政府が10月から導入を目指す新しい税制、インボイス制度の中止、延期を求め、「インボイス制度を考えるフリーランスの会」が4日、36万1171筆の署名を財務省に提出した。インボイス制度とは適格請求書等保存方式。年間課税売上額が1000万円以下の免税事業者との取引にも消費税が課税され、その分を「免税事業者」「課税事業者」「消費者」の誰かが負わされることになる。
衆院第1議員会館で開かれた集会にはフリーランスの声優、ライター、軽貨物配達業者、建築業、農業、司法書士など多様な職種年代の350人が集まった。ライブ配信は同日16時までの2時間半に約1万回再生された。
分断と混乱招く「稀代の悪法」
同会発起人でフリーのライター、編集者の小泉なつみさんは「インボイス制度はこの国らしさを形作る文化と産業を破壊し、私たちに分断と増税、混乱を招く稀代の悪法」と訴えた。現在、フリーで働く表現者の多くは免税事業者だが、課税事業者になれば納税義務と事務負担が発生し、免税事業者のままでいれば取引からの排除や値下げを強要される可能性がある。同会によると、「インボイスを機に廃業を考える」と答えた事業者は、アニメ・マンガと言ったエンタメ業界で2〜3割、建設業界では1割に上るという。
弱い者をさらに弱くする制度
インボイスは、諸外国では付加価値税と言われる。小泉さんは「付加価値に税を課すというのはクリエイティビティに対するペナルティではないでしょうか。何もなかったところから現場の人間の汗と工夫によって生み出された付加価値こそ、私たちらしさであり、商売の強みであり、日本の良さとして高く評価を受けてきた。強いものをより強くし、弱い者をさらに弱くするのが消費税インボイス制度です。文化や伝統スキルが継承されず、新たな才能の目をつぶす」と警鐘を鳴らした。
「実施中止か、最低でも当面延期を」
続いて声優の甲斐田裕子さんが緊急提言を読み上げた。「我々はフリーランス・個人事業主の集まりであるが、インボイス制度は事業規模や業種にかかわらず、この国で生きるすべての人に影響するものと考える」
「現行のインボイス制度には、経済的成長も、事業を継続して行ける安心感も、個人情報が守られる安全性も、免税事業者への尊厳も欠けている。我々は実施中止、最低でも実施の当面延期を強く求める」
経理担当の8割「導入すべきでない」
中小企業のためのパートタイム経理部長で、経営士の堺剛氏は、企業経理を担当する709人の意識調査結果を発表した。経理部門の人数は1人が43・9%、2〜4人が32・4%。インボイスについて「よく理解している」は25・5%にとどまり、「名前は聞いたことがあるが内容は知らない」が7・3%いた。
インボイスについての考え方は「将来的にも導入すべきでない」83・1%、「導入時期は延期すべき」5・1%と約9割が否定的。その理由は「事務負担が大きい」「免税事業者の経済的負担が大きくなる」「そもそも消費税を減税・廃止すべきだ」「社会全体でインボイス制度の周知が足りない」「コロナ禍や物価高騰の影響でダメージを受けている状況だから」の順に多かった。3人に1人が、インボイス制度による業務の増大で経理の仕事を離れたいと答えた。
個人配達業者の4割、廃業を検討
個人の配達事業者で構成する建交労軽貨物ユニオンの調べでは、約4割のドライバーが、「今年中」もしくは「インボイス制度の激変緩和措置が終わる3年間の間」に廃業を検討すると回答した。同ユニオンは「物流危機の2024年を控え、大量のドライバーが廃業すれば、物流が滞り国民生活に大きな影響が出る」と指摘した。
「東京五輪反対」に次ぐ数のオンライン署名
国会議員らでつくるインボイス問題検討・超党派議員連盟(末松義規会長)は同日、インボイス制度の中止・延期を求める要望書を鈴木俊一財務大臣に提出した。議連は当初、鈴木大臣に面会を求めたが、副大臣対応となり、さらに副大臣も病気のため、政務官に手渡したという。この報告に会場からは大きなブーイングが漏れた。
署名はラスト2週間の間に10万筆積み上がったという。これまで日本で一番多かったオンライン署名は東京五輪の中止を求める46万筆で、インボイス反対はそれに次ぐ規模となる。これまで、免税事業者ではない大手メディアの報道は少なく、国民にインボイス制度が十分に周知されていない中で署名数を伸ばした。
小泉さんは「インボイス制度はものすごく誤解も多いし、(脱税、消費税ネコババなどの)偏見を受けるし、反対を叫ぶと罵倒される。それでも市民の草の根の活動だけで、36万人の人がちゃんとコミットした。そのことを伝えてほしい」と話した。
(阿久沢悦子)