公的支援から取りこぼされる10代の女性たち 民間団体のアウトリーチに同行

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公的支援がとりこぼしてきた10代の女性 民間団体のアウトリーチに同行したよ

DVや性暴力、予期せぬ妊娠、不安定な働き方や経済的な苦しさなど、女性たちが直面する問題はさまざまで、複数の問題を同時に抱えることもあります。これらの問題は「個人的なこと」ではありません。「女性をとりまく社会構造の問題」なのです。

2024年4月から、女性の人権が守られ、安心した暮らしを送れるよう、女性のための新しい法律がスタートしました。どんな理念のもとに生まれた法律なのか、支援を行う現場にはどんな課題があるのか。女性たちが必要とする支援とはどのようなものか。シリーズ「困難な女性支援法」の第2回です。

第2回 「公的支援がとりこぼしている10代の女性たち」 民間団体がアウトリーチ

4月に施行された困難女性支援法では、虐待や性暴力などの被害を受ける若い女性たちをどう支援していくのかも大きな課題です。10〜20代の女性たちは、従来、家出とみなされて警察の補導の対象になったり、地方から出てきて東京で性搾取の被害にあっても公的な支援や保護が受けられなかったりと、制度の狭間で支援から置き去りにされてきました。

困難を抱える若い女性を支える時に、必要な視点とは何か。10年以上、東京・新宿の歌舞伎町をさまよう少女たちに声をかけ、伴走してきた、民間団体の問いかけです。

“買う側‘’の存在や暴力が見えてきた

一般社団法人Colaboのスタートは2011年。代表の仁藤夢乃さんは高校時代、月のうち25日を渋谷で過ごしていました。家族も理解してくれる大人もなく、「自分には居場所がないと思っていた」そうです。やがて高校を中退した仁藤さんに寄ってきたのは、性搾取を目的とした大人ばかりでした。そうした自身の経験から、「家が安心して過ごせないときに、頼れる大人のいない中で、町やネットをさまよう少女たちが性売買の斡旋業者や買春者からしか声をかけられず、性搾取の被害に遭う現状をなんとかしたい」と活動を始めました。

2013年に法人化し、少女たちが夜、立ち寄れる「スペース」を作り、アウトリーチ(路上での声かけ)を始めました。家に帰れない女の子たちに、「何してるの?」「休めるところあるよ、来る?」「お腹すいてない?」などと声をかけ、食事や布団を提供しました。また、女の子が自ら駆け込める「シェルター」の運営も手がけてきました。

東京・歌舞伎町でアウトリーチをするColabo仁藤さん

路上で出会う女の子たちから話を聞くうちに、「児童売春」という言葉の裏にある、少女達の貧困や虐待被害、買う側の存在や暴力が見えてきました。「JKビジネス」が社会問題化した2015年には、仁藤さんとColaboにつながる女の子たちが、国連の児童買春・児童ポルノ・人身取引に関する特別報告者と面談し、調査に協力しました。外国人記者クラブで、日本の児童買春について記者会見も開きました。2016年には、性暴力や性搾取にあった少女たちの言葉や写真で構成する「わたしたちは『買われた』展」を新宿で開催、全国での巡回展につながりました。

Colaboの活動で大切にしている価値観は、少女たちに必要なのは、特別な「支援」ではなく「当たり前の日常」だということ。支援者としてではなく、少女たちの伴走者として、共に考えたり、泣いたり、笑ったり、怒ったりしたい。すべての少女が「衣食住」と人との「関係性」を保って、暴力や性搾取に行き着かないですむようにしたい。仁藤さんは、そう語ります。

私たちが普段関わりたいと思っている子たちは、小さい頃から助けを求めても適切に対処されなかったり、家が安心できる環境になくて路上に出たり、そこで性搾取に遭うと「被害」よりも「非行」として処罰的、指導的な対応を受けたり、そういう経験をしてきた。大人への不信感とかあきらめの気持ちが強い子が多い。今日をどう生きるかでいっぱいいっぱいだから、相談してみようとか誰かに頼ってみようとか思わず、性搾取の中にいる子たちが多いです。公的な相談窓口に自分からは来ない。加害者の側がそういう子を狙って近づいているので、私たちもそういう子を探してつながることを大事に活動しています。(仁藤さん)

