「守られるべきは検察組織ではない、法と人だ」 性暴力を受け、辞職に追い込まれた女性検事を支える最高検前スタンディング

記者名:

国民は検察の正しさを証明するための証拠じゃない!

(この記事には、性暴力に関する具体的な描写が含まれます。お読みになる際にはご注意ください。)

大阪地検の元検事正、北川健太郎氏から受けた性被害を告発した女性検事ひかりさん(仮名)と支援者が5月29日、最高検前でスタンディングを行いました。ひかりさんは検察内の犯罪被害、ハラスメント被害に関する第三者委員会の設置を要望していますが、検察は「必要なし」と回答。検証と再発防止策が何もとられなかったことから、4月30日をもって職場を去らなければならなくなりました。ひかりさんは最高検前で「守られるべきは検察組織ではない、法と人だ」と訴えました。検察の取り調べによる二次被害を受けた女性たちのスピーチが続きました。

事件の概要
大阪地検の検事正だった北川健太郎氏は2018年9月、酒に酔った部下の女性検事を自宅官舎に連れ込み、長時間の性的暴行(レイプ)をはたらいた。途中、帰宅しようとする女性検事を押しとどめ、「これでお前も俺の女だ」と言って、性暴力を続行したという。北川氏が辞職せずに検事正職にとどまったため、女性検事が「上級庁に被害を訴える」と言ったところ、自死をほのめかして脅迫し、口止めしたという。
北川氏は19年11月に退官し、弁護士登録。女性検事は24年2月に刑事告訴し、大阪高検は同年6月に北川氏を逮捕、7月に準強制性交罪で起訴した。北川氏は10月の初公判で「争うことはいたしません」と罪を認めたが、12月、主任弁護士が記者会見を開き、次回公判で無罪を主張すると発表した。
一方、女性検事はPTSDによる休職を経て24年9月に復職したが、同じ部署にいた副検事が北川氏らに捜査中の秘匿情報を漏洩するなどの捜査妨害を行っていたことが発覚。10月から再び休職を余儀なくされている。女性検事は24年10月、副検事による捜査妨害や自身への誹謗中傷をめぐり、刑事告訴した。大阪高検は25年3月19日、事実関係を認めたものの「故意」がなかったとして副検事を不起訴処分とし、人事上は最も軽い戒告処分にした。

被害者は証拠じゃない、血の通った人間です

スタンディングには約50人が参加しました。

最初にひかりさんがスピーチしました。

「私は検察に何度も殺されました。けれどもみなさんが何度も命を吹き込んでくださいました。おかしいことはおかしいと言える自分であり続けたい。私もみなさんに寄り添い、一緒に声を上げ続けたいと思います。

組織の違法、不正を隠蔽するため、加害者を守り、組織的な犯罪の連鎖で、被害者からすべてを奪い、傷つけ、辞職に追い込んだ検察に抗議します。

懸命に働いて市民、国民の安全を守ってきた被害者を切り捨てた検察に抗議します。

過ちを認めず、調査・検証もせず、再発防止もせず、謝罪もしない。反省も自浄作用もない検察に抗議します。

権力にあぐらをかいて、平然と法を破り、市民・国民の人権を軽視する検察に抗議します。

度重なる法改正を経ても、「レイプ神話」に侵され、性被害を軽視し、違法・不正の二次加害を繰り返す検察に抗議します。

被害者の声に耳を傾けず、被害者を蔑ろにする検察に抗議します。

検察の怠慢が次の被害者を生むことに抗議します。

被害者は証拠じゃない、血の通った人間です。被害者を傷つける検察は要りません。

誰も被害者になりたくてなっているんじゃない。

被害者の最後のよりどころは検察です。犯罪者を適正に処罰し、奪われた尊厳を、安全を取り戻して欲しいのです。

被害者の痛みを想像してください。

被害者の声に耳を傾けてください。

沈黙を強要しないでください。

私たちを正しく守ってください。

検察は正義を果たしてください。

検察の違法・不正を絶対に許しません。

もう誰も検察の犠牲にしません。

私たちは検察を監視し改革します。

司法を国民の手に取り戻します。

声を上げたことを後悔させない。

検察に第三者委員会の設置を求めます」

最高検前で検察官に向けて訴えかけるひかりさん(左)=東京都千代田区

犯罪被害者基本法にかなった支援をしていますか

そして、犯罪被害者基本法の前文を読み上げました。

安全で安心して暮らせる社会を実現することは、国民すべての願いである(中略)犯罪被害者等の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言い難い。十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされてきた。(中略)犯罪等を抑止し、安全で安心して暮らせる社会の実現を図る責務を有する国もまた、犯罪被害者の声に耳を傾けなければならない。国民の誰もが犯罪被害者となる可能性が高まっている今こそ、犯罪被害者の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない。

