「個人の尊厳を奪う異常な税制」 インボイス、消費税廃止に切実な声 野党は中身で協調できるか?

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消費税・インボイスの廃止が参院選の争点になっています。

インボイス制度とは適格請求書等保存方式。2023年10月に導入されました。年間課税売上額が1000万円以下の免税事業者との取引にも消費税が課税され、その分を「免税事業者」「課税事業者」「消費者」の誰かが負うことになります。しわ寄せは弱い方に行きやすく、すでに多くのフリーランスや零細事業者が取引価格の値下げや取引からの排除を経験しています。

炎天下の新宿に400人

告示を4日後に控えた6月29日、東京・新宿東口旧アルタ前に男女約400人が集まりました。

職業はフリーランスのライター、声優、アニメーター、漫画家、農家、建設業、税理士……と多岐にわたりました。

炎天下の集会の趣旨は「STOP!インボイス STOP!消費税」。

立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組の政治家らに続き、一般のスピーカーも壇上にのぼりました。

まずは、切実な声を聞いてみましょう。

◆女性NGOが発行する新聞「ふぇみん」編集部の柏原登希子さん

インボイスの影響、日々実感しています。一つはフリーランスの原稿料の値下げです。私たちの編集部は女性フリーライターの力を多く借りている。私たちはもともと課税業者で小規模事業者のため、簡易課税方式で税を納めている。そのため、特にライターさんにインボイスを取得するようお願いはしなかった。フリーランスのライターさんたちは免税業者でインボイスを取得していない。私たちは今まで通りの原稿料を出しているが、他の版元と仕事をすると、あるときは知らないうちに、あるときはシステム改修という謎の名目で、あるときはこれまでと税の計算方式を変えたという謎の理由で、インボイス導入と同時に1割原稿料が引かれるようになった。

今後の仕事を失うと思うと抗議できない、あるいは抗議しても仕事を失うという恐れからそれ以上言えない。結果収入が少なくなり、仕事を成り立たせるために今まで以上の仕事を入れなければいけない。心身の不調によって、それが出来ない人もいます。

仕事の量も質も変わらずきちんと納品されているのに、しれっと1割、原稿料が引かれる。あるライターさんは「自信を喪失した。誇りを失った」と話しました。

もう一つ、影響があったのは物価高です。これは実質上の増税だと思っている。物価高が当たり前になりすぎて、ウクライナ戦争に端を発する物価高騰の影響か、インボイスによる価格転嫁か判然としないまま価格が上がり、インボイスの実害が見えにくくなっている。私たちも紙代、印刷代など何もかもが値上がりして非常に苦しい。このように仕事の自信や尊厳を奪って、体力がない人から根こそぎ絞り取るようなインボイスは「やめろ」と言いたい。税金を取るべきところがほかにあるはず。何もこんなに苦しいところから、血肉を吸い取るようにして取ることはないだろうと思います。

◆「フェミニスト、ゲームやってる」の著者でアーティストの近藤銀河さん

私は女性で車椅子ユーザー。仕事の上で弱い立場の集合なんですが、そうしたライターの実感を話します。

物価がものすごく上がっている中で、アーティストもライターも仕事の単価が全然上がっていないんですね。むしろ下がっている。労働として苦しい中でなんとかやっている状況にあります。フリーランス新法で、フリーランスの立場を守ろうという動きがあるようですが、それと矛盾するものとしてインボイスが目の前にあります。フリーランスを守りたいのか、排除したいのか全然わからない。

発注元によって消費税を報酬に含むか含まないかはまちまち。でもそれはこちらにとって死活問題なんですよね。単発であちこちの仕事を受けていると、どこが消費税をこちらに転嫁しているかわからない。わからないのに、お金が減っているということが一番怖い。差別を受けているのに、どこで差別を受けているのかがわからなくなっている。制度が曖昧な中で税金を取ることだけが目的化している、怖い状況があります。

制度は可能な限り明瞭で弱い人の立場を守るべきものだと思います。例えば、今日私がここに来るために使っている車椅子は、小規模な事業者が扱っているものです。そういう弱いところから崩れていくのではないかというおそれを感じています。