問題解決や相談を目的としない

歌舞伎町にある新宿区役所前で行っていたバスカフェ

2018年、Colaboはバスカフェを開始しました。新宿・歌舞伎町や渋谷の繁華街にマイクロバスを停め、その前にテントを張って、椅子とテーブルを並べ、軽食やお菓子、飲み物を提供。Wi-Fiの使用やスマホの充電ができ、バスの中では生理用品や衣類、日用品などの配布も受けられます。

問題解決とか相談を目的としないことを大事にしています。女の子たちが自分のままでいられる場所、誰かに見返りを求められる心配をせずに、必要なものをもらえる。それも、支援されているという感じではなくて、「欲しかったら持ってっていいよ」と気軽にもらえる。そういう雰囲気作りを大事にしています。こちらが何かしてあげる、ではなく、自分で家を借りたいとか、休めるところがほしいとか、性売買から抜け出したいとか、そういうことがあるなら一緒に動けるよ、と選択肢を伝えて関係性を作っていく。(仁藤さん)

こうしたアウトリーチ活動が行政の目にとまるようになり、同じ年に厚生労働省と東京都から3年間の「若年被害者支援モデル事業」を委託されました。2021年に本事業化され、実態に見合った予算が支給されるようになった矢先に、Colaboは深刻な活動妨害に見舞われました。女性の性的な姿態を強調した温泉PRキャラクターを仁藤さんが批判したことをきっかけに、ゲームクリエイターの男性が、ツイッター(現X)やYouTube上で、Colaboの会計に疑問点があるなどと指摘。東京都に情報開示請求をかけるなどし、フォロワーたちを巻き込んで「疑惑」を拡散しました。都の監査委員は、指摘の大半は「妥当ではない」としました。違法行為も確認されませんでした。再調査の結果をもとに、都は2023年3月、「一部領収書が添付されていない」「事業を兼務する税理士の報酬が按分されていない」などの点についてColaboに改善を要求したものの、事業に委託料を上回る経費がかかっていたため返還は求めず、「事業としては適切な支出の範囲内」と結論づけました。

妨害活動がエスカレート

こうした都の見解が示されてもなお、ネット上での誹謗中傷やデマがやまず、複数の男性がバスカフェの前で大声を出す、盗撮する、脅すなど、活動妨害がエスカレートしました。

今までも私たちが性売買や性搾取の被害当事者と一緒に声を上げると、いろいろなデマや誹謗中傷がありましたが、ここまで酷いのは初めて。背景には、困難女性支援法が成立したことがある。被害にあっている少女たちの困難とか性搾取の問題に、国や都が目を向けて法律にまでなった、そこに対する危機感をもっている人たちが、デマに便乗して攻撃してきているんだと感じています。(仁藤さん)

複数のシェルターが場所を特定され、Colaboは17人分の居場所を閉鎖せざるを得ませんでした。

また、都の若年女性支援事業が2023年度から委託から補助事業に変わり、都が求めた場合、少女らの個人情報を提供することが義務づけられました。そのため、少女たちの個人情報を守るために、仁藤さんは事業への応募を断念しました。

同時に、東京都配偶者暴力被害者等セーフティネット強化支援交付金事業の対象外になりました。都が要綱から「居場所のない若年女性への居住場所の提供」という文言を削除し、「配偶者間の暴力」に対象を絞ったためです。

新宿区役所前に停めていたバスカフェも、都が「安心してできる環境になく、効果的な支援活動は難しい」とColabo側に中止を求め、場所を移すことになりました。

Colaboは23年度、公的な事業委託費や交付金など約5600万円分を失い、市民の寄付だけでの運営を余儀なくされました。

妨害の影響は深刻です。

私たちが何年も時間をかけて路上でつながっていた子が妊娠していることがわかって、保険証もない中で、私たちも一緒に行くから病院に行こうと動きだそうとした時に、その子の友達がColaboをネットで調べて「悪いことをしている人たちだ。絶対行かない方がいい」と言って、引き剥がしてしまうということがありました。私たちが出会う子たちって、いかに1日早く動けるかによって、人生の選択肢が変わってしまう状況にいる子がすごく多いんですけど、そういうことが難しくなった。
東京都は危ないという理由でColaboの活動を歌舞伎町から追い出してしまって、でも、私たちとしては危ないところに少女たちがいるからこそ、そこで活動している。そこで少女たちが被害にあっているからこそ、路上に出て行って繋がる活動だった。都は危ないからという理由で少女たちを街に置き去りにしてしまった。(仁藤さん)