「犯罪被害者を守る三つの基本理念。個人の尊厳にふさわしい処遇を保障される権利。被害の状況や原因に応じた適切な支援。再び平穏な生活を営めるまで途切れない継続的な支援。

2023年性犯罪の改正刑法では、衆参両議院の附帯決議で検察や裁判所にこう指示しました。

性犯罪は重大かつ深刻な被害を生じさせるので、被害の性質上、性犯罪被害者が支援を受けるまでに様々な社会的、心理的障壁があることを踏まえ、捜査から公判までの各段階において、被害者の心身の状態に十分配慮するよう努めること。性犯罪の捜査、司法手続きにあたって、被害者の心理および心的外傷などをより一層踏まえて適切になされる必要があり、格段の配慮をすべきであること。検察は格段の配慮をしていますか?」

あなたたちの中に検察の理念はありますか

続いて、検察の基本理念を読み上げました。

検察は、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現するため、重大な役割を担っている。我々は、その重責を深く自覚し、常に公正誠実に、熱意を持って職務に取り組まなければならない。刑罰権の適正な行使を実現するためには、事案の真相解明が不可欠であるが、これ には様々な困難が伴う。その困難に直面して、安易に妥協したり屈したりすることのないよう、あくまで真実を希求し、知力を尽くして真相解明に当たらなければならない。(中略)事案の真相に見合った、国民の良識にかなう、相応の処分、相応の科刑の実現するためには、各々の判断が歪むことのないよう、公正な立場を堅持すべきである。権限の行使に際し、いかなる誘引や圧力にも左右されないよう、どのような時にも、厳正公平、不偏不党を旨とすべきである。自己の名誉や評価を目的として行動することを潔よしとせず、時としてこれが傷つくことをもおそれない胆力が必要である。同時に、権限行使の在り方が、独善に陥ることなく、真に国民の利益にかなうものとなっているかを常に内省しつつ行動する、謙虚な姿勢を保つべきである。検察に求められる役割を果たし続けるには、過去の成果や蓄積のみに依拠して満足していてはならない。より強い検察活動の基盤を作り、より優れた刑事司法を実現することを目指して、不断の工夫を重ねるとともに、刑事司法の外、広く社会に目を向け、優れた知見を探求し、様々な分野の新しい成果を積極的に吸収する姿勢が求められる。これらの姿勢を保ち、使命感を持って各々の職務に取り組むことを誇りとし、刑事司法の一翼を担う者として国民の負託に応えていく。
国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を自覚し、法令を遵守し、厳正公平、不偏不党を旨とし、公正誠実に職務を行う。犯罪被害者の声に耳を傾け、その正当な権利・利益を尊重する。関係者の、名誉をひとえに害しない。常に内省しつつ、経験から学び行動するとともに、自由闊達な議論と相互支援を可能とする活力ある組織風土を構築する。

「検察のみなさん。特に幹部職員のみなさん。あなたたちの中に検察の理念はあるのですか。あるのなら、自らの行動で示してください。検察の使命を果たし、市民と国を正しく守ってください。もう誰も検察の犠牲にしないでください。声を上げたことを後悔させないでください。検察にも第三者委員会の設置と検証を! 守られるべきは検察組織ではない! 法と人だ!」

相次ぐ取り調べでの二次加害

桜井祐子弁護士は、性暴力事案の捜査過程で検察官から被害者への二次加害があったケースを受任しました。

「検察はなぜここまでアップデートされていないんだろう。さっきひかりさんが読み上げた検察の理念。その実現を担保する仕組みが全く機能していない。検察の中で真面目に働く人のためにもガバナンスの仕組みが必要です。批判と対立が目的ではなく、期待と理解と切実な思いで発言しています」

性暴力被害者の池田鮎美さんは、検察官の取り調べを受けた時の体験を話しました。

「私にとって、それはとても恐ろしい体験でした。検察官の言葉に追い詰められて、東京地検の窓から飛び降りようとしたんです。あの時死ねばよかったのか、と時々思います。それくらいひどい、まるで加害者のような扱いでした。その後刑法改正のロビー活動で、法務省に行った際、言われました。『検察官が不起訴にしたのなら、(被害者は)性行為に同意していたと思われる』。違いますよ。検察のみなさんは一体何をやっているんでしょうか。目を覚ましてください。私たち国民はあなた方の正しさを証明するためのモルモットではありません。私たち被害者が命を削りながら作った改正刑法を蔑ろにしないでください」

