントロールというか、そこから抜けられない状態でした。
Q:統一教会とわかってからは?
近くの教会を教えてもらい、祈りの勉強したり、何かしっくりいかないとは感じたりもしましたが、来なければならないと言われ、行かなければ子孫にも悪い影響が出てくると言われ続け……そんなふうになったら怖くて、通っていました。頭の中にはいろいろな考えが浮かびましたが、結局、2010年秋に入信しました。
その前に壺を買いました。壺を家に置いておけば、悪霊が壺に入り、それは韓国の京畿道(キョンギド)にある清平(チョンピョン)1にいくので大丈夫と言われて、200万円で買いました。
その後、壺はペアでないと意味がないと言われ、もう1個を100万円くらいで買いました。書物(経典)を家に置いておくと安泰します、買わないと怖いことが起きると言われ、怖いので150万円で買いました。一旦断ったんですけど、教会長の妻が家まで来たりして、恐ろしくて買うしかなかったんです。今考えるとバカみたいなんですが、その時は無我夢中というか……。
「先祖解怨」(かいおん)2といって、私と夫の先祖をどんどん遡っていきます。1回ごとに5万円くらいだったか金額が決まっていて、納めれば解放されると言われて払っていきました。母方父方両方やらなくてはいけなくて金額はどんどん増えていきました。私はわけがわからなくなってしまって、言われるがままにお金を出して合計約140万円くらいになりました。
2012年夏に夫がガンにかかって、その時もお金を出せば良くなると言われ、100万円を持って教会へ行って、教会長と一緒にお祈りしました。亡くなった後は、亡くなった方の霊を入れる小さな家の形をした善霊堂を70万円で買いました。
物品購入の他に、教会へ行くと、毎月自分の収入の1割を献金しなさいと言われました。
Q:献金はどのように旧統一教会に渡したんですか?
最初の頃は現金を包んで渡していました。2015年頃からか振り込みになりました。先祖解怨は日本のメガバンクに作られた口座「カ)ウリイ銀行」に振り込んでいたので、韓国に直接送金されていたと思います。
最初の頃は日曜の礼拝には行きましたが、だんだん行かなくなって……10年くらい経ちました。
2022年7月、安倍元首相殺害事件が起きた後、「法テラス」を通して弁護士に無料相談し、弁護士を通して退会と献金約1200万円の返還を求める文書を旧統一教会に出しました。3
Q:旧統一教会は何と言いましたか?
旧統一教会側は10年間の献金のトータルな金額は認めるが、献金として受け取っただけだと文書で弁護士に連絡してきました。
Q:布教や他の信徒を誘うように言われたことはありますか?
ありました。その時は兄のお嫁さんを連れて行ったことはありました。友だちを誘ったことはありせん。
Q:統一教会から退会された後は家族や周りの人との関係はどうでしたか?
家族は何も知りません。話した知り合いもいましたが、詳しくは話していません。弁護士に相談したとだけ言いました。家族もちょっと気づいているかもしれませんが、口には出しません。
今思うと、大事なことはやっぱり相談しないといけないなって思います。莫大なお金ですから。相談しなかったことは反省しています。1人で解決しようとしたことについて、自分を責めてもいます。
Q:集団調停を東京地裁に申し立てているそうですが、申し立てをしている他の被害者の方たちとは繋がっていますか?
私は被害者団体には入っていないです。でも、もし独りで悩んでいる方がいれば救いたいと思っています。すぐに解決はしないけれども、一人でも一歩前に出てくださればいいなって。まだまだ自分の中に秘めている人はたくさんいるのではないでしょうか。
Q:日本政府や政治家は献金被害者たちにどんなふうに対応していますか?
