下着窃盗も、ストーカーも「支配欲」 その先に性暴力がある 日本版DBSめぐり女性たちが加藤鮎子こども家庭担当大臣に要望

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下着窃盗やストーカーは、性暴力じゃないの?

保育士や教員など、子どもに接する職業に就く人に性犯罪歴がないかを確認する制度「日本版DBS」の創設に向けた法案審議が、国会で進んでいます。

対象とする性犯罪歴に「下着窃盗」や「ストーカー」を含めないという大臣答弁をめぐり、性暴力の被害当事者や連帯する女性たちがオンラインで反対署名を集め、5月21日午後、法案を所管するこども家庭庁に提出しました。署名数はわずか1週間足らずで3万2056筆を数えました。

下着窃盗は「人に対する性暴力とは言えない」?

問題となったのは加藤鮎子こども政策担当大臣の5月14日の答弁です。

早稲田ゆき議員(立憲)の質問に対し、DBSの対象は「児童等の権利を著しく侵害し、その心身に重大な影響を与える性犯罪」と定義し、「人の性的自由を侵害する性犯罪や性暴力の罪等に限定している」と答えました。そして「下着窃盗」は「窃盗罪」、「ストーカー規制法違反」は「つきまといや粗暴な言動等を繰り返すことなどを内容とする罪」で「人に対する性暴力とは言えない」「(DBSが対象とする罪とは)その性質が異なり、本法案の対象としない」としました。

性被害の実態、性被害者の実感から大きくかけ離れているこの答弁に、「性被害者への二次加害では?」などの声がオンラインで上がり、署名運動に発展しました。呼びかけたのは、女性が主体として利用できる避妊法や性教育の普及を求めてきた「なんでないのプロジェクト」の福田和子さん。署名提出に伴う記者会見では5人の女性たちがリレートークで訴えました。

性暴力の本質は支配欲

◆性被害被害に遭ったときのための情報提供を手がけるプラットフォームTHYMEの卜田素代香さん

私は5年前に、全く知らない人間に自宅に侵入され、強制性交を受けた被害当事者です。その後4年間をかけて刑事手続き・裁判を行い、数ヶ月前にやっと決着がつきました。

まず、保護法益について、被害当事者として何を感じてきたのかを述べます。保護法益とは社会が何に価値を置いて、その法律で何を守るのか、というものです。何が保護法益とされるのかは、その時代、社会の認識を反映するものだと言えます。性暴力とは何に対する罪なのか、現在は、性的自由を侵害し、個人の尊厳を踏みにじるものと言えるでしょう。被害者を人ではなくもの・記号として見て懐柔し、それによって支配欲を満たす行為です。しかし、かつては性犯罪刑法の保護法益が、女性の貞操・名誉とされていた時代もありました。その時代は法律によって性的自己決定権は保障されていなかった。同時に男性は被害者になれませんでした。

今回、加藤大臣が答弁したように、下着を盗むという加害行為を窃盗罪にあてはめると、下着という財産が保護法益として保障されていることになります。しかし、この加害行為によって奪われるものは、下着だけでしょうか? 下着を盗む行為はその持ち主をものとして見て、その個人の体、プライベートパーツの延長線上にあるともいえるものを盗むことで、その身体に触れずとも、加害者は支配欲を満たしているのです。体液をかけられる、この行為も器物損壊罪ですが、自己決定権・尊厳を深く傷つける加害行為です。

人の写真をわいせつな言葉とともに拡散する、いわゆる「晒し」被害。法を適用すると、侮辱罪・名誉毀損罪ですが、これらが罪に問われることはほぼありません。私は主に女子生徒がこの加害行為に苦しむのを見ています。法律のカテゴリーでは性犯罪とされませんが、確実に被害に遭っている人がいる。人の尊厳を著しく侵害する行為です。

性暴力は行為そのものというより、支配欲を満たす手段として、加害者に依存的に用いられていることに本質があります。

そのため、行為をカテゴリー化して、これは性暴力、これは対象外という運用をしてしまうと、さらに重大な事案への前段階であることを見逃してしまいます。

リレートークに参加した女性たち=東京都内

認知のゆがみをもとに加害行為を重ねる

加害者には加害行為を行う時に悪気がありません。下着窃盗、盗撮、のぞき、ストーカー行為、ひわいな言葉を被害者の写真とともにSNSに投稿する、郵便物を盗んで個人情報を集めるといった様々な行為を繰り返しながら、どこまで許されるのか、これは許されたからそこまで悪い行為ではないと、自身の加害行為を正当化し、認知のゆがみを強化していく。