ひかりさんを支援する会の酒井かをりさんは検察庁の検事、職員に向けて語りかけました。

「沈黙すること、権力におもねること、それはなぜ起きるのでしょうか? 人は弱く、恐怖にからめとられると間違ったことを正当化しようとします。ひかりさんの事案がまさにそれです。検事正自らが罪を認め、謝罪をする手紙を書いています。しかし、その1ページ目のほとんどが『組織のために』黙っていてほしいと隠蔽を要請するものです。ひかりさんが声を上げているのは内側から検察が変わるための大きなチャンスです。検察は正しい仕事をしてください」

「第三者委員会を設置してください。自浄能力がないことは明らかです。情報開示請求でひかりさんが調べただけでも50件近い不祥事があります。ハラスメントを看過してきたみなさんも共犯者です。ひかりさんの事案を第三者委員会で正しく調査してください。元検事正の功績と罪を切り分けて正しく判断してください」

性的マイノリティへの無理解も

性的マイノリティであることを公表して活動していた俳優でモデルのナナさんは2022年8月、東京地検で話を聴かれました。ナナさんをレイプした犯人が警察に自首をしたため、証言を求められたのです。

「私は男性との性行為を望まない性的マイノリティ当事者です。そのことも真摯に説明しました。担当検事は私に言い放ちました。『私はLGBTには詳しくなくて』『ノンバイナリーってなんですか』『アセクシュアルってなんですか』『男性との性行為を望まないってどういうことですか』。そう言い放った検事がフラッシュバックして、今も私は苦しい」

その上で4点について強く要望しました。

1)性暴力の被害者に現れるPTSDを軽視せず、「強制性交等(不同意性交等)致傷罪」で起訴すること

2)顔見知りによる性犯罪を軽視しないこと

3)二次加害をしないこと

4)性的マイノリティへの差別、性差別をやめること

「性差別をするな」と検察に求めたナナさん=東京都千代田区

最高検によるハラスメント調査は無意味

検察はひかりさんに対し、「第三者調査委員会の設置を検討しない」と回答しています。

一方、平口洋法相は6月5日の記者会見で「職場環境改善の一環として最高検がハラスメント被害の調査を実施する」と発言しました。

これを受け、ひかりさんはコメントを発表しました。

「最高検によるハラスメント調査実施は全く無意味です。法務省・最高検が調査をやったという既成事実を作るためだけの姑息なやり方に憤慨しています。しかも私が辞表提出前に実施するのではなく、辞表提出後に実施するということ自体もひどいです。再審法改正の時に、法務省が超党派議連の法案を邪魔する形で、法制審を立ち上げ、既得権益を守る改悪案を提出したのと同じやり方だと思っています。第三者委員会を設置し、公正中立な調査・検証・再発防止を求めます」

調査の結果は検事総長らと有識者が年1回検察のあり方を議論する「参与会」で報告される見込みで、ひかりさんはそれにも強い違和感を抱いています。

北川元検事正の性暴力や組織による隠蔽発覚後の2025年2月の参与会の報告書によると、会議では事件については触れず、「検察は今社会から責められているが、このような状況下にいる検察庁職員の心の痛みを心配している」「検察官自身がかなり追い詰められているのではないか。こういう状況では組織として萎縮して事故が起こりやすい。日本人は「反省」を好むが、自分たちのマイナス面のみを見るだけではだめで、心が保たない。自分たちの悪い面だけでなく良い面も認める、『省察』という姿勢が重要である」などと書かれています。

ひかりさんは「検察は北川元検事正の事件や組織による隠蔽を、個人の被害なので公言しないと矮小化し、自分たちの罪に向き合っていない」と批判しています。

ひかりさんと支援者は今後、国会議員らが参加する「院内勉強会」などを通じて改めて第三者委員会の設置を強く求めていく予定です。

また、6月中をめどに、北川元検事正をめぐる刑事事件の訴因を「準強制性交等罪」から「準強制性交致傷罪」に変更するよう検察に命令を出すことを、大阪地裁に要請する予定で、署名活動を続行しています。

感想やご意見を書いてシェアしてください!

記事を紹介する
  • X
  • Facebook
  • Threads
  • Bluesky