「生き延びるために働くことを不法と呼び、摘発し、送還するのは人権侵害」 入管の不法滞在者ゼロプラン「強力推進パッケージ」に当事者、支援団体が抗議

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まるで兵糧攻め。入管が非正規滞在の外国人への監視や摘発、収容を強化。

法務省、出入国在留管理庁(入管)が5月22日、「不法滞在者ゼロプラン 強力推進パッケージ」をホームページで公表しました。昨年5月に非正規滞在の外国人をなくす施策として発表した「ゼロプラン」を推進するため、強化するポイントを挙げたものです。入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合(略称:入管闘争市民連合)など4団体が5月25日、司法記者クラブで会見を開き、パッケージの問題点を指摘し、撤回を求めました。

不法滞在者ゼロプラン・強力推進パッケージ 法務省が「不法滞在者」と呼ぶ非正規滞在の外国人は約6万8000人。2025年中に新たに1万3000人増え、1万7000人減った。減少理由の内訳は出国命令による出国者が9800人、自費送還5900人、国費送還700人、在留特別許可が下りたのは800人だった。
パッケージは減少に拍車をかけるため、以下の八つの取り組みを進めるとしている。①電子渡航認証制度(JESTA)の早期導入、②退去強制が確定した外国人が多い国に対する働きかけ、③難民認定申請の審査の迅速化、④出入国在留管理のデジタル化、⑤護送官付き国費送還の促進、⑥改正入管法の新制度を活用した自発的な帰国の促進、⑦被仮放免者の不法就労防止、⑧摘発の強化。このうち⑥には「仮放免者を再収容し帰国説得する」「早く帰れば良かったなどの被送還者の声を周知」、⑧には「サイバーパトロールの実現」「情報提供、通報の促進策の検討」が含まれている。

入管闘争市民連合は22日付けで抗議声明を出しています。会見では代表の指宿昭一弁護士が内容を読み上げました。

〇本パッケージに明記された「帰国説得」とは、実態としては心身を追い詰める「帰国強要」にほかならない。
〇この帰国強要の下で、日本人や永住者の配偶者、日本で就学し、成長してきた未成年者、さらには帰国すれば迫害の危険がある難民申請者などが、家族結合の権利を破壊され、生命と身体を深刻な危険にさらされる。また難民認定申請のB案件(難民に明らかに該当しないと入管が振り分けた案件)の処理促進も盛り込まれており、保護されるべき難民を機械的に振り分け、切り捨てるものである。
〇健康上の理由で仮放免された者を、一時的な健康状態の回復を理由に「要件を満たさなくなった」として再収容することは、再びその健康状態の悪化を確実にもたらす残虐な行為である。国連の勧告や司法の違法判断を完全に無視し、同じ人権侵害を繰り返そうとする入管の姿勢は言語道断である。

ウィシュマさん死亡事件の再来招く恐れ

指宿さんは、とりわけ再収容しての帰国説得に強い危機感を表明しました。その理由として、2021年3月6日に名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんのケースを紹介しました。ウィシュマさんは入管に収容された当初は帰国の意思を示していたものの、コロナ禍で母国スリランカ行きの定期便がなくなるなど、帰国困難な状況が続き、そこにかつての交際相手から「帰国したら罰を与える」と脅しの手紙が届き、恐怖で帰国できなくなりました。しかし、名古屋入管は「帰国しなさい」の一点張りで、ウィシュマさんは精神的に追い詰められ、体調を崩しました。検査ではケトン体の値が「3+」と飢餓状態に陥っていたにもかかわらず、医療措置は一切施されませんでした。ウィシュマさんは仮放免の申請も出していましたが、入管は「仮放免をせず、収容を続ける」と判断。のちに裁判で、その理由は「帰国説得をするため」とわかりました。

入管庁の「強力推進パッケージ」に強い懸念を表明した指宿昭一弁護士(左)=東京都内

指宿さんは「帰国説得のために仮放免をしなかった。これは帰国の強要であり拷問である。そういう中でウィシュマさんは見殺しにされた。入管が送還業務を人命より優先させるという態度を反省せず、臆面もなく打ち出してきたことに懸念を感じる」と話しました。

「入管を変える弁護士ネットワーク」の共同代表を務める駒井知会弁護士もオンラインでウィシュマさんのケースに触れ、「入管は仮放免を許可すれば、ますます帰国説得が困難になると考え、ウィシュマさんの収容を続けた」と批判しました。

滞日30年の女性 養父と障害のある息子残し送還

収容施設での面会活動などを続ける「BOND〜外国人労働者・難民と共に歩む会」の高沢亜砂代さんは、昨年8月に突然、送還されたフィリピン人女性のケースを紹介しました。30年前から日本に滞在。違法薬物の使用で服役し、刑務所出所と同時に東京入管に収容されました。その後、仮放免となり、長年の友人だった日本人男性と結婚。女性には発達障害がある息子がおり、日本人男性と養子縁組を結びました。息子は障がい者雇用で就職が内定し、就労可能な在留資格を取得。そのビザが届いた10日後に、女性は突然フィリピンへ送還されたといいます。

高沢さんは「成人し、就職もしている子どもが残っているということで、外見は問題がないように見えるが、母の連れ子で父とは養子縁組。母が送還され、養父と障害のある18歳の子どもが日本に取り残された。非常に深刻だ。夫は『入管は返すことには一生懸命だが、妻がもう一度日本に戻ってくるにはどうしたらいいかについて一切サポートがない』と嘆いている」と話しました。再入国できるのは自主退去なら5年後、強制送還なら10年後。家族が長年にわたって引き離される状況が続くことになります。

