2015年に国会で成立した安保法制を違憲として、全国112人の女性たちが国家賠償を求めた「女の会」訴訟で、東京高裁(谷口豊裁判長)は6月8日、控訴人らの訴えを棄却する判決を言い渡しました。代理人らは判決を不服とする声明を発表。最高裁に上告する決意を明らかにしました。
「具体的な権利侵害がない」と棄却
2015年に国会で強行採決され成立した安保法制は、「集団的安全保障」の名の下に、他国が攻撃されたことに対して日本が武力を行使することを認めています。女性たちはこれを「日本国憲法の戦争放棄と平和主義に反して違憲」として2016年8月15日、東京地裁に提訴しました。原告121人、代理人9人は全員女性。東京地裁の武藤貴明裁判長は2022年1月28日、判決前に原告側3人の意見陳述のあと、弁論を聞かずに退廷しました。その後、一方的に判決期日を同年3月25日に指定したため、原告側はボイコット。原告不在のまま、原告の請求を棄却する判決が言い渡されました。112人が控訴しました。
控訴審判決は具体的な権利侵害がないとして、控訴人らの訴えを棄却しました。理由の読み上げはなく、1分足らずで閉廷しました。
日常の中に差別と暴力という「戦争状態」
一、二審を通して、女性たちは、日常の中に差別と暴力という「戦争状態」があり、その淵源は「家父長制」、その究極な形が「戦争」と定義。これまでのおのおのの仕事や活動の中で自身の安全を守るということは、「恐怖と欠乏から免れて生きる権利」を保障するという「人間の安全保障」以外にないことを確信させられてきた、と主張しました。
また、武力による威嚇や行使を前提にした「軍隊」「軍事力」は人間を国家のために支配する力の根源であり、家父長制とそこから生み出される差別や暴力に対して「触媒」として機能してこれらを強化するものであることを体験的に思い知らされてきた、としました。
安保法制の強行採決によって、「人間の安全保障」「安全保障におけるジェンダー主流化」の議論が封殺されたことも問題であると指摘。安保法制と安保三文書により軍事化に振り向けられる財政が2倍となり、増税が進んだ反面、医療・社会保障制度や差別と暴力の根絶のために使われる予算が圧迫され、憲法13条(幸福追求権)、25条(生存権)、24条(家父長制からの決別と男女平等)が規定する国民の権利が侵害されていると訴えてきました。
「気持ちもわかるが、ちょっと傷ついただけ」?
控訴審判決後に、弁護団は声明を発表。
判決は違憲審査について、憲法9条、解釈改憲が問題となる事案だとしても、特別な考慮は必要ないとし、立法過程に違法行為があったかどうかは判断しませんでした。弁護団は「これまでの最高裁の消極的判断枠組みを踏襲し、私たちの権利侵害に応えようとはしていない」と批判しました。
判決はまた、女性たちの意見陳述を整理するとして矮小化し、具体的な権利や法的利益は侵害されていないとし、東京地裁の判決を踏襲しました。山本志都弁護士は「証人尋問での主張を小さくつまみ食いし、最終的には『あなたたちの気持ちもわかるが、ちょっと傷ついただけ』とした。人権というものが全く理解されていない」と批判しました。

軍事は家庭や学校、地域における暴力につながる
声明では最近の情勢について、「高市(早苗)政権が軍事化と家父長制を強化して人間を道具化する国家主義に向かう憲法改正を加速している」とし、「軍事は、家庭や学校、地域における暴力につながっています。産業の軍事化は、経済社会のシステムである企業や職場にも大きな変化をもたらすことが懸念されます」と憂慮の念を表明しました。
声明の結びには次のように記されています。
日本国憲法が示す「国の姿形」とは、国民主権と民主主義を培い、平和を基本的人権と不可分のものとしてその実現に向かう国民国家としての像でした。それを「戦後レジームからの脱却」といって覆すことは断じて許しません。なぜならそれは、人間の前に国家があり、人間は国家の対象であり道具として国家に奉仕する存在として作り変えるという本末転倒のものだからです。 私たちは、この日本国憲法の価値を追求し、また培い続けることをここに宣言し、控訴審判決を不服として最高裁への上告・上告受理申立を決意しました。ともに平和に向かって取り組んでいく決意です。
裁判官のジェンダーバイアスのせい
判決後に都内で開かれた報告集会で、中野麻美弁護士は「これだけ立証を尽くしてもわからないというのが『ジェンダーバイアス』なのではないか」と判決を書いた判事の無理解をひもときました。「人間が事実を見るときに経験や培ってきた思想でみる。同じ経験をしてもドロップアウトさせてしまう事実、歪曲する事実があり、全く反対の像が作り上げられてしまう」と裁判官にすり込まれた家父長制、ジェンダーによる差別的取り扱いについても言及。
「私たちは立証を尽くした。裁判官にジェンダーセンシビリティーが足りない。これだけ言ったのに、なぜ分からなかったのか。(安保法制の契機となった)『戦後レジームからの脱却』を言う人は、戦争を生身の人間として経験していない。戦後レジームとは憲法体制だ。もう脱却とはこれっぽっちも言わせない。ジェンダーの力で、誤った認識を正すことを強化していかないといけない」と話しました。

「戦争になってから言いなさい」?
角田由紀子弁護士は「安保法制違憲訴訟の判決は、最初の札幌地裁からすべてが『戦争になってから言いなさい』。たくさんの訴訟団が被害の実態を立証してきた。わけても女の会訴訟は具体的に被害を訴えた。それなのに、なぜあんなバカな判決になるのか」と問いかけました。そしてその答えを続けました。
「日本の法学教育が家父長制と手に手を取って進んで来たから。でも、そのことに女性の弁護士でも気づかない。男の考え方を受け入れると出世ができるから。男の考え方を受け入れて出世した筆頭が高市首相。家父長制と戦争がずっと法律を支配し、それに基づいた教育がなされてきた。ジェンダー教育が行われないと、実態を見る力を失ってしまう。法律の中にあるジェンダー不平等の実態を暴いて、それをなくさないといけない」
安保法制違憲訴訟の控訴審は名古屋訴訟を残すのみとなりました。判決は8月5日に名古屋高裁で言い渡される予定です。

