「共同親権」それは離婚後も続く支配 映画「五月の雨」から聞き取る当事者の声

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(C)ちょっと待って共同親権ネットワーク「五月の雨」製作委員会

4月に施行された離婚後「共同親権」。その本質が映画を通して見えてきた。

サイレントモードにしたスマートフォンの振動音が鳴り続けている。持ち主の女性は電話に出るのか、出ないのか——。

映画「五月の雨」は不穏な空気をまとって幕を開ける。映画のテーマは「共同親権」。離婚後も父母双方が子の親権を持つ制度だ。今年4月に改正民法が施行され、導入された。共同親権を選択した場合、子どもの進学や医療、住むところなどについて父母の同意が必要になる。一見、いいことのようにも見えるが、離婚の原因がDVや虐待である場合、被害者と子どもにとっては、加害者からの支配が継続することを意味する。

日常的な「詰問」がむしばむ心身

主人公(安川まり)は夫から、日常的に「詰問」を受けていた。その会話の恐ろしさは見ているだけで心拍が上がるほどだ。

「洗面所になんで髪の毛が残っているのか、説明してくれる?」

「ごめんなさい」

「謝ってほしいんじゃないんだよ、どうして見落とせるのか、説明してくれって言っているの」

「ごめんなさい」

仕事場で、失敗した部下に「なぜ」「なぜ」と問い詰めるのはパワーハラスメントにあたる。しかし、家庭内のことだと「暴力がないのに、夫が怖い?」と他人に理解されない。怖くて言葉が出ない状況も、夫側から「妻はふてくされている」と説明されてしまう。

家事や育児、服装のことで咎められる体験が重なると、夫の帰宅時間前には、動悸を覚えるようになる。不眠が続き、次第に心身がむしばまれていく。

こうした精神的DVの怖さを、藤平久子の脚本はしっかりと描写している。だが、もっと怖いのは、妻の「怖い」という主張が、家庭裁判所の調停委員にはまるで通じないことだ。夫は「立場の弱い女性が被害者のように扱われ、僕は悪者扱い。子どもに会うことは当然の権利だ」と主張。家庭裁判所の「面会交流は原則実施。両親との交流を保つことが子どものためだ」という方針の下で、それが通ってしまう。

3人の女性の体験に耳をすませる

随所にドキュメンタリーパートが挿入される。3人の女性が仮名で身に起きたことを語っている。

「彼の住むところに転居してきて、(私の)就職をどうしようか、と相談したら、『俺の給料が安いってことか』と怒鳴られた。リモコンが投げつけられ、テレビを壊された」(斉藤幸子さん、30代、離婚調停中)

「育児をもう少し一緒にやりたい、と言ったら壁を殴り、食器を壊された。逆らったら何をされるかわからないので、怒らせないように気を遣ってビクビクするようになっていった」(みわさん、40代、離婚後、面会交流を経験)

40代の絵美さんは2017年4月、面会交流中の元夫に、娘を殺害された。離婚の原因は元夫からのDV。バキバキに画面を割られたスマホや壁の穴、腕のあざなどの写真が証拠だった。離婚成立後、元夫は養育費の支払いを拒否した一方で、娘との面会に執着した。絵美さんは「調停委員の仕事は相手の言葉を伝えるだけだった」と振り返る。夫は「DVの証拠写真は合成だ」とまで主張した。調停委員は「面会交流のために、お父さんとお母さんは連絡を取り合った方がいい」と言った。調停後初めての面会で娘は殺され、夫は自死した。

絵美さんの娘は面会交流時に元夫に殺害された(映画「五月の雨」から)
(C)ちょっと待って共同親権ネットワーク「五月の雨」製作委員会

2025年にはハンガリーで40代の日本人女性が元夫に殺害された。共同親権のため、元夫が持ち去った子どものパスポートの再発行にも、夫の承認が必要だった。女性は子どもを連れて日本に帰国しようとしていた矢先に被害にあったという。

こうした実際の事件を見る限り、「共同親権」が導入されてよかったと言える状況では全くない。

「なぜ、共同親権が必要なのか」の審議なく

改正民法は2024年5月17日、国会で可決、成立したが、審議では「なぜ、共同親権が必要なのか」という問いへの答えが明らかにされることはなかった。父母の意見が対立した場合、共同親権か単独親権かは家庭裁判所が判断することになるなど、ケースの増加が見込まれるが、家裁調査官の増員は、2026年度はわずか10人にとどまる見込みだ。

映画は、ドラマパートに戻り、共同親権を選択させられた女性と中3になった息子という「未来予想図」を提示する。別居している元夫は面会交流に強いこだわりを見せる。子どもは友達づきあいを優先したいが聞き入れられない。子が風邪をひいて面会できないと、夫は妻に電話をかけ、医師の診断書を求めた上で「賠償金を請求する」と言う。

子どもの進路面談に同行を求める元夫からのメール(映画「五月の雨」から)
(C)ちょっと待って共同親権ネットワーク「五月の雨」製作委員会

子の進学先も元夫が勝手に決めて押しつけてくる。「レベルの低い学校に行ったら人生終了だってことは君が一番良く知っているよね」と妻に言う。妻子をどこまでも見下し、支配してくる。見ていて腸が煮えくり返った。

改正民法が施行されても、共同親権にしないという選択肢はある。離婚後も、支配関係が延々と続くことにならないように、共同親権の本質を見極めることが大事だ。多くの当事者の体験が詰まったこの映画はそのための確かな補助線になる。

「五月の雨」 監督:冨田玲央 製作総指揮:熊上崇(和光大学教授)/2025年/日本/74分
4月11日〜新宿K’s cinema、5月9日〜横浜シネマリン、5月16日〜ナゴヤキネマ・ノイほか、全国順次公開。

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