日産自動車の経営再建のため、2027年に生産中止し、売却される予定の追浜工場(神奈川県横須賀市、約169.9ha)について、アメリカの新興防衛企業であるアンドゥリル・インダストリーズが取得の意向を示していると、ロイター東京支社が6月25日に報じました。これは旧軍港を平和産業港湾都市に転換すると定めた「旧軍港市転換法」に反するのではないか、と危機感を抱いた横須賀市民が7月23日、横須賀市に誘致を阻むよう要請しました。
旧軍港市転換法(1950年制定、施行)
第1条 この法律は旧軍港市(横須賀市、呉市、佐世保市、舞鶴市)を平和産業港湾都市に転換することにより、平和日本実現の理想達成に寄与することを目的とする
第8条 旧軍港市の市長は、その市の住民の協力及び関係諸機関の援助により、平和産業港湾都市を完成することについて、不断の活動をしなくてはならない。
2 旧軍港市の市民は、前項の市長の活動に協力しなければならない。
要請したのは横須賀市民九条の会(1200人)。有志6人が市役所を訪れ、上地克明横須賀市長あての要請文を提出しました。

横須賀市はロイターの報道後、日産自動車に事実関係を確認。「まだ何も決まっていない」という報告を受け、記事は憶測であり、市長がコメントすべきタイミングにない、と説明しています。
一方で、横須賀を地盤とする小泉進次郎防衛相は昨年12月4日、自身のX(旧ツイッター)で、日本法人の立ち上げのため来日したアンドゥリル社の創業者と意見交換し、「このご縁を大切に、日本の防衛産業の発展と日米で新たなサプライチェーンの構築につなげていきたいと思います」と記しています。また地元の経済人で作る「横須賀令和会」が小泉防衛相を表敬訪問した際にも「防衛省・自衛隊が、国内の防衛生産・技術基盤の強化に取り組んでいると説明を受け、防衛産業への進出の呼びかけがあった」(タウンニュース5月29日号)ことが判明。
東京新聞も、ロイターの報道をベースに7月21日付けで「攻撃用ドローン導入を進める防衛省……市民が危ぶむ追浜工場の『軍需転用』は」を掲載しました。
横須賀市民九条の会の要請文ではこうした一連の動きに「懸念は拭えない」と主張しました。
私たちは、アンドゥリル社が追浜工場を取得し、軍事用ドローンの製造拠点にすることに反対です。民間の土地であっても、横須賀には軍都から平和産業港湾都市への転換を市是とする軍転法があり、『戦争しない、武器を持たない』と決めた憲法の下にあるからです。
製造が予定されているドローンは殺人兵器です。アンドゥリル社は、地元の雇用、国産部品の使用を言及しています。私たち市民が人を殺すための武器を作り直接加害に加担する。他国を攻撃する武器の製造拠点になることを受け入れることはできません。そして、兵器製造でも日米が一体となり、海外の軍需産業を日本に引き入れる発端になる危険性を考えると、横須賀にはこの動きを止める責任があります。
追浜に米軍の軍需産業ができれば、米軍基地、自衛隊基地、弾薬庫に繋がる攻撃の的が拡大し、戦争に巻き込まれる可能性が大きくなることは言うまでもありません。
上地市長も、軍転法の精神を生かすことを市是としています。5月21日に日本維新の会の松沢成文参院議員(前神奈川県知事)が、参院外交防衛委員会で、横浜市神奈川区にある米軍施設「ノース・ドック」を日産追浜工場跡地に移転させる提案をしたのに対し、上地市長は翌22日に、市のホームページに見解を発表。
「横須賀市は、戦後、旧軍港市転換法に基づき、平和産業港湾都市を市是として、旧軍用地を公共施設や産業用地として転用を進めてきた。日産追浜工場についても、元々は旧軍用地であったが、追浜地区の工業団地の中核として転用を進め、国との粘り強い交渉を経て、米側から約80万平方メートルの提供水域の返還を受け、埋め立ても行われてきた。(中略)このような、本市の歴史や努力、そして基本姿勢を、全く理解されない中での発言については、 到底看過できるものではなく、強い憤りを禁じえない」
横須賀市民九条の会は、このコメントを評価した上で、アンドゥリル社の誘致についても同様に、憲法と軍転法に記された市の責務を果たし、自衛官を含む市民の命を第一に考え市政の方向を示してほしい、と求めました。

横須賀市側は経済部企業誘致・工業振興課の田口尚之課長が応対しました。田口課長は「アンドゥリル社の誘致は憶測の域を出ず、市長からはコメントできない。一方で松沢議員が国会で発言したことに自治体の長が反応するのは当然のこと」と話しました。また昨年7月29日に、上地市長が日産自動車のエスピノーザ社長と面会した際、「雇用の創出や地域の活性化など市の発展に資する活用にしてほしい」と要望。エスピノーザ社長がこれを了承し、跡地利用については市と日産が連携して進めるということになっている、と説明しました。
申し入れの場で、追浜に住む長野久美子さんは「地元の人間はすごく心配している。私たちはこれまで日産のあるところだね、と認識されてきた。新しい車両を積んだトレーラーが通るのは地元の誇りだった。それが兵器に変わったら、と考えると不安しかない」と訴えました。
要請後、長野さんは記者の取材に対し、「軍需産業は必ず兵器を消費するための戦争を必要とする。長い目で見れば、軍需産業に頼った経済発展はあり得ない。市長は市是を守って、誘致を止めてほしい」と話しました。