私が強制性交の被害に遭う3ヶ月前、加害者は私が住むマンションに侵入し、住居侵入罪で逮捕されていました。そのときの目的は私の部屋のベランダをのぞくこと。下着を盗むことも試みていました。目的は私の部屋や性暴力であったにもかかわらず、住居侵入罪と判断されたため、次の日には釈放されました。その日、不在にしていた私はそのような事案があったことも知らないまま、3ヶ月後に強制性交等致傷の被害に遭いました。性暴力の前段階である住居侵入を実行し、現行犯逮捕されても、釈放され許されたことで、加害者にとっては成功体験となりました。加害者は学習によって、行為やゆがませた認知をエスカレートさせます。加害者は裁判で、「なぜ1度逮捕されたマンションに再び侵入し、性暴力を行ったのか」と問われ、「前に侵入したときのほとぼりが冷めた、警戒が解けたと思ったから」と答えていました。

私は住居侵入を知らなかったのですが、「(侵入事件があっても住み続けている)警戒されていない女性であれば、わいせつな行為をしても許してもらえるだろうと思った」と述べました。

性暴力の加害者というと、どこか自分とは遠い存在にしたいと思ってしまうかもしれませんが、この加害者は普通に社会的生活を送っていた人間です。

普通の人が認知のゆがみをもとに加害を重ねていくのが性暴力の実態です。

DBSの対象を、単に罪名で適用し、加害行為をこれであればセーフとすることは、私のケースの加害者のようなすでに重大加害行為のプロセスを踏んでいる人を見逃してしまう結果につながります。

法律を制定するというのは、国として、何を性暴力と考え、何を許さないのかを社会に広く伝える機会にもなります。

これまでも法の制定によって社会の常識が変化してきたように、今、国として、性暴力とは個人の尊厳を著しく侵害する行為であり、その本質は支配欲を満たす手段として機能する点にあること、そのような行為に関わった者は子どもにかかわる職業に就くことはできないと、社会・加害者へのメッセージとしなければならないと思います。

加害者から見える社会の常識を変えていかなければなりません。

日本版DBSをより有効で意味があるものとするため、性暴力が起こるまでのプロセス、加害者思考の実態を知った上で、真摯な検討をお願いします。

性犯罪の定義狭いと、声を上げられなくなる

NPO法人「mimosas」の代表副理事で臨床心理士のみたらし加奈さん

「mimosas」は、臨床心理士、公認心理師、産婦人科医、助産師、元警察官などとともに、性被害や性的同意について、専門的な知識を発信するメディアです。

臨床心理士として携わっている加害者臨床の観点からお話します。加害者臨床というのは、性犯罪を犯した人に対して、再犯を防ぐ心理的アプローチを行うものです。

性犯罪の再犯に繋がりやすい要素には依存症、依存性が含まれています。多くのアディクションは段階的に行われるものが多く、仮に加害者に性依存があったとすれば、下着窃盗やストーカーはその段階に含まれるという懸念は大きくあると思います。

加害者臨床ではそういった認知のゆがみ、性依存に対して、直接的なアプローチを行っていくんですが、わかりやすく言うとアルコール依存症の方にアルコールを提供しない方がいいというのと同じで、性依存の方に対してのアプローチの中で子ども達に接する機会を設けるというのは、加害者臨床の観点からも懸念が大きくあるということなのですね。

何を性暴力とするかしないかは、そもそも政府が決めるというより、性被害者がそれを認知して決めていくことの一つだと思う。

法律がしっかり決めすぎてしまうことで、声を上げられない当事者が多くいると思うので、性犯罪の定義を広げて、日本版DBSの対象に下着窃盗、ストーカーを入れていただきたいと思います。

被害者の恐怖や不安、怒り、哀しみを聞いて

◆女性の政治参加を進める「FIFTYS PROJECT」のメンバーで大学生の山島凜佳さん

(加藤大臣の)答弁を最初に聞いた時に、2次加害だと思いました。この答弁は性暴力の本質をつかんでいないと思いました。むしろ被害者非難を内在していると思いました。それは母親からの言葉でもあり、社会からの言葉でもあり、この答弁もそれに含まれていると思いました。被害者は何も悪くない。加害者が100%悪いのに、その加害者をしっかりと取り締まる法律がないということ。性暴力を恐れたり、これまで経験したりした人が感じた恐怖や不安、怒り、哀しみも、どんな感情も妥当なものであり、聞かれるべき、信じられるべき声です。今を生きている人たち、これから生きていく人たちが、加害者にも被害者にもならなくてすむ社会をつくるために、手を尽くしていただきたいと思います。性暴力を許さないという社会は、一人一人が作っていくものですし、法律はそれを規定する大きな力であると思います。これからの社会を作っていくために、皆さんが持つ責任を果たしていただきたい。日本版DBSの効力を最大限生かせるように、皆さまにもご尽力いただきたいと思います。