文化庁がヒアリングをしてその報告書をくれただけです。
献金被害者たちに対する社会からの視線は、バカなことしたんじゃないの? 宗教にのめり込みすぎたがために起こったんだろうというもので、自分の責任だと思われているように感じます。
政府にはもっと動いてほしいです。被害者を救済し、間違ったことを正していってほしいです。
韓国で捜査が進んでいると聞きますが、今までの日本からの献金がどういうふうに使われているのか、明確にしていただきたいです。
- 旧統一教会の「聖地」とされる。信者が祈祷や研修などを行う施設がある。 ↩︎
- 「先祖の霊の苦しみ解き、天国に送る」、献金しないと「子孫に悪さをする」と言われ、先祖を遡って供養のための献金を出させる。 ↩︎
- 全国統一教会被害対策弁護団は、教団に対し、損害賠償や慰謝料総額約73億円を返還するよう求め、被害者による集団(223人)で東京地裁に申し立てた。当初、弁護団は集団交渉を申し入れたが、教団側が応じず、2023年7月31日から4次にわたり、調停に移行した。川野さんは第1次集団調停となる。 ↩︎
全国統一教会被害対策弁護団・阿部克臣弁護士に聞く

「全国統一教会被害対策弁護団」は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)および関連グループからの霊感商法、献金被害、家族被害等の被害に対し、被害の予防、救済および根絶を図るため、統一教会や同法人を運営する者・関係者に対する民事訴訟提起など法的手続、責任追及などを行うことを目的としています。現在350名を超える弁護士が所属しています。事務局次長を務める阿部克臣弁護士に話を伺いました。
Q:今年10月2日、損害賠償や慰謝料を求め東京地裁に集団で申し立てた調停が、初めて成立しました。教団側が元信者ら3人に計5000万円超を支払うということですね。これを含め、現在進行中の調停についてお聞かせください。
10月2日は3名の80代女性被害者について、計約5400万円を支払うとの調停が成立し、27日にはさらに39名の高齢被害者などについて計12億8900万円を支払うとの調停が成立しました。しかし、調停の申立人はまだ180名以上残っており、弁護団としては早期に調停成立を目指す方針です。
さまざまな被害者がいるのですが、80歳以上の方は特に早期の救済の必要性が高いと考えて、緊急解決事案と呼び取り組んできました。これを一度に調停成立させるのは難しいので、まず3人について今年の春から裁判所で教団側と話し合いをしてきました。27日の調停成立で、この日に新たに調停申立てをした高齢被害者の分を除けば、緊急解決事案については全て調停が成立したことになります。
また、この調停成立が報じられた後、新しく調停申立てをしたいという当事者、家族、2世も出てきています。
2世被害者については、7月に8名の2世が統一教会を相手に提訴しましたが、追加提訴も考えており、訴訟での解決を目指す方針です。

Q:教団側がこれまでの強硬な立場を変えたのはなぜでしょうか?
今年3月に東京地裁で旧統一教会の解散命令決定が出て、教団側は即日控訴をしましたが、高等裁判所で覆る可能性は低く、また、その他の裁判でも旧統一教会の敗訴が続いており、これまでの強硬な主張一辺倒では通用しないと考えた可能性があると思います。また、韓国で韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が逮捕・起訴されたことも影響しているのではないでしょうか。
Q:調停を申し立てるにあたって、被害額はどのように確定するのでしょうか?
まず、被害者ごとに担当弁護士が付きます。被害者による損害額を元に、被害者と弁護士で何度も打ち合わせして損害額を整理し、それを裏づける証拠も確認して教団側に請求します。
そもそも教団側への支払いは現金で、ほとんどの場合、領収証などはありません。ですので、残っている物品や通帳の記載など間接的な証拠と照らし合わせながら、損害額を探るしかありません。
教団側はいくら献金を受けたかは把握しています。献金額によって表彰したりしているからです。ですから教団側には献金記録があるはずなので、その記録を出してほしいと調停で何度も言っているのですが、決して出しません。
Q:日本の旧統一教会の財産規模はどれくらいですか?
