《2026衆院選 私の論点①》原発政策——有権者のための3つの論点 まさのあつこさん

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高市首相の原子力政策は希望的観測とフェイクの典型例。真偽を見極める目を持とう

2026年衆院選にあたり、生活ニュースコモンズは投票の判断材料として寄稿とインタビューで、「私の論点」を掲載します。1本目は福島第一原発事故から15年が経ち、データ不正や再稼働失敗に揺れる原発政策について。フリーランス・ジャーナリストのまさのあつこさんにご寄稿をいただきました。

選挙を有権者が原発問題を検証する機会に

突然の解散で2月8日が衆議院議員選挙の投票日となった。この選挙を、有権者が原発問題を検証する機会にしたい。理由は二つある。

第一に、東京電力福島第一原発事故から15年が経とうとしているにもかかわらず、事故の責任の所在が曖昧なままだからだ。16万人以上が避難を余儀なくされた原発事故について、誰が責任を取り、二度と同じ過ちを繰り返さないために誰が責任を持つのかが、明確にされていない。

第二に、原子力に関する希望的観測やフェイク情報を経済産業省(以下、経産省)が大量の情報に紛れ込ませ、それを”知識人”が流布し、政治家が幻想をふりまいている状態だからだ。

本稿では、この2点に加えて、与党として原発を推進してきた公明党と、原発ゼロを求めてきた立憲民主党が結成した「中道改革連合」の原発政策についても整理したい。

論点1:「新規制基準適合」は安全の保証ではない

福島第一原発事故の責任を誰も取ってない。東京電力旧経営陣の刑事責任を問う裁判では2025年3月、最高裁判所が無罪判決を下した。民事責任を問う株主代表訴訟でも2025年6月、東京高裁が原告(株主側)を敗訴させている。最高裁の判断が待たれる。

一方、2013年に過酷事故対策などを加えた「新規制基準」ができて以降、原子力規制委員会は一貫したスタンスを保っている。初代委員長の田中俊一氏が初の再稼働時に述べた「原子力規制委員会は基準の適合性審査を行うだけで、安全とは申し上げない」という姿勢は、現在も踏襲されている。

ところが、経産省は「世界でもっとも厳しい水準の新しい規制基準」(経産省HP)だと豪語し、推進派議員は原子力規制委員会の姿勢を見てみぬふりをしている。

ほんの一例が、1月19日、衆院解散について演説を行った高市首相の記者会見だ。公益通報で明らかになった浜岡原発の耐震性に関するデータねつ造と、それを見抜けなかった規制のあり方について質問され、高市首相は、前代未聞の事件であるにもかかわらず、まるで何事もなかったかのように「原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、地元のご理解を得ながら再稼働を進める」と従来の姿勢を変えなかった。

これはつまり、

  • 原子力規制委員会は安全性を担保しない
  • 政府は原子力規制委員会と地元の判断に再稼働を委ねる
  • 何かあっても、誰も責任を取らない

という構図だ。この責任の押し付け合いが抱えるリスクを背負わされているのは国民だ。

しかし、国民には(住民)には再稼働に関する決定権は与えられていない。

投票行動の前に、どんな判断材料が与えられているのか、与えられていなければ何をどう問うべきなのか。思考することでしか、選挙権は活かせない。

国道からジグザグ道を降りた先に立つ伊方原発(愛媛県、四国電力)。佐田岬半島の付け根にあり、半島から先は、陸の孤島状態の集落が津々浦々にある。住民は過酷事故が起きれば、陸路では原発前を通って避難。津波が来れば船は使えない。(2024年1月23日筆者撮影)

論点2: 原子力政策をめぐる3つのプロパガンダ

高市首相の会見での演説は、原子力政策に関する希望的観測とフェイクの典型例だった。首相はこう述べた。

「ペロブスカイト太陽電池の普及、小型モジュール炉など次世代革新炉や日本企業の技術が優位性を持つフュージョンエネルギーの早期社会実装。冷媒適用技術や光電融合技術などによる省エネ型データセンターの普及、酸化物型全固体電池の社会実装など、日本の強みをいかさなければ、もったいない」

