2015年に国会で成立した安保法制を違憲として、全国112人の女性たちが国家賠償を求めた「女の会」訴訟の控訴審が3月9日、東京高裁で結審しました。判決が6月8日に予定されている中、控訴人側の弁護団が4月6日と13日に弁論の再開を求める申立書を東京高裁に提出しています。結審の直前に、米国とイスラエルがイラン攻撃を開始。中東で戦闘状態が続いていることで、米国と同盟関係にある日本の安保法制の危険性がより顕在化したため、追加で弁論すべき事態が生じたといいます。申立書の内容について弁護団の中野麻美弁護士に聞きました。

——結審後に弁論再開を申し立てるのは異例です。背景にどのような事情がありましたか?
東京高裁の裁判長は結審時「今後、存立危機事態になれば、非常に深刻になることは理解している」と話しました。しかし、安保法制が成立したことで、現に深刻な事態を招いているという相関関係説は取らない。「現実社会で、安保法制により個々の控訴人の権利侵害が起きていない」として、請求を棄却される恐れが残っていました。
結審後に安保法制をめぐる国内外の情勢が目に見えて悪化しました。弁論再開の申し立てで裁判長の見立てを揺さぶる可能性を試そうと思いました。
——具体的にはどのような変化が生じましたか?
大きく2点あります。
1点目は高市早苗首相の「台湾有事」発言について、米国家情報長官室が3月18日に公表した「世界の脅威」に関する年次報告書の中で、「日本の体制において重みがある、重大な転換」と指摘したことです。
私自身はこれまで発言を高市首相の「勇み足」「言葉足らず」と受け止めていましたが、米国のレポートを読み、外国、特に中国との力関係を変えてしまう重大発言と捉え直す必要があるとの認識に至りました。
2点目は米国とイスラエルによるイランへの軍事侵攻です。横須賀、佐世保、沖縄の米軍基地から米戦艦が出撃、ミサイル攻撃を行ったほか、地上戦部隊が中東沖に待機しています。米軍は日本にある米軍基地からフリーハンドで出撃することができる。日米の事前協議は行われた試しがありません。憲法9条は自衛隊が出撃しないという点では歯止めになりますが、米軍を止めることはできない。日本国内の米軍基地が反撃される可能性は諸外国より高いと言わざるを得ません。
熊本や静岡の自衛隊駐屯地にも長射程ミサイルが配備され、殺傷兵器の配備から運用へと質的な転換が始まっている。基地や駐屯地周辺を中心に、「攻撃する/される」危険性をリアルに感じるようになりました。政府は「抑止力が高まった」と言っていますが、中国側が「日本が攻め入ってくる」という危機感を募らせるきっかけになっている。いざ戦争が始まってしまえば、日本に勝ち目はありません。

——現状を受け、安保法制の権利侵害性をどのように立論しますか?
権利侵害は「戦場化」と「戦争状態」によりもたらされます。
「戦場化」は沖縄の南西諸島の軍事要塞化などですでに現実化しています。米国によるイラン攻撃では、女子校が爆撃され、女子児童が多数亡くなった。武力によって生命や権利が奪われることは明白で、それはより弱い存在に対して深刻です。
「戦争状態」とは、軍事が動き出さずとも、差別と暴力が家父長制により駆動している状況を指します。生活の中に存在する「力による支配」です。女性たちはいつでも戦争状態に置かれている、ということもできる。
トランプ米大統領の発言は暴力夫そのもの。ころころと言うことを変え、「お前が悪い」と相手に責任転嫁をする。トランプのイランへの対応を見て、女性たちは自分たちの身近にある差別と暴力を想起させられた。そして生活の中にも「力による解決」を是とする風潮が広がってきている。これは恐怖だと思います。国会周辺の護憲、反戦デモで若い女性たちが発言している内容も、直感的に感じるかもしれないが、「このままでは戦争に至る」という極めて論理的な指摘だと思います。

平和学者のヨハン・ガルトゥングは「戦時にいたる貧困・暴力・差別を根絶しない限り平和は訪れない」と、人間による安全保障を説きました。軍拡や政府言論の権利侵害性は、国民の恐怖心を呼び起こしている点でも明白です。
追加の証拠として、地方議会で相次いでいる米・イランの即時停戦を求める決議一覧や、各地の反戦・護憲デモのレポート、高市首相の国会答弁とその分析などを提出しました。
弁論再開の可能性は低いですが、裁判長が申立書と追加証拠を吟味することを望みます。