今年3月に東京地方裁判所は旧統一教会に対して宗教法人法に基づく解散を命じる決定をしました。その決定によると、2022年3月末時点の教団の総資産は約1181億円とされています。
Q:2022年12月に「不当寄付勧誘防止法」ができました。マスコミではいわゆる「被害者救済新法」としていますが、被害者救済に役立っているのでしょうか?
正式名称は「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」ですが、要件が厳しく、被害者救済の現場ではほとんど使われていません。
たとえば、4条6号では「重大な不利益なことを回避するためには、寄付をすることが必要不可欠な旨を告げる」ことが要件になっています。
しかし、教団側はそういう言い方はしません。統一教会であることも宗教であることも明かさず、霊界の恐怖などのビデオを見せて、まず教義を教え込む。頭に入った後、宗教であることを告げる。だからなかなか抜けられない。その時点では世界平和のためと言われれば献金するようになってしまっているんです。
また、「個人を困惑させてはならない」という要件があるのですが、教団は最初に教え込んで判断基準を変えているので、本人は困惑していなくて、喜んで献金している形になっているんですよ。そこでも要件には当たらないんです。
Q:旧統一教会のホームページには、裁判件数について、「2009年3月のコンプライアンス宣言により教会改革が進み、献金裁判は急減しました。宣言以降2016年3月までの7年間で4件ありましたが、16年3月以降はゼロとなっています。」とし、「献金に関しては2016年以降は裁判もなく」なっているとしています。2016年以降、訴訟がゼロだと書いてあるんですが……。
数字や表は欺瞞です。本当はゼロじゃないのに、あたかもゼロであるかのように出しています。ホームページにある図の左下に非常に小さな文字で「最初の出金行為の時点」と書いてあります。最初の時点を基準にしており、その時点ではまだ被害者は入信中であるため、訴訟は起こしません。訴訟を起こすのは、被害者が脱会した後、被害に気づいて弁護士に相談することが必要ですが、それまでには長い時間がかかります。2016年の時点で信者だった人が訴訟を起こすのは、これからなのです。
全国霊感商法対策弁護士連絡会は 2023年9月30日、「旧統一教会の解散命令請求を目前に控えて」と題して声明を出しています。2009年以降も、旧統一教会に対する献金裁判は少なくとも14件が存在する(2023年時点)のに、あたかもゼロであるかのように見せていることがわかります。
Q:最近、韓国の捜査機関は、旧統一教会の政治癒着について調べています。 韓国の捜査について、公開など望むことはありますか?
日本政府と旧統一教の関係について、韓国の捜査当局が解明しようとしていることと同じことを、日本でもやってもらいたいと思います。日本では、山上徹也被告による安倍元首相銃撃事件後、政治と教会の癒着、特に自民党との癒着が明らかになり、マスコミも大きく取り上げ社会的な批判も寄せられました。
しかし、それに対して自民党は自己点検(党内アンケート調査)、ガバナンスコードを策定して将来に向けて関係を断絶すると言っただけでうやむやにされています。本来、第三者委員会などを作り、過去にどんな癒着があったのか、徹底的に明らかにすべきです。それがされていない。教祖や政治家まで逮捕して一定の解決まで導こうとしている韓国の姿勢は、この点において見習うべきだと思います。
今後特に、旧統一教会における日本と韓国の関係を解明して公開してほしいです。日本からの資金の流れ、日本法人への指示、日韓両組織の実態、日韓両組織による違法・不正行為の内容など、日本に関する点も含めての捜査と公開を望みます。日本の被害者の救済につながる可能性があると思うからです。
【電話相談】
全国統一教会被害対策弁護団
03-6261-6653
10時30分から~15時30分(月~金)
ホームページからメールでの相談もできる。
全国霊感商法対策弁護士連絡会
相談電話:火曜070-8975-3553
木曜070-8993-6734
相談時間:11:00~16:00
reikan@mx7.mesh.ne.jp
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