子どもの権利を守るためにもう一歩踏み込んで

◆NPO法人「ピルコン」理事長の染矢明日香さん

年間で約2万件の中高生向けの性教育講演を行い、公認心理師としても活動しています。

内閣府が実施した若者の性暴力被害の調査では、約4人に1人が性暴力被害を受けた経験があると回答しています。深刻な被害に遭った場所として一番多いのは「学校」です。加害者は通っている学校の教職員、先輩、同級生、クラブ活動の指導者などが多く、3割を超えています。子ども・若い人たちが家庭以上に長い時間を過ごすかもしれない学校を、塾も含め、安全安心な環境にしていく必要があります。

性暴力とは自分の気持ちが尊重されず、自分の心・体・性について自分で決める権利が否定される人権侵害です。下着窃盗は生活に困って財産目的で下着を盗るのではなく、自分の性的欲求や支配欲求を満たすことを目的とした犯罪行為です。ストーキング行為も相手の拒否を無視し、自分が相手と親密になりたい、相手を思い通りにしたいという欲求をみたそうとするものです。ストーキング行為は反復する被害をもたらし、被害者にとって危険性が大きく、時に命の危険を伴う重篤なケースに発展します。

法務省の再犯防止推進白書によれば、少年院では、強制性交等、強制わいせつや痴漢といった性犯罪をはじめ、下着の窃盗や住居侵入など、性的な動機によりした非行も含めて性非行防止指導を実施しているといいます。また保護観察所でも同様に、自己の性的欲求を満たす目的の犯罪行為を繰り返すなどの問題傾向のある者に対し、再犯防止プログラムを実施し、再犯率の低下に貢献したというような報告もあります。しかし、このような再犯防止策の範囲は限られています。

子どもへの加害の場合のみ、DBSの対象にすればいいのでは、というご意見もありますが、子どもを対象とする性犯罪は、もともと子どもに対してのみ性的欲求が向くタイプと、本来は大人に対して性的関心があるものの代償として子どもに関心を向けるタイプがあり、割合的には後者が多いといわれています。

初犯が大人を対象とする犯罪行為であっても、その後の再犯は子どもを対象にする可能性は否定できません。

日本版DBSで本当に子どもを守ろうとする気があるのか問いたいと思います。

すべての子どもたちが、安心安全に学校で学ぶことができる環境整備として、子どもの権利を守る立場から、ぜひもう一歩踏み込んでいただきたいと思います。

大臣答弁の撤回を求める

リレートークを受け、こども家庭庁成育局長の藤原朋子さんは「こどもまんなかということで子どもを性暴力、性犯罪から守りたいという思いは同じぐらいの熱量で、今回、この法案の提出にこぎつけました。足りない部分があるというご指摘は重く受け止めます」と話しました。

その上で、「本日いただいた要望書は持ち帰って加藤鮎子大臣にもお渡しし、明日(5月22日)の法案審議でも改めて、加藤大臣からも丁寧に答弁するようにお約束したいと思います」と話しました。

早稲田ゆき議員は「大臣答弁で、ストーカーが人に対する性暴力にあたらない、下着窃盗は窃盗罪、と聞いて、二の句がつげないほどびっくりしました。DBSの制定、推進は望むところだが、中身に不安の要素があると、加害者に対する一つの基準になってしまい、よくないことが起きるのではないかと思いました。参考人質疑で、下着窃盗、ストーカーも支配欲という観点で対象とすべきだと伺い、有識者の意見として貴重だと感じました。答弁の撤回を大臣にお願いしたい」と要求しました。

性暴力でないと言ってしまうのは二次加害

集会の最後に福田和子さんが訴えました。

今回の提出にあたって、私の親友が連絡をくれました。

彼女はストーカーの被害に遭いました。学生時代、塾の先生からの被害でした。その前に性暴力の被害をずっと受けていたんだけれども、別れ話を切り出したら、ストーカーになったという経緯でした。家にも学校にも来るということで、家族の知るところになるわけです。ストーカーでは起訴されて有罪になりましたが、なかなか性暴力についてまでは言えなかった。少し言えたけれど、結局示談になった。その人は今でも塾講師を続けているそうです。

日本版DBSにストーカーが含まれないと、その人はこれからも塾講師を続けられることになります。 下着窃盗、ストーカー、精液をかけるといった器物損壊が、根本的に性暴力であると示せる社会になってほしいと思う。それを性暴力ではないと言ってしまうのは二次加害です。それが許される社会であってはいけないし、私たちに希望を与える日本版DBSに二次加害的なものが付随しないでほしいと思います。