離婚後の共同親権を導入する民法改正案が衆議院で可決され、参議院で審議中です。
DVやモラハラなどの被害を受け、やっと離婚したのに、また親権をたてに縛られるのか。両親の間に紛争が続き、子どもに不利益が及ぶのではないか。そんな不安や懸念を抱えた人たちが8日夜、国会議事堂正門前で3回目のスタンディングを行いました。雨の中、北海道、沖縄からの参加者を含む400人が参加し、顔を出して意見を言うことが難しい数百人がオンラインで見守ったこの集会で、「共同親権」の正体が見えてきました。
共同親権の導入で壊されようとしているものは、両性の平等や個人の尊厳、思想・良心の自由を定めた日本国憲法なのではないか。明治憲法、民法の下で、女性や子どもを抑圧してきた体制への逆コースなのではないか。
複数のスピーチからその危惧が伝わってきました。
まずはこちらの動画(2分11秒)をご覧ください。
動画でご紹介した以外の部分も含めた、角田由紀子弁護士、太田啓子弁護士のスピーチです。
◆角田由紀子弁護士
こんばんは。弁護士の角田です。1975年に弁護士になり、50年近く、弁護士をしています。多くの女性弁護士と同じように、離婚関係事件や親子関係事件を手がけてきました。途中からは、DV防止法ができたのでDV離婚も数え切れないくらいやってきました。家庭裁判所とは長いお付き合いなんですね。私の職場みたいなものです。それで共同親権は、夫婦の間で合意できなかったら家庭裁判所が決めるっていうことになっているでしょう?だいたいね、法律論以前に、協議ができない、話し合いが付かないから離婚するわけね。離婚したら、2人で仲良く話をしなさいなんて、なんてとんちんかんなことをと思うんです。
私が住んでいる静岡県の沼津には、静岡家裁沼津支部があります。支部の家庭裁判所はどうなっているか。専任の裁判官はいません。静岡地裁沼津支部の民事の裁判官が家裁の裁判官を兼任しているんです。それはどこの支部もみな同じだと思うんです。そしてそれを象徴するように、2階が地裁で、3階が家裁という構造になっているんですね。いまだってアップアップしている裁判官が、これ以上、共同親権になったら困ってしまうということがあるわけですね。
次に裁判官の問題があります。私の知る限り、家庭裁判所の裁判官は離婚についても知らないんですが、とりわけDVについてはほとんど知らないと思うんです。証拠の写真があるような暴力はいくらなんでもわかるんですが、一番DVの中で多いのは精神的DVですよね。私も何件も(代理人を)経験したんですが、たとえば夜中に説教を始める。明け方までやる。自分は翌日は休みなんですが、妻は働いていて出勤日。そういうのを何件も見てきた。それはいわゆる証拠が残らないんですね。裁判官はいくら説明しても、全然想像できないというのが大きな問題なんですね。家裁の裁判官がそういうことを理解できるように研修や教育を受けているかというと、ないのではないかと疑っているんです。その成果を見たことがないんです。
国家予算の中で司法関連の予算がどれくらいあるかご存じですか?
0.3%です。1980年代には0.4%で、だんだん減ってきているんです。この減ってきている状況の中で、(DVについて)改めて裁判官に訓練するようなことは予算的にもできるはずはないし、やる気もないんじゃないか、と私は思っているんですね。お金がないということはすごく大きなことなんです。
もう一つ、裁判官が決めるということについては、昨日の参議院の法務委員会でも、参考人の木村さん(木村草太=東京都立大教授・憲法学)が言っていたようなんですが、子どもを育てるということは子どもの身の回りの世話をするということだけじゃないんですね。私も子ども2人を働きながら育ててきましたが、子どもを育てるということは、私にとっても子どもにとっても「思想・良心の自由」の問題なんです。どういう生き方をするかという問題なんです。「思想・良心の自由」を否定する、あるいは曲げることを強制するような法律っていうのは憲法違反じゃないかと思うんですね。
子どももお母さんも、どういう人生を生きていくかということは、「思想・良心の自由」そのものなんです。それを否定する法律を通すということは絶対にあってはならないと思うんですね。
なんで今頃こんなものを持ち出すのか。それはやはり「新しい戦前」を国民が受け入れるようにする。家父長制を復活させて、夫や父親の言うことを聞く。反抗しない。そういう人間を作り出すというのが、この奧にあるのではないかと思うんです。そこから考えても、絶対にこの法律を成立させてはいけないと思っています。
◆太田啓子弁護士
3月29日に国会前集合がありましたよね。4月10日にもやりました。でも、今日、ここの状況は全く想像ができなかった。ずっと世界の隅っこで声を挙げている気分だった。今でこそ、共同親権ってやばいっぽいよね、という機運があるけど、私たちがこじ開けてきたと思うんですね。だから本当に声を上げることに、すごく意味があり続けてきたし、今後もあると思うんです。
廃案にしたいし、廃案じゃないとおかしいです。
仮に作るにしたって、この会期じゃなくたってよかろうと思うんです。色んな問題点が、衆議院、参議院で指摘され、国会議員の方々が期待以上に素晴らしい質疑をしてくださったと思っている。聞きたいことはほとんどすべて聞いてもらって、法務省、法務大臣がどういう答弁をしたかということもわかってきました。今後に向けて大事な武器をくれたなと思っている。
長い闘いになると思います。
本当にこれは家父長制との闘いなんですね。すごくそれが分かってきました。(男の人が)自分が社会で鬱屈したものがあって、でも家庭の中でやっと手に入れた女と子どもだけは、いつまでも支配したい。(共同親権とは)そんな暗い怨念みたいなものが思っていた以上に、こんなに厚く強いんだなというのが、よく見えた機会だと思うんです。法案は通ってしまうかもしれませんね。でも、終わりません。成立しても廃案に、と声を上げ続けたいと思います。
法律は変えられますから。
ぜひがんばっていきましょう。
憲法第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
憲法第19条 思想及び良心の自由はこれを侵してはならない。
憲法第24条 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。