「次の国会で議論されるから」「本格的な論戦を期待したいね」
介護保険、生活保護、貧困女性、原子力、防衛・安保、被災地支援、選択的夫婦別姓――。この数カ月間に生活ニュースコモンズで取り上げてきたテーマは国会で議論されることを前提に取材してきたものばかりだ。1月には待ちに待った通常国会が始まるはずだった。だからこそ、与党がこの期待を冒頭から解散で覆すという暴挙に出たことに対して、驚きのほか怒りすら覚える。何をそんなに慌ててやる必要があるのか。
「大きな政策転換」を求めるため?
1月19日夕方に行われた記者会見で高市早苗首相は「大きな政策転換」を求め、与党過半数を当選ラインに掲げた上で、総理大臣の進退をかけると語った。
選挙の結果によっては、公明・立憲民主が合体して立ち上げた「中道改革連合」の野田佳彦と斉藤鉄夫のいずれかが首相となる可能性をちらつかせた。もしそうなれば、自分が中心となって作った予算案を審議することもなく、他人に任せるつもりでいるのか。国民の信託を受けた行政の長として無責任極まりない行動と取られても仕方がない。
高市首相は「自分たちで未来を作る選挙」と言い切るが、果たして、その「自分たち」に有権者である「私たち」は含まれているのか疑問だ。
誰もが公平に参加できる選挙なのか
この真冬のドタバタ選挙の話が出てきた際に真っ先に思い浮かんだ懸念は、国会で来年度予算案の実質審議期間が短くなる可能性が高くなるということだ。
1月27日に告示、2月8日に投開票。その後の国会のスケジュールはどうなるのだろうか。来年度の予算案の作成時に議論の輪に入りチェックした議員、法案作成に関わった議員の中には落選する人も出るだろう。その議員たちは国会での議論を踏まえて、関わってきた私たちの代表だ。
次に浮かぶ懸念は、誰もが公平に参加できる選挙かどうかということだ。一年で最も気温が下がるこの時期に選挙を行うことは、とりわけ雪国ではさまざまな支障が生じる。不要不急の外出を控えるようにと呼びかけられるような寒波の中では、不在者投票すらもままならないだろう。選挙権を得たばかりの18歳、高校3年生は大学受験などのシーズンと重なり、じっくりと初めての選挙に向き合うことすら許されない。在外投票や点字投票の実施も危ぶまれている。

「民意を問いたい」というが、問うべき各政党の政策をきちんと吟味する時間も材料もなく、争点も見出せないまま、追い立てられるように選挙をさせられる。
誰のための、何のための選挙なのか? 困惑する有権者を納得させることはできないだろう。
高市首相の「国民の皆さんとご一緒に」というフレーズが薄っぺらく聞こえる。
「国論を二分する政策の変更」を首相が独断で行う危険性
また、高市首相が「国論を二分する政策の変更」があることを打ち出し、「重大政策」を「批判を恐れず果敢に挑戦したい」と言い切ったのにも驚いた。高市首相の「重大政策」と、私たちが考える「重大政策」との間にズレを感じている。
「経済政策の大転換」「強い経済」「予算のあり方を変えて緊縮財政を止める」「国家情報局の設置」「低所得者の手取りアップ」「社会保障税一体改革」「スパイ防止法」「経済安保」——記者会見で羅列された政策は今すぐ選挙をしなくても、国会審議と議決を経て推進できるものだろう。いうなれば、今回の解散総選挙は究極の議会制民主主義の軽視である。
高市首相はまた、「皇室典範の改定」「憲法の改正」にも取り組みたいと意欲を示したが、一度の選挙で信任を得ただけで、長年の課題に即解決をつけられるというのであれば、それはポピュリズムに基づく専制にほかならない。
「批判を恐れず挑戦する」「安定した政治基盤と、明確な信任がないと実現できません」という発言は聞こえがいいが、選挙をやって与党で過半数をとった後は、「私の好き放題にやりたい」という独裁的な指向の表れとも見える。
食品の消費税撤廃だけでは抜本的な対策にならない
高市総理は会見で、物価高回避のため、2年間限定で低減税率の飲食料品について消費税を撤廃すると掲げた。デフレが進み、コロナ禍明けの世界的な賃金上昇に遅れをとる中で、物価高はとどまるところを知らない。確かに何らかの対策が必要だろう。しかし、食品の消費税撤廃はそれだけでは抜本的な対策にならない。極端な円安、長期金利の上昇により輸入に多くを頼る食料品の価格はさらなる上昇も見込まれる。農業政策に加え、社会福祉政策、労働政策の底上げをしなければ、国民の負担増に基づく不満感は解決し得ないだろう。
高市首相は、経済政策の強化を連呼したが企業側、雇用者側、競争力強化の視点のみで語られ、労働者、失業者、生活困窮者というキーワードはついぞ出てこなかった。
能登半島を始めとする災害被災地への言及もなかった。

裏金問題に端を発した企業・団体献金の禁止は緒にすらついておらず、旧統一教会と国会議員の関係についての精査も済んでいない。むしろこうした不祥事を隠すための選挙ではないのかという疑いも生じる。
「中道改革連合」も有権者不在の判断
有権者無視の無謀な選挙に大義を見出そうとする与党の姿勢にも失望するが、野党側の解散総選挙への批判の声が少ないことも残念でならない。
ドタバタ騒動の中で保守政党「公明党」とリベラル政党「立憲民主党」がスルスルと合体し、中道改革連合となったが、かつての大政翼賛会に連なりかねない危険性について注意喚起しておかなければならない。入念な議論もなく、私たちのよく見えないところで、私たちの代表が政治的思惑から離合集散をするようになってはいけない。また政党内の反対の声は拾えているのだろうか。このような強引さもまた、独裁的で暴力的に見える。とりわけ立憲民主党が結党以来掲げてきた「安保法制は違憲」「脱原発社会を目指す」という旗を下ろしたことは、支持者の立脚点を掘り崩すことに他ならず、「現実路線」などとして容認することは到底できない。有権者不在の判断という点で、与党の国会冒頭解散選挙の暴挙と同質に見える。

「未来を切り開く私たち」とは誰か
高市首相は、3年前に奈良の近鉄大和西大寺前で銃撃され死亡した安倍晋三元首相の言葉を打ち出して、会見を締めくくった。
「困難はもとより覚悟の上です。未来は他人で与えられるものではなく、私たちが自ら切り開いていくものです。挑戦しない国に未来はない。守るだけの国に希望はありません」
「私たち」という言葉を、永田町の「私たち」だけに終わらせてはならない。永田町の論理を離れ、この国の主権者としての「私たち」を取り戻しに行く。それが今回の選挙である。