首相がここで散りばめた技術用語は、すべて開発中の技術であることは間違いない。しかし原子力に限って言えば、「早期社会実装」できるものは何一つない。

「フュージョンエネルギー」(核融合)を例に取ろう。業界が検討しているのは「原型炉」の段階だ。経産省資料によれば、その開発は2050年までに可能かどうかというもの。その後「実証炉」「商用炉」へと進む必要があり、「早期社会実装」は夢物語に過ぎない。「小型モジュール炉」は米国でも燃料調達面で難航中だ。「次世代革新炉」と言っても、業界が考えているのは現世代の原発に毛が生えた程度の設計に過ぎない。

原発は安くない、再エネは高くない

高市首相が語る原子力の未来は、きらびやかな幻想でしかない。

プロパガンダ①「原発は安い」

原発推進界隈では長年「原発は安い」というプロパガンダが流布されてきたが、2025年2月に閣議決定したエネルギー基本計画以降、もはやこの主張は成り立たない。

経産省は2040年の電源構成として、再エネ4〜5割、原子力2割、火力3〜4割を見込んでいる(2025年2月「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」29頁)。その場合、1kWhあたりの発電コスト(新規建設)は以下の通りだ。

  • 太陽光:6.6〜8.4円
  • 陸上風力:7.6〜10.4円
  • 洋上風力:9.5〜10.1円
  • 原子力:11.2円〜(上限なし)

原発はもはや安くはない(2025年2月「発電コスト検証に関するとりまとめ」5頁)。

プロパガンダ②「再エネは高い」

もう一つの巧妙なプロパガンダが「再エネは高い」である。新規参入者である再エネ事業の促進のために賦課金を電力料金に上乗せすることになり、2016年以降の電力完全自由化で、このプロパガンダが本格化した。

しかし実態は異なる。高度経済成長時代から一貫して、原発や火力発電には事業に必要な費用を電力料金に上乗せできる「総括原価方式」が続いている。経産省は自由化後もこれを「規制料金」として「経過措置」で温存している。そうしなければ、大手電力会社が安い料金で新規参入の再エネを叩き潰してから、独占的な高料金を設定できてしまうからだ。

名目や目的は違うが、電気料金に上乗せされている点は同じだ。「再エネは高く、原発は安い」というのはプロパガンダに過ぎない。

データセンターで電力需要は急増するか?

プロパガンダ③「電力需要急増」グラフ

データセンターや半導体工場の新増設で「電力需要が増加する」というフェイク情報も出回っている。

2024年1月、経産省は審議会で電力需要が急増して見える想定グラフを提示し、原発への投資が必要だという根拠として示した。しかしNPO法人原子力資料情報室がファクトチェックを行ったところ、このグラフは電力広域的運営推進機関(OCCTO)が今後10年の需要を示したグラフから「微増」部分だけを切り取り、「急増」に見えるよう縦軸と横軸を操作したものだった(「全国及び供給区域ごとの需要想定(2024年度)」6頁)。

出典:電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの需要想定(2024年度)」(2024年1月24日)6頁)

実際は横ばいか微増に過ぎず、それさえも電力事業者たちの「データセンター・半導体工場の新増設が続く」という希望的観測に基づいた見込みだった。

このファクトチェックを受けてか、OCCTOは翌年、同様の「切り取り」急増グラフとともに2004年以降の長期傾向が見えるグラフも発表した(「全国及び供給区域ごとの需要想定(2025年度)」15頁)。まったく「急増」には見えないグラフになった。

出典:電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの需要想定(2025年度)」(2025年1月22日)15頁

選挙期間中、「データセンター新増設で電力需要が増加するから原発が必要だ」などという候補者がいたら、眉に唾をつけよう。

福島県浪江町の津島地区の住民が「ふるさとを返せ!」と国と東京電力を訴えた「津島原発訴訟」は2025年度内に控訴審判決予定(2025年8月6日、仙台高裁前で筆者撮影)。各地で被災者訴訟は続行中だ。
 

