安保法制違憲「女の会」訴訟、控訴審が結審 安保三文書で進む全面的軍事化は「人権を現に損なう」 

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安保法制違憲「女の会」訴訟が結審。11年間に進んだ軍拡と女性たちへの人権侵害を司法はどうみる?

安保法制を違憲として、全国112人の女性たちが国家賠償を求めた「女の会」訴訟の控訴審が3月9日、東京高裁で結審しました。

安保法制違憲訴訟 2014年、安倍晋三内閣(当時)は従来の政府の憲法解釈を覆し、集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行い、2015年9月に安保法制が成立した。その後、安保法制は、①憲法が定める平和的生存権を侵す ②憲法13条の幸福追求権を侵害し、個人の人格権を損なう ③憲法96条が定める改憲手続きを経ておらず、国民の改憲に関する意思表示の機会を奪った——などの理由で、市民らが全国各地で国家賠償請求訴訟を起こした。地裁や支部に計25件の提訴があり、1700人が原告となった。最高裁で上告の棄却や不受理となったものが18件、高裁で原告敗訴が確定したものが5件。現在、東京高裁で「女の会」訴訟、名古屋高裁で愛知訴訟が継続中。

差別と暴力をなくそうとしてきた女性たちの歩みを否定

「女の会」訴訟の一審、東京地裁判決は国賠法に基づく安保法制による原告の権利侵害を認めず、請求を棄却しました。

9日に開かれた控訴審の第9回口頭弁論で、控訴人側からは秦(しんの)雅子弁護士が準備書面に沿って、主張しました。

「安保三文書(*1)によって実相化された安保法制の本質は、内閣の専権事項としての閣議決定を元手に国会審議と憲法審査を無力化し、専制的統帥権行使を可能とするところにあります」

「限定的にしか集団的自衛権行使を容認しないという説明だったが、法律が施行されると規制枠組みなどなかったかのように、政府は日本が米国のために『敵基地攻撃』まで行使する抜本的防衛力の強化、全面的軍事化の根拠としました」

「安保法制は『戦後レジームからの脱却』として進められた立法措置と一連のもの」

「憲法前文にうたわれた平和と人権を何より大事とする民主主義・立憲主義に基づき、差別と暴力をなくそうと活動してきた控訴人らの歩みを否定しています」

*1……日本の外交・防衛政策の指針となる「国家安全保障戦略(NSS)」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の総称。2022年12月に岸田政権が閣議決定し、反撃能力の保有や5年間で約43兆円の防衛費増額、防衛産業強化などが明記された。2026年度に改定予定。

口頭弁論を終えて記者会見する中野麻美弁護士(左)と秦雅子弁護士=東京都内

国別行動計画から戦時性暴力の根絶を削除

裁判では控訴人らにどのような実質的な被害が及んでいるかが争点となっています。

秦弁護士は、日本国憲法において、9条と両性の平等を定めた24条は「軍事の淵源に家父長制による力の支配がある」ことから不即不離の関係にあるとし、「力による解決の正当化は、家父長制、ジェンダーに基づく力関係から生じる暴力と差別に抗ってきた女性たちに対するバッシングを強化し、控訴人らの自由と安全、心身の健康に大きな影響を及ぼしている」と述べました。

その上で、安保法制により控訴人らは、①平和と人権(とりわけ男女平等)を両輪として培ってきた経験や行動を否定された②控訴人らが市民社会との共同テーブルに参加し、安全保障のジェンダー主流化に関する国別行動計画に盛り込んだ「戦時及び基地と軍隊による性暴力と排外主義・ヘイトの根絶」が削除された——などの権利侵害を現実に被ったとし、賠償を求めました。

日本列島全体が軍事要塞化

2人が意見陳述に立ちました。

福島みずほさんは弁護士で参院議員の立場から、「安保法制は明確に憲法違反」と述べた。「軍拡の現場で、人々の中で既に被害や損害が発生している」とし、具体的な権利侵害の例として、「安保関連法をはじめとした法律の成立とその後の憲法破壊が、国会審議を形骸化し、国会議員の権限を削っている」「全国に130カ所の弾薬庫が建設され、各地に長距離ミサイルの配置計画がある。日米地位協定に基づき、米軍は日本全体を使うことができる。沖縄南西諸島、九州だけではなくて、まさに日本列島全体が軍事要塞化している。このどこもが攻撃の対象になり得る」などの現状を挙げました。

意見陳述した福島みずほさん(左)と亀永能布子さん=東京都内

貧富の差、ハラスメント・暴力が広がった

女性差別撤廃条約実現アクションの事務局長、亀永能布子さんは、複数の控訴人の意見をまとめて陳述しました。

安保法制によりミサイル配備計画や共同軍事訓練などの情報が国民に明かされなくなり、「知る権利の侵害が起きている」と主張。

また、女性たちへの権利侵害として「基地と軍隊による性暴力などが国連の安保理決議に基づく国別行動計画から削除された」「安保法制制定過程に女性の意見を反映する場を保障しなかった」「安保法制による女性への影響評価・ジェンダー監査をまったく行わなかった」の3点を指摘しました。

「安保法制下で戦争への準備が進められていく中で、貧富の格差は拡大し、ハラスメント・暴力も広がり、排外主義は強まっている。これらの問題はすべて控訴人たちが自分たちの問題として関わり続けていることです」と述べました。

これまでの安保法制違憲訴訟ではいわき訴訟の仙台高裁判決以外は憲法判断に踏み込まず「原告に国賠法に基づく具体的な被害がない」と棄却しています。

亀永さんは最後に判事らに向け、「進行している『戦争国家づくり』のリスクを直視していただきたい。憲法判断を求めます」と訴えました。

口頭弁論後、記者会見に臨んだ控訴人ら=東京都内

国側「国賠法に基づく権利侵害はない」

控訴人らは安保三文書に関わる有識者会議の議事録などの文書について提出命令を出すよう裁判所に申し立ててきましたが、裁判所は「これまでの意見陳述で十分、主張・立証されている」として提出を命じませんでした。被控訴人の国側は「国賠法に基づく権利侵害はないので証拠調べの必要はない」と述べ、争点に踏み込んだ回答を一切せず、この日も「控訴人の求釈明に回答する理由がない」と具体的な反論を避けました。

裁判後の記者会見で中野麻美弁護士は「国防に関する事項を特定秘密保護法に定める秘密として、国会審議を空洞化させ、統帥権行使で軍事化を進めている。人権とは相反する価値を、憲法審査をすることなく通していくというプロセスに人権侵害がある」と主張しました。

3月に始まった米国、イスラエルからイランへの武力攻撃を「安保法制における重要影響事態」と位置づけ、「存立危機事態の要件との関係で、私たちの権利が直接侵害されることになる。その点について国に釈明を求めたが、回答がなかった。裁判所も文書提出命令を出さなかった。国民を対等な相手と認識しない対応だった」と総括しました。

判決は6月8日13時30分、東京高裁で

控訴人らが訴えた通り、この11年間に、安保法制制定時の想定を超えた先制攻撃、敵基地攻撃能力が安保三文書で具体化され、軍拡が進行しました。各地へのミサイル配備や弾薬庫の増設により、国民は具体的な生活や生命の危機に直面するに至っています。

アメリカとイスラエルによるイラン爆撃など国際法が無視され、世界情勢が大きく戦争に傾く中、判決がこうした状況をどのように判断するか、注目されます。

判決は6月8日13時30分から東京高裁で言い渡される予定です。