BONDの高沢亜砂代さん=東京都内

収容中の自死 入管、報告書や再発防止策公表せず

また、高沢さんは2022年に東京入管に収容中に自死したイタリア国籍の男性ルカさんのケースについて、「入管、法務省はBONDの申し入れに対し、報告書を作成する予定もないとし、再発防止策の公表も拒否した」と明かしました。

ルカさんは収容前、「パラノイア(妄想性パーソナリティ障害)」と診断されたこともあり、精神面で医療上のケアが必要でしたが、入管は内科医の健診のみですませ、精神科医を受診させず、収容から24日後に自死に至りました。

高沢さんは「精神疾患者の収容はとりわけ難しい。死にたいという気持ちを持っているかどうかは人をサポートする姿勢でないとわからない。送還しか考えていない入管職員には無理です。病状の悪化や気分の悪化を防ぐことはできない。BONDの活動を通して、収容による抑うつ状態とはまた異なる軽度の知的障害、大人の発達障害の人にも会ってきた。既往の精神疾患の人もいる。そういう人とかかわって安全を確保する能力は入管にはありません。まがりなりにも外で生活できている仮放免の人を入管がもう一度収容するということには断固として反対します。再発防止策すら拒否するところに収容させるわけにはいきません」と訴えました。

ルカさんは15年以上日本で生活してきましたが、2020年に在留資格を失い、2021年の初めごろにはホームレスの状態に陥りました。橋の下で生活していたルカさんに地域の人が気づき、支援をしてきました。BONDの聞き取りに対し、その人は「長年日本で暮らしてきた人が在留資格を失ったら一切のサポートを切られるのはおかしいと思い、議員や役所にも働きかけたが、『不法滞在者は助けられない。あなたも関わらない方がいい』と言われ、何もできなかった」と話したそうです。高沢さんは「これは排外主義的政策の悪弊だと思う。在留資格がない人=悪人というイメージを抱かせ、命の危機に瀕している人を見捨てることになる。外国人を追い込むだけでなく、一般大衆を加害者にしてしまう。ゼロプランと強化パッケージに強く強く抗議します」と述べました。

その上で、入管が「送還忌避者」と呼んでいる、退去強制令書を受けても日本への残留を希望している3000人超の人たちについて、「帰国したら迫害を受けるおそれがあるなど、よほどの事情がある人たち。今すぐゼロプランの対象から外してほしい」と求めました。

ゼロプラン、強力推進……ひどいネーミング

BONDの代表を務める鎌田和俊さんも「ゼロプランという時点で、ひどいネーミングだと思ったが、強力推進パッケージとは。非正規滞在者の人生に関わる施策だが、物のように動かしたり、害虫を駆除したりするようなネーミング。収容と送還を手段として、自分たちの都合で、人権侵害を繰り返す。こういう過ちをまたも入管は繰り返そうとしているということを如実に表しているんじゃないかと思う」と批判しました。

「入管は不法残留者を減らすことばかりに固執している。残らざるを得ない人の解決や救済には全くつながらない。締め付けるだけ締め付けて、無理矢理送還することを繰り返してきた結果が、数々の死亡事件や精神状態の悪化、生活困窮に繋がっている。収容・送還を促進するだけではなく、在留特別許可を出す、難民認定をするなど、やるべきことはたくさんある。ゼロプランは撤回させないといけない」(鎌田さん)

BONDの鎌田和俊さん=東京都内

SNS監視「生きるための道を塞ぐ兵糧攻め」

多民族、多国籍の労働組合「全国一般東京ゼネラルユニオン」(略称:東ゼン労組、533人)の専従オルガナイザー、ルイス・カーレットさんは「サイバーパトロールなど仮放免の人への動静監視が強まることに最も怒りを感じている」と話しました。

入管庁「強力推進パッケージ」より抜粋

仮放免の人たちは相談や支援を受けるためにSNSを利用しています。摘発のため、SNSが監視されるとなると、相談を躊躇したり、支援への道が断たれたりすることに繋がりかねません。

ルイスさんはこれを「生きるための道を塞ぐ兵糧攻め」と表現しました。

「仮放免の人は働くことを禁じられ、国民健康保険や生活保護からも締め出されている。年収ゼロが7割。食事がとれず、家賃も払えず、究極の困窮状態に置かれている。労働は人間らしく生きる最も基本的な権利。生き延びるために働くことを不法と呼び、警察と協力して摘発し、送還に追い込む。これは基本的人権の剥奪にほかならない。仮放免されている人々は犯罪者ではありません。人間らしく働き、家族とともに暮らしたいと願っている仲間です。監視と摘発ではなく、速やかに在留資格を与え、ともに社会をつくる人間として受け入れることを望みます。私たちはゼロプランを許しません。マイノリティの命を軽んじる国は、いつか必ず日本人の命も軽んじます」

警察庁、厚労省と連携し「不法就労」対策も強化

入管庁は22日、「不法就労対策パッケージ」も発表しました。警察庁、法務省、厚生労働省と連名です。その中で「SNS等から情報を収集・分析するなどし、積極的に摘発」と明記しています。指宿さんは「これもかなり問題がある。現在、DV被害者や人身売買の被害者が相談連絡するときにSNSを使うことが多いが、それが困難になる。外国人コミュニティの連絡や相談も監視の対象になる。プライバシー権の侵害にあたる。政府が制定を目指しているスパイ防止法と相まって監視社会への第一歩となる」と指摘しました。

指宿さんは「排外主義に政府が歯止めをかけるのではなく、むしろ乗っかっている。排外主義が拡大再生産されていくような残念な状況にある。戦争ができる国にするために敵を作り出し、敵から日本を守るために管理を強化し、SNSも監視する。排外主義を一つのテコにして国の形を変えようとしている。ゼロプランはその手段となっている」と懸念を示しました。