変わる性産業の構造 被害も低年齢化

東京の少女たちへの性搾取の状況を20年間みてきた仁藤さん。

今、性産業の構造が変わり、被害に遭う少女たちが低年齢化しているといいます。

ホストクラブ、メン地下(メンズ地下アイドル)、メンコン(メンズコンセプトカフェ)などの客引きに、「一杯目はタダだから」「1000円で遊べるよ」「未成年でも大丈夫」などと路上で声をかけられて店に連れて行かれ、高額な料金を請求されて、その代償として売春させられる——。そうした被害が相次いでいます。

悪質ホスト問題として、国会でも再三取り上げられています。岸田文雄首相も昨年11月、「治安対策上問題のあるグループが背後で不当に利益を得ている可能性もある」「高額な売掛金の返済のために海外での売春を持ちかけられる事例もあることを承知している」と答弁しました。困難女性支援法では女性相談支援センターがまず相談を受け、必要があれば警察や法テラスにつなぐことになっています。一方で、ホストクラブへの規制強化は、進んでいません。

仁藤さんは、「悪質ホスト」問題と呼ぶことで、問題が矮小化されてしまうと懸念します。

少女たちが、ホストに高額な売掛金を取られたり、その支払いのために路上に立って売春をしたりするのは、そうした「性搾取の構造」があるからです。

コロナ禍で高校生、大学生まで貧困が広がり、売春を「当然の選択」だと思わされている。痛みを感じることができず、嫌だとすら思えない。「お金がないから、そういうものだ」と思っているように見えます。
「18歳成人」になり、10代で賃貸住宅の契約ができるようになった。そこに家出をしてきた15、16歳の子が間借りし、性搾取に遭っているケースもあります。
一方で、買春者は堂々としている。大久保公園には一晩に100人から200人の買春者が現れます。マスメディアでも「立ちんぼルポ」「売春する少女たちの選択」などと女性側の事情ばかりが取り上げられ、そのたびに買春者が増えます。
ホストが問題だとわかっているなら、被害者の声を聞き、根本的な規制をすべきでしょう。被害者を補導したり、保護したりする機能を強化するだけでは、問題は解決しません。(仁藤さん)

施行2週間前のパブリックコメント締め切り

東京都は困難女性支援法の施行にあたり、今年2月、困難な問題を抱える女性支援基本計画案を公表。法施行の2週間前にあたる3月18日を締め切りにパブリックコメントを募集しました。この経緯をめぐり、「バタバタすぎる」「泥縄」などの批判がSNSでもあがりました。

仁藤さんはパブリックコメントで、計画から抜け落ちている背景として次の4点を指摘しました。

・東京都では困難を抱える女性を狙う性売買業者や買春者、ホストやメンズコンカフェなどの性搾取でもうける業者らが多く集まり、女性に声をかけ、つながり、借金を背負わせ性売買に誘導するなどの被害が深刻となっている。
・東京都では困難を抱えた女性が人身取引や性搾取される被害が後を絶たず、彼女たちが性搾取から抜け出すための支援が必要である。
・東京都には全国各地から困難を抱えた女性が集まってきており、そうした女性に対しても東京都で被害から抜け出し、基本的な人権が尊重された生活保障を行うことが必要である。
・公的支援がとりこぼしてきた女性たちに対して民間団体が柔軟に対応し、その経緯とノウハウを活かして支援を行ってきた。

その上で、「ホスト等の性搾取被害の実態調査」「民間団体との対等な連携」「民間団体を妨害から守り、安定した運営ができるようにする」などの措置を求めています。

これまで、公的支援が取りこぼしてきた女性が多くいました。本人の拒否を理由に支援が受けられない女性も多くいた。でも、それは従来の支援には制約が多かったからです。スマホが使えて、通勤通学ができる一時保護所など、状況やニーズに応じて本人が選べるような選択肢を示し、本人の最善の利益となるように、今ある資源を活用すべきです(仁藤さん)

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