〈旧統一教会被害は終わっていない〉③ 「私たちは覚悟を決めて、批判的に付き合うしかない」 宗教社会学者の櫻井義秀さん(北海道大学教授)に聞く

記者名:
宗教社会学者の櫻井義秀さん(北海道大学教授)。2025年10月21日、オンラインで

旧統一教会に詳しい宗教社会学者の櫻井義秀さんに、宗教被害、被害者救済について聞いたよ

櫻井義秀さんは、30年来、旧統一教会問題を研究・批判しつつ、脱会者・元信者の人がどのようにして回復していくのかを考察してきました。
係争中の安倍晋三元首相銃撃事件裁判にも出廷し、意見陳述を述べました。
旧統一教会被害の何が問題か、被害者救済のためには何が必要なのかなどお話を伺いました。

Q:旧統一教会が他の宗教団体と大きく異なる点をいくつか特徴を挙げながらお話ししていただけますか?

旧統一教会が他の宗教団体と大きく異なる点は、高額献金と霊感商法です。そもそも日本の植民地支配に対する贖罪として、日本から人材と金銭を韓国の旧統一教会本部に送ることで教団は成り立っているんです。

問題の一つ目は、日本人女性信者約7000人が国際合同結婚で渡韓し、韓国人男性と結婚していることです。韓国人男性の大多数は特段信仰もなく、なかなか結婚に恵まれない人が多い。つまり、旧統一教会は韓国において結婚ブローカーのような役割を果たしています。日本人女性が韓国に渡っていることが一番大きい問題だと私は思っています。

問題の二つ目は、金銭的な貢献です。日本でかつて霊感商法と言って、高麗大理石や高麗人参、さまざまな宝飾品などを原価の10倍以上で売っていました。例えば、壺200万~300万円、弥勒像500万円台とか。このような霊感商法に対しては1980年代後半から各地で訴訟が起きました。消費者被害としてクローズアップされた結果、一般市民対象にこうした物を売るのは消費者保護関連法違反であるとして、できなくなりました。ですので、正体を隠した勧誘によって新たに信者にした後に、物を買わせるようになりました。献金の場合は、宗教的な付加価値に対して、信者がお金を払うわけですから……。

Q:元信者被害者の話を聞いていると、女性信者が多く、献金を集めるのも女性が多いと聞きました。

伝統宗教でも新宗教でも、基本、幹部はほぼ男性、信者は7割くらいが女性です。女性信者が多いという背景には、子ども、親、配偶者などケアの役割を負わせられているという面があると思います。自分のことだけではなく、人のことを心配する人が多い。そこをうまくついてくるのが旧統一教会なんです。

さらには、日本と韓国の関係が、ジェンダー的観念を媒介して、日本の植民地支配に対する恩讐に報いるためにエバ国家(母の国)の日本がアダム国家(父の国)の韓国に侍る(従う)ことが求められています。

Q:今年(2025年)3月、東京地方裁判所は旧統一教会に対して、宗教法人法に基づく解散を命じる決定をしました。その決定によると、22 年度末時点の教団の総資産は約1181億円です。教団側は即時抗告し、現在、東京高裁で審理が続いています。仮に解散命令が出ても解決されずに残る課題はあるのでしょうか?

宗教法人が解散されたとしても、他団体に財産を移行すれば、何の問題もないのではないでしょうか。

旧統一教会は、一宗教法人ではなくて、韓国では小財閥です。韓国でも日本でもさまざまな企業や社会活動団体を持っています(図参照)。

また、韓国でも日本でもいざという時、自分たちを助けてくれるように政治家とのパイプづくりをずっと続けています。そもそもは「国際勝共連合」(〈共産主義に勝つ〉ことを掲げ、反共産主義を目的とする政治団体1)が保守政治家に取り入る活動をしてきたのです。

ただ、解散というのは、宗教団体としての信用性に関わるので、旧統一教会としてはこの問題を非常に重要視しています。私は解散には教団を非公益的な団体と判断したという象徴的な意味があると思っています。

しかし、実質的に、解散によって被害者の権利回復がなされるわけではありません。被害者は、自分の被害を法的に確定しなければならないのですから。被害者がいくら1億円寄付したと言っても、それを法的に証明しなければならない。そうしなければ、旧統一教会の残余財産から1億円を受け取ることはできない。この辺りが巧みですよね。証拠を残さない形にしていたり、念書を作って公証役場に預けさせたり……つまり自発的だとしているんです。

Q:自民党と旧統一問題の癒着について、2022年の事件以降、自民党は党内点検を実施、今後は関係を断つと発表したにとどまり、きちんとした追及がされたとは言えません。宗教と政治の癒着問題についてどうお考えですか?

日本でも韓国でも政治家との癒着は問題にはなっていますが、韓国社会は日本よりもある意味で道徳的で、はるかに厳しいので、どんな権力も必ず批判される。それは政治家に緊張感をもたせるし、国民にとってはずっと利用されてばかりではないという意味があるように思います。

ところが日本では自民党が党内点検し、今後やりませんと発言しただけにとどまっています。日本は自民党一党独裁のようで、要するに批判もなければ断罪もありません。

例えば、なぜ安倍晋三さんが旧統一教会をサポートしたのかという点は謎ですよね。しかし、日本のメディアはこれを謎とは思わない。なぜジャパンナショナリストの安倍晋三さんがコリアナショナリズムの旧統一教会を応援するんですか?