論点3: 中道改革連合の原発政策をどう見るか

長年、与党として原発を推進してきた公明党と、原発ゼロを求めてきた立憲民主党が結成した「中道改革連合」(以下、中道)の原発政策スタンスを検証しよう。

1月19日、立憲民主党の本庄知史政調会長と公明党の岡本三成政調会長が発表した基本政策では、第一の柱「一人ひとりの幸福を実現する、持続可能な経済成長への政策転換」の中で、以下のように記されている。

「再生可能エネルギーの最大限活用/将来的に原発に依存しない社会を目指しつつ、安全性が確実に確認され、実効性のある避難計画があり、地元の合意が得られた原発の再稼働/次世代技術の開発促進などによるエネルギー安全保障の確保と脱炭素社会を実現」

公明党の歩み寄り

与党の了承のもとで政府が決定した「エネルギー基本計画」では、原子力も再エネも「最大限活用」するとした上で、再エネを「主力電源」とした。廃炉を決定した原発事業者のサイトでの次世代革新炉への「建て替え」も許容していた。

ところが公明党の2025年参議院選挙公約では、「原子力」「原発」の文字は見当たらない。ならば、公明党は「原子力の最大限活用」から「原発に依存しない社会」へ歩み寄ったことになる。また、エネルギー基本計画で原発の建て替えの夢を描いたところで、先述したように、価格競争の点からは現実的ではない。

立憲民主党の歩み寄り

一方、立憲民主党は「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現」「原子力発電所の新設・増設は行わず、全ての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定を目指し」(2025年参議院選公約)から、「将来的に原発に依存しない社会を目指し」へ歩み寄った。

これについて、中道に加わったある脱原発派議員は「時間軸の問題だ。今後は工程表で議論すべきだ」と述べる。同じく中道に参加し、「大間原発(青森県、電源開発)の建設に反対」(26年1月20日『逢坂誠二の徒然日記』8419回)と立場を明らかにした議員もいる。

民意が反映されなかった柏崎刈羽原発再稼働

さて、福島第一原発事故から現在までに既に14基の原発が再稼働を果たしている。

中道がもしも政権を取ることがあれば、「将来的に原発に依存しない社会」をどれだけ早く手繰り寄せることができるかは、有権者の意識にもよる。なぜなら、政治家、経産省、電力会社、いわゆる御用学者、法曹や報道まで含めた社会の大半の意識と認識を変えることができなければ、原発ゼロへの道筋を実現することはできないからだ。

そして、現実は、人々の足元、地域にあるからだ。1月21日に再稼働を始めようとして、22日に制御棒トラブルで直ぐに停止した柏崎刈羽原発(新潟県、東京電力)については、新潟日報が昨年11月に国会議員10人にアンケートを行っている。「柏崎刈羽原発は再稼働すべきか」という設問に対し、自民党3人のうち2人が「そう思う」と答え、1人が保留。立憲民主党7人は全員が「そう思わない」と回答した。この割合は、新潟県が2025年11月6日に発表した「柏崎刈羽原子力発電所の再稼働問題に関する県民意識調査」の結果と近かった。設問「再稼働の条件は現状で整っている」に対して、回答者の6割が「どちらかと言えばそう思わない」(29%)、「そうは思わない」(31%)と答えている。

実際には新潟県知事と自民党が圧倒的多数を占める県議会が、ここでは詳述しないが強引な手法で再稼働に「了承」して、現在に至っている。選挙で選んだ勢力図が、自治体と国政レベルでは異なり、そのような結果になった。

しかし、「実効性のある避難計画」ができない自治体が、東海第二原発(茨城県、原電)などをはじめとしてあるように、「地元の合意が得られた原発の再稼働」のハードルは決して低くない。有権者が選ぶ政治家次第であることは確かだ。

フェイクとプロパガンダと口約束の見極めを

以上、見てきたように国政選挙の結果だけで現実が一変することは、ない。

重要なのは、フェイクとプロパガンダと口約束にまみれがちな政党や候補者が言うことの真偽を見極める実力を、選挙を通して、有権者が蓄える機会にすることだ。それこそが、今回の選挙に必要なことではないか。

まさのあつこ フリーランス・ジャーナリスト。著書に『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(集英社新書)『投票に行きたくなる国会の話』(ちくまプリマー新書)『四大公害病』(中公新書)『水資源開発促進法 立法と公共事業』(築地書館)など。