自民党参院議員の松川るい氏が研修で訪れたフランス・パリのエッフェル塔でポーズを取って写真を撮り、SNSにアップした一件は波紋を広げ、松川氏が同党女性局長を辞任する事態にまで発展した。自民党は後任は当面置かない方針という。
だがこの話、ここまで尾を引く問題だろうか?
SNS上では松川氏の行動が「ふざけている」と叩かれ、さらに子連れで研修に行ったことが問題だと散々指摘されている。
フランス視察は無意味だったのか
松川氏は、フランスの少子化対策と女性活躍を学ぶためにフランスを訪れたとされている。
フランスの2020年の合計特殊出生率は1.82とEUの中でもはるかに高い。同性カップルや独身女性を含む全ての女性が不妊治療の補助を受けられる上、義務教育が始まるのは3歳から。子どもが多い世帯ほど所得税が低くなる制度も設けられており、同国の少子化対策は奏功しているように思える。
一方で日本の同年の合計特殊出生率は1.33。国立社会保障・人口問題研究所が公表した2021年の出生動向基本調査によると、夫婦が理想とする子供の人数は2.25 人だが、実際に持つ子供の数は1.90で過去最低を更新した。
理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最も多い52.6%、続いて「高齢で産むのが嫌」が40.4%だった。家事や子育ての負担が重く、仕事と家庭を両立できないことや、子育て費や教育費への懸念から2人目以降の出産を諦めるカップルは少なくない。
そうした現状を踏まえて、松川氏がフランスでの学びを政策に生かせるなら、わたしは研修の合い間に、エッフェル塔でおどけて記念写真を撮っても、それをSNSにアップしても、なんの問題もないと思う。
批判するべき時は、今ではなく、研修の成果が生かされなかった時だ。
子連れ出張は、そんなに問題か
子連れでの出張もそんなに問題だろうか。
これまでの取材で、子供の出張帯同OK、交通費、ベビーシッター代もつけますという企業をいくつか見てきた。残念ながら、まだ少数派だが、いずれの企業も女性の従業員を大切にしており、安心して働き続けられる環境づくりに知恵を絞っていた。
子連れ出張費を経費で負担しているという女性社長は「子どもがいるからと出張を諦められる方が痛手が大きい。子どもを誰かに預けて出張に行くのもあり、一緒に行くのもあり。選択肢を広げることでムリなく働ける環境をつくりたかった」と語った。
「子連れ」言い出せない
わたし自身は、出張時に子供を連れて行ったことは一度もない。あえてそうしなかったのではなく、できる環境が整っていなかったし、そんなことを上司に言い出せる雰囲気もなかった。
相談しても、「じゃあ、ほかの人に頼むよ」と言われるのが目に見えていた。出張の際は夫に子どもの世話を頼み、どうしてもダメな時間はベビーシッターを自腹で雇った。長期にわたる時は、遠方の母に飛行機で来てもらった。
出費は痛かったが、そうしなければ築いたキャリアを奪われるのではと怖かった。1人で子育てをしている人ならなおさら、出張は心身ともに負担だと思う。
だから女性議員が子どもを連れて海外研修に行けるなら、それはそれで羨ましい。ここでもやっぱり問題となるタイミングは、研修が実を結ばなかった時だと思う。
数々の無駄な議員視察、不問のまま
地方議会を数々取材してきたが、無駄だと思う議員研修なり視察はたくさんあった。
政務活動費を調べると、1人で研修に行くのに毎回宿泊先のホテルでダブルベットの客室を予約していた男性議員がいた。海外視察で、同行した他の議員の報告書の内容をほぼ丸写しして自分の報告書を作り提出した男性議員もいた。
その費用が我々の血税から支払われたのかと思うと心底うんざりした。紙面で問題について指摘したが、いずれも松川氏のような騒動にはならなかった。
叩かれるべきは、明らかに国民や住民の利益に結びつかない研修を行なったり、無駄に活動費を使い込んだりした議員ではないか。
松川氏への批判が強まることで、今後、本当に必要な議員研修や視察が敬遠されることの方が気がかりだ。
ぜひ松川氏には今回の騒動をはねのけて、フランスで学んだ政策を国政で生かしてもらいたい。女性が活躍できるジェンダー平等で、かつ、安心して子どもを産み育てられる社会を築いてもらいたい。
研修の真価が問われるのは、これからではないだろうか。批判するのはまだ早いと思う。(空)