教員による性犯罪裁判、横浜市教委が一般傍聴妨げ 法廷へ職員動員した問題 6月の検証は非公開

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教員による性犯罪事件、横浜市教委は隠しているの?

 横浜市教育委員会が、教職員による児童生徒に対する性犯罪事件の裁判を一般の人が傍聴できないように、多数の職員を裁判所へ動員していたことが今月、明らかになった。市教委などによると、計11回の公判で延べ525人の職員に法廷へ行くよう指示し、実際にその多くの職員が傍聴。市教委はこれまで、一般の人の傍聴を妨げた理由について「被害者の特定を避けるため」と説明しているが、該当する4件の性犯罪事件はいずれも事案の公表も行なっていない。30日に定例会見に臨んだ山中竹春市長は「自浄作用が働かない組織体制の問題が根っこにあり、うみを出してもらうことが必要だ」と言及。しかし、市教委が6月に予定している問題の調査検証は非公開で行う方針で、教員による性犯罪事件の発覚を隠蔽したとみる市民からの厳しい視線は免れない。

 問題が明らかになったのは、2019年度、23年度、24年度に横浜地裁で開かれた4件計11回の性犯罪事件の公判。横浜地裁では、傍聴希望者が多く見込まれる注目事件を除き、傍聴は法廷の収容人数に応じて先着順だ。市教委は傍聴席数に合わせて動員する人数を調整し、「協力依頼」として文書で傍聴を指示していた。公判1回当たり、最大では満席に近い約50人が呼び掛けに応じたという。今年2月に開かれた公判を前に配ったとされる文書は、市内に4カ所ある学校教育事務所長名で配布。「関係者が集団で傍聴に来たことをわからないようにするため、裁判所前の待ち合わせは避けて」「裁判所内でお互いに声かけや挨拶(会釈を含む)などはしないように」と傍聴する職員に注意を促していた。また、傍聴へ行った職員には出張費を支給し、公務として位置付けていた。

横浜市教委が教職員向けに性犯罪事件公判への動員を呼び掛けた「協力依頼」の文書

 山中市長は30日の会見で、「事実解明を一刻も早くしなければいけない」とし、今年3月に退任した鯉渕信也・前教育長を含む当時の職員への聞き取りが必要だとの認識を示した。市教委は今後、問題の調査や検証を弁護士3人に依頼する予定。組織的に動員を続けた経緯や憲法における裁判公開の原則に抵触する恐れ、出張費支給の適否を検証し、結果を6月中をめどにまとめる。市教委教職員人事課は生活ニュースコモンズの取材に「検証は第三者委員会のような附属機関の形態で行う予定はなく、公開は要しない」と回答。「弁護士や職員同士が対面で行うかどうかもまだ決めていない」とし、「検証のやり方や結果公表の方法、時期はこれから検討する」としている。

横浜市の教員による性犯罪事件の公判が開かれた横浜地方裁判所=5月28日、横浜市中区

教職員の人権感覚 不安視する声

  「(性被害の)加害者側の関係者で傍聴席を埋める行為を、被害児童の人権のためだと説明したことは、法令や人権への認識不足もはなはだしい」。28日に開いた横浜市議会一般質問で市教委の体質や意識をただした大野知意市議(港北区・無所属)は怒りをあらわにした。

 横浜市教委を巡っては3月、2020年に市立中学校の女子生徒がいじめを苦に自殺した問題で、学校側からの報告書案から「いじめ」の文言を削除していた問題が明るみになったばかりだ。この日の一般質問では、市教委の独自調査を批判する声や教職員の人権感覚やコンプライアンス(法令遵守)意識に疑問を投げかける市議が相次いだ。

 「立て続けに問題が起きており、(市教委が)単独で見直しに取り組めばよい状況ではない。おかしいと思ったことをやめる判断や仕組みがなかったことについて市全体の問題として考えるべきだ」(大桑正貴市議=栄区・自民党)「教育行政への不信を一層招いた。抜本的な改革が必要だ」(柏原傑市議=鶴見区・日本維新の会、無所属の会)。

 同日の一般質問で答弁に立った下田康晴教育長は、「気づいた課題を指摘し、声を出しやすい(組織)風土の醸成などを私自身がリーダーシップを取って組織改革を進める」などと応えたものの、裁判の傍聴を妨害した事実関係について直接説明する場面はなかった。

裁判公開の原則 憲法に抵触の恐れ

 憲法82条は裁判の傍聴について「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う」原則を定めている。一方、被害者のプライバシー保護を巡っては、裁判所が性犯罪などの被害者の氏名について公開の法廷などで明らかにしないことを決定できる。被害者側が法廷で陳述する場合、姿が見られないように間仕切りを置くなど配慮する公判も近年では珍しくない。今年2月には性犯罪などの被害者の情報保護を図る改正刑事訴訟法が施行され、逮捕状や起訴状に被告の名前などを記載せずに刑事手続きを進めることが可能になるなど、プライバシー保護における規定の厳格化が進んでいる。市教委はこれまで、職員の動員を行った経緯について、19年度に被害者らの支援団体から教員に傍聴を要請する文書があったと説明。「文書を受けて裁判所や検察庁に相談を行ったかどうかについても6月の検証で確認する」(市教委教職員人事課)としている。

子どもへの性加害事件 いずれも公表されず

 市教委によると、これまでに職員の動員が明らかとなった4件の性犯罪事件について、被告のうち1人は19年度に禁固以上の刑に処せられたため、地方公務員法の規定に基づき失職。市教委の教職員に対する懲戒処分にかかる公表基準に該当しないため、発表しなかった。残る3件の被告3人は23年度に懲戒処分としたが、いずれも事案の公表は行っていない。

 市教委の教職員に対する処分の公表基準では、懲戒処分を受けた教職員は原則、氏名や年齢、学校名を公表。わいせつ事案では被害者を特定され得る情報を除いて公表すると規定している。被害者やその保護者が公表を望まない場合は、プライバシー保護のため、処分の公表時期を遅らせ、処分の翌年度に公表すると定めている。23年度に処分があった3件については「加害者が明らかになると被害者の特定につながる恐れがあるため、公表時期を遅らせる対応を取っている」とし、今後公表の仕方や時期を検討するとしている。

 

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