性暴力被害者、支援者、研究者らで作る任意団体「性暴力を考えつづける」が、独自のサイト「プラネチカ」を開設し、22日に都内で記者会見を開きました。性暴力の被害者に知ってほしい情報の発信や調査活動を行い、交流の場にしていく考えです。プラネチカは惑星的という概念を基にした造語。互いに引かれ合いながらも同じになることを求めず、比較せず、支配せず、序列化せず、それぞれの違いを尊重しながら、性暴力という共通のテーマについて考え続ける、という意味を込めたそうです。
サイトは7月7日、配信プラットフォーム「the Letter」内にオープン。運営主体は5月に設立された任意団体「性暴力を考えつづける」。これまでNHKが2025年9月30日に閉鎖したインターネットサイト「性暴力を考える」の存続を求めて署名活動をしてきたメンバーが中心になって、新たなサイトを立ち上げることにしました。編集長に元NHKディレクターで立教大学特任教授の宮本聖二さんが就き、独立系ニュースサイト「SlowNews」が運営を支援。また、NHKのサイトで調査の分析を行ってきた日本女子大名誉教授の大沢真知子さんがアドバイザーを務めています。
被害者が被害者のまま生き続ける場所に
任意団体の代表を務める池田鮎美さんは「NHKのサイト存続を求める署名に28,000人以上の賛同が集まった。2025年9月末にサイトが閉鎖されて無力感でいっぱいになった。社会問題としての性暴力が根絶されたわけではなく、私たちは性暴力被害者を真ん中に置いた支援者、研究者とともにつくるプラットフォームを必要としていた。復活が困難ならば、自分たちで場を作ろうと考えた」と話しました。

池田さんは元ライターです。仕事中に性暴力に遭い、書く事ができなくなりました。
「性暴力被害に遭ったと明かすと仕事の依頼が一切なくなった。被害者が被害者のまま生き続ける場所が必要なのに、現実はそうではない。性暴力被害者としてその後を生きる、学ぶ、働く、生活する、意見を言うということが社会で十分に想定されていない」
そう感じていたとき、NHKのサイトが立ち上がり、救われたように感じたそうです。
「性暴力被害者である自分を許していいんだと思える。被害者として意見を表明しても誹謗中傷に遭うことがない。『性暴力を考える』はそう感じられる大切な場所でした」
プラネチカはNHKのサイトの革新性、優れていた点を引き継ぎつつ、性暴力について基本的に知っておいた方がいい情報や課題を継続的に伝えながら新たに調査を行い、リアルな交流やともに考えるコミュニティとして公共性のある場所を目指すそうです。
池田さんは編集部の考え方として次のように話しました。
「私たちは一人ひとり完璧な人間ではありません。考え方の違う人間が集まっています。弱くて考え方の違う、日々変わり続ける私たちが集まって性暴力を考え続ける。考えるのは被害に遭った人だけの仕事ではない。被害者はこれまで自分の経験を語り、社会を変えようとしてきましたが、私たちは対話することで、被害者に重荷を負わせる社会構造を変えていきたい」
社会がまだ知らない現実は当事者の経験の中にある
編集担当の卜田(うらた)素代香さんは7年前に被害に遭い、NHKのサイトに、自身の事件の裁判員裁判が開かれるタイミングで取材を検討してほしいとメッセージを送りました。
サイトのスタッフが取材し、自身が法廷で読み上げた被害者意見陳述書を全文掲載してくれました。
「それまでに掲載された記事を読み、被害の内容ではなく、被害後の当事者の日常や思いをそのまま伝えてくれる場だと感じていました。他のメディアではセンセーショナルな部分や判決の内容だけが伝わることが多い中、被害によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)によってどんな風に世界の見え方が変わってしまうのかが伝えられていました」
記事が公開されてから、多くの被害者から声が寄せられました。その後「性暴力を考える」のアンケートには38,000人が回答を寄せました。卜田さんは、意見陳述書が「自分の体験を話すことが、他の誰かの力になるのなら」と呼び水になったとみています。

卜田さんは「一人の被害者が回復の過程で手にした知識や意味づけを語り、それを他者に手渡すことは、性暴力に対抗する知識や力を個人の内部にとどめるのではなく、コミュニティの知として共有する行為になる」と定義しました。その上で、プラネチカを「被害者の語りや知を安全な環境で共有していく場」ととらえ、「当事者の言葉や思いをそのまま伝える」ことを大切にしたい、と話しました。
「社会がまだ知らない現実は当事者の経験の中にある。まだ名前のついていない苦しみを伝えようとすることで、それが言葉になり、概念になり、社会が認識することで変わっていく。被害のその先を生きている当事者の言葉をそのまま伝えたい」(卜田さん)
日本は「女性の人権」が抜け落ちている
アドバイザーを務める大沢真知子さんは2020年、NHKの「性暴力を考える」取材班から、「性暴力によって女性が仕事を失うなど社会に大きな損失を与えているのに、可視化されていない」と相談を受けたのがきっかけで、経済的社会的インパクトの調査をしながら、アンケートの質問表の作成に携わりました。
その後分析も担当。2次分析をしているときにサイトが閉鎖になり、「どういう形であれ、結果をみなさんに伝える社会的責任がある」と考え、プラネチカへの参加を決めたそうです。
大沢さんは日本の性暴力の特徴について「刑法の性犯罪規定が変わっても周知がなく、女性の人権という視点が抜け落ちている」と述べました。

性暴力の被害届の提出はわずか1割。その中で捜査機関が取り上げるのは3割。加害者が有罪となるのは1〜2%で、実刑判決は1%未満です。
NHKのアンケートの結果は、平均被害年齢は15.1歳。4分の3が20歳未満で、半数が複数回の被害に遭っていました。大沢さんは「被害後の離職者だけでも、2兆5000億円の人的資本の喪失がある」と試算しています。また、PTSDが半数以上に見られるのに、診断は3%未満。診断できる専門家も育っていません。
「法制度が整っていないと対策の予算も計上できない。支援体制も整えられない。日本のそういう状態を私たちは直視する必要がある」(大沢さん)
社会がいい方に変わる記録をアーカイブ
編集長の宮本聖二さんは「公共性、公益を最も重視して運営していく」と目標を掲げました。プラネチカには2週間で、340人が登録しました。
掲載内容は、性暴力、性加害、セクシュアルハラスメント、今起きている事象・事件、研究・知見、政策についてのオリジナル記事や、被害を受けた当事者へのインタビューなど。「ことばの海」のコーナーでは性暴力に関する書籍や映像作品などを紹介し、他メディアの関連記事もニュースレターで配信。性暴力被害者がリアルに交流できる読書会やトークセッションの開催も検討しているそうです。
宮本さんは「社会がいい方に変わる記録をアーカイブしたい」と話しました。

NHKサイトの内容の引き継ぎは著作権に抵触するため、一切行わない方針ですが、大沢さんの調査分析などは学術論文や著書から引用する形で紹介することを検討しているそうです。
宮本さんは「2028年の刑法改正に向けた政策提言についても考えていく。どのような問題点が性暴力を巡って残されているのか、改正に向けた法制審議会などで、資料として使ってもらえるようなプラットフォームを目指す。ジャーナリストと当事者が共鳴していく役割があると考えている」と話しました。