右翼の大立て者といわれる笹川良一氏や安倍晋三元首相の祖父である岸信介元首相などと太いパイプを持っていた国際勝共連合は、80年代末の冷戦体制終結により、反共を掲げることにリアリティがなくなりました。その後はトランプ大統領が批判しているDEIポリシー2ジェンダーフリーなどを叩く側に回り、自民党の保守的国家観や家族観にすり寄る形で組織の使い勝手をアピールしてきたのです。

Q:2022年12月、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(以下、「不当寄附勧誘防止法」) ができました。マスコミではいわゆる「被害者救済新法」と報道しています。韓国の報道も日本の報道を引用しているので、被害者を救済している法のように受け止めているメディアが多い。実際、被害者救済に役立っているのでしょうか。

全く違います。これは被害者を救済するための法律ではありません。要するに、自民党が野党と協議しながら救済新法を作るというパフォーマンスにメディアが呼応して、「被害者救済新法」だと報道しているのです。

「不当寄附勧誘防止法」はあくまでも宗教団体が寄付金(布施・献金)などを新規に募る際の規制を定めたものです。これまで起こった被害を回復するものではありません。「被害者救済新法」という報道の仕方を変えなければなりません。自民党政府は被害者に対して立法レベルでは何もしてない。被害を訴える人たちには、「法テラス」に相談してくださいとだけ言っているだけです。

Q:今回、被害者の方たちから直接話を聞いて、問題は解決していなくてむしろ、被害者が放置されているのではと感じることもありました。もちろん弁護団の方々が金銭的被害について長年取り組んでいるわけですが、さまざまな要因が複雑に絡み合う旧統一教会の被害者救済のために必要なことは何でしょうか 。

弁護団は40 年近く、被害者救済に取り組んでいます。私も30 年近く、旧統一教会問題を研究し、批判的な論文や書籍を書いてきました。

しかし元信者や2世の人たちから見ると、「抜けろ」と言われても行き先がない、話を聞いてくれる人がいないということになります。今必要なのは、相談相手です。ただ、話を聞いて慰めてくれるようなカウンセラーではないと私は思います。なぜなら教団に騙されて入るという側面もありますが、その後の行動についても受動的にさせられている面もあるからです。メシアが決めてくれるので、自己決定しなくて済むという側面です。

人と交際しながら自分一人で決めていってもいいんだと、相談しながら気づかせてくれるような人が必要なんです。時には「あなたにはこれが足りないよ」とも言ってくれる友人が必要なんです。

社会の根本的なことを知らずに教団に入ってしまう人も多い。だからもう一度、リハビリの中で再学習しなければなりません。元信者や2世の人たちは自分の足で立つにはどうしたらいいのかを考えていってほしいです。

私は臨床心理士と研究者、カウンセラー、元信者や家族の方々の協力のもと『カルトからの回復:心のレジリアンス』(編著、北海道大学出版会、2015 年)を書きました。レジリアンスとは、もともと「はね返す」という意味ですが、「一方に傾きすぎた体勢を立て直す回復力」というより広い意味でも使われます。本書は脱会者・元信者の人がどのようにして回復していくのかを考察しました。脱会者・元信者や関係者たちがつくる自助グループの大切さも強調しています。カルトからの回復は数年でできるものではなく、ライフワークとして取り組むことが必要だと思います。

Q:日本市民が旧統一教会被害について、知らなければならないことはなんでしょう?

私は、旧統一教会の法人が解散されたとしても、なくならないと思っています。宗教法人が解散されても、他の団体に所属できる。旧統一教会は合同結婚をして2世信者たちも多いのです。この宗教は、家族のつながりが強いんです。ですから、旧統一教会の信者は4、5万人規模でこの先20~30 年は続くでしょう。

メディアも含め、どうしたら問題解決するのかをよく訊かれますが、解決しないんです。だからこそ覚悟を決めて、この問題について私たちは批判的に付き合うしかないんです。

  1. 国際勝共連合は、1968年1月13日、統一教会の創設者、文鮮明により大韓民国で設立された。同年4月1日、日本では右翼政治家・笹川良一を名誉会長とし、自由民主党初代幹事長・岸信介(元首相)、右翼運動家・児玉誉士夫らが発起人となり、同名の団体が設立された。笹川と岸は戦後、A級戦犯の容疑で巣鴨拘置所に収監されていた。笹川は財団法人 日本船舶振興会(のちの公益財団法人 日本財団)を創設。勝共連合は、自民党・岸らが目指していた「国家秘密法(スパイ防止法)」の制定運動を拡大し、86年の衆参ダブル選では自民・民社などの候補者を支援した。岸は安倍晋三元首相の祖父。 ↩︎
  2. DEIとは、Diversity(ダイバーシティ、多様性)、Equity(エクイティ、公平性)、Inclusion(インクルージョン、包括性)の頭文字をとった言葉。多様な人々が互いを尊重し合い、一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮できる組織や社会を目指す考え方。 ↩︎

櫻井義秀(さくらい・よしひで)
1961年山形県生まれ。宗教社会学。北海道大学大学院文学研究科教授。
著書に、『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010)、『統一教会:性・カネ・恨から実像に迫る』(中公新書〔中央公論新社〕、2023)、編著『カルトからの回復:心のレジリアンス』(北海道大学出版会、2015)ほか。

『統一教会:性・カネ・恨から実像に迫る』
『カルトからの回復:心のレジリアンス』

【電話相談】
全国統一教会被害対策弁護団
03-6261-6653
10時30分から~15時30分(月~金)
ホームページからメールでの相談もできる。

全国霊感商法対策弁護士連絡会
相談電話:火曜070-8975-3553
     木曜070-8993-6734
相談時間:11:00~16:00
reikan@mx7.mesh.ne.jp

宗教2世ホットライン
「今」助けを必要としている2世たちへ。悩んでいる2世を応援したい2世がボランティアで記事を投稿したり、当事者が気持ちや経験を伝える情報共有サイト。

連載は続きます。



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