刑法の性犯罪規定が2023年7月13日に改正、施行されてから3年が経ちました。不同意性交等罪などの趣旨が実務で生かされ、性暴力被害者が適切に救済されているかについて当事者団体、人権団体がアンケートを実施し、実態把握に乗り出しました。
アンケートを行うのは性暴力被害当事者が生きやすい社会を目指す一般社団法人Springと国際人権NGOヒューマンライツ・ナウです。対象は法律実務家(弁護士)と性暴力・性犯罪を取材してきたメディア関係者。ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子弁護士は「改正刑法によって被害者が救われているかというとややかけ離れた状態にある。施行から5年後に見直すことになっているが、法務省は実態調査をしていない。被害者の救済に至っていないとしたら、自分たちで調査をし、どこに問題があるのかを明らかにしたい」と述べました。
「不同意」の構成要件と8類型
改正刑法では強制性ではなく、同意の有無を問う不同意性交等罪、不同意わいせつ罪が導入されました。
構成要件として
①同意しない意思を形成、表明または全うすることが困難な状態にさせること、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じること
②わいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせたりすること、または相手がそのような誤信をしていることに乗じること
さらに①の原因として8類型を列挙しています。
❶暴行または脅迫
❷心身の障害
❸アルコールまたは薬物の影響
❹睡眠その他の意識不明瞭
❺同意しない意思を形成、表明または全うするいとまがない
❻予想と異なる事態に直面させて恐怖または驚愕させる
❼虐待に起因する心理的反応
❽経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる

加害者が「同意誤信」で無罪になるケースも
伊藤弁護士は「加害者が被害者の同意があったと誤信していたという理由で無罪判決が出ている。何のために8類型を列挙したのか。同意がなかったことを証明するハードルが高くなっていないか。盗撮事件についても同意誤信がまかり通っている。検察の起訴率は上がらず、私たちの知らないところで不起訴になっている事件も多い」と指摘しました。
その上で、「日本の不同意性交はNo means No型(ノーと言ったらそれ以上はダメ)だが、同意誤信の主張がまかり通るようであれば、Yes means Yes型(イエスと言った時のみ同意がある)に法改正をしなければならない」と述べました。
独身偽装や同意なく避妊具を外す行為も調査
Springの新畑信さんは「性暴力とは同意のない性行為、となったはずが、同意しない意思の形成について警察、検察、裁判所の判断が本当に機能しているのか疑わしい。検察トップによる性暴力の告発もあった。独身と偽って性行為の同意を取る『独身偽装 』事件も横行している。現場の実態を客観的データとして可視化したい」と述べました。
◆法律実務家向けアンケートはこちら。
主に弁護士を対象に、改正刑法が捜査や裁判の現場でどのように運用されているのかを把握する。調査では、警察・検察による捜査段階、不起訴となった事案、起訴後の裁判という3つの段階に分けて、改正法の趣旨が適切に反映されているかを検証。具体的には、被害届の不受理や証拠収集の状況、不起訴や無罪となった理由、「不同意」や「同意誤信」がどのように判断されたか、被害者保護制度の運用や二次被害の有無なども調査する。一方で、改正法の趣旨が適切に実践された事例についても回答を求め、課題だけでなく望ましい運用も含めて実態を明らかにし、今後の制度改善や法改正の議論につなげる。
◆メディア向けアンケートはこちら。
改正刑法施行以降に性犯罪・性暴力事案を取材したメディア関係者を対象に、事件・事案ごとの取材経験をきく。改正前後での取材方針や報道の変化、警察・検察・裁判所の対応、不同意性交等罪の運用状況や「同意誤信」が争点となった事案の実態。不同意性交等罪の8類型を記事に記載したかどうかや、被害者への二次被害の有無などを幅広く尋ねる。また、性行為中に同意なく避妊具を外すステルシングや独身偽装などの事案や、公訴時効延長の効果についても調査する。
Springの延川美沙さんは「同意誤信を理由とした無罪判決については、被害者への責任転嫁をあおる記事が雑誌やネットで見受けられる。8類型を裏付ける事実を書くことによって、加害者は同意がなかったことを認識していたか問われる。声を上げた人をバッシングしない報道につなげてほしい」と話しました。