わからない差別をやめていくような政治を選んでいきましょう。インボイスやめましょう。

◆演劇団体の経理を担当する本田陽子さん

私が経理をやり始めてすぐに消費税の軽減税率が始まって、毎日あれは8%、これは10%という仕分けを、大変だなと思いながらやっていたところ、今度はインボイス制度が始まった。「なんじゃこりゃー」と言いながら、残業の日々です。早く帰れる日がほとんどありません。

劇団は課税業者なので、帳簿を整理しなければいけない。請求書が届くとまず登録業者かそうでないかを見る。インボイス登録番号がそろっているように見えても、12ケタに1ケタ足りなくて、問い合わせ。経理をやってる人は地獄の日々だと思う。

劇団の経費はほとんどが人件費。大半が俳優。俳優は個人事業主で、売り上げが1000万円以下の免税業者だった人がほとんどです。彼らの人件費は仕入れ控除ができないので、その分が劇団にドンと重くのしかかってくる。今は、劇団をささえてくれている俳優の生活を守らなければならないと、劇団側で負担しています。しかし、毎回、ドン、ドン、ドンとのしかかってきて、このままじゃ無理だなというところまできています。

俳優に、課税業者になってもらうかと、迫るところまできている。地獄のような選択で、俳優がいなくなるか劇団がなくなるか二者択一の状況で芝居を作っています。この問題は私たちの問題だけじゃなく、みなさんの見たい芝居、劇団がなくなってしまいかねない問題だと思う。是非、一人ひとりの問題と考えて、インボイス廃止の道へ一緒に進んでいけたらいいと思う。

◆東京土建本部副委員長の石川信一さん

東京都北区・荒川区で地元の住宅の修繕工事を担っている業者です。もともと課税業者だったが、昨年1年間でどれだけ自分の消費税の負担が増えたかを説明したい。免税業者の仕入れ控除はこれまで100%あったが、これが80%しかなくなったため、私の年間の負担は約14万6000円増えた。税率の変更のない増税だと思っている。零細の下請け業者にインボイス登録を要求するわけにはいかない。しかし、物価高の下、自分もいつまで持ちこたえられるか、不安で仕方ありません。人手不足もあり、新たな取引を探すのは至難の業。税負担をかぶるか、両者痛み分けか。弱い者同士が消費税を押しつけ合った結果、仲間との分断、そして廃業が待っている。消費税をすぐ廃止、インボイスを廃止して、われわれ建設業、そして弱い仲間が生き残れるように力を合わせて頑張っていきたい。

◆農民連千葉の谷川聡子さん

小規模、中規模と言われる農家は売り上げから経費を引くと赤字になる経営者も多いです。このところ、お米が高くなったと言われますが、いままで何十年も下がり続けて来た米価。とうとう時給10円と言われるまでに下がってしまった。インボイスを登録するということは必然的に課税業者になるということ。販売先に求められて、よくわからなかったがインボイスに登録した。けど、赤字になっても消費税を納めなければいけなくなった。インボイスは農家を本当に苦しめています。自然とともにある農業を営む農家は、生産のための農地を守るだけでなく、景観や環境を守っています。

2022年に116万人いるといわれた農業人口は、今後20年間で30万人まで減るといわれています。高齢化で作付けできなくなった隣近所の田んぼを引き受けて規模を大きくせざるを得なくなった農家。家族経営といわれる中小の農家。すべての農家を苦しめてきたのが消費税、さらに苦しめているのがインボイス。日本はいま食料生産の危機を迎えています。主食のお米に減反を押しつけるのではなく、しっかり増産させることが必要。インボイス、ただちに廃止、目指して参りましょう。

◆神奈川県茅ヶ崎市でレストランを経営する永田健さん

創業13年です。最近、物価は上がっているのに、収入は増えない。税金と社会保険料ばかりが重くのしかかる。今月は外食したかったけど、自炊でがまんしよう。そんな切なくも現実的な日常を感じたことはありませんか?

消費税やインボイス制度は、私たちの暮らしや小さな商いを静かに追い詰めています。消費税は一見平等なようで、所得が少ない人ほど負担が重くなる逆進性のある税です。2023年に導入されたインボイス制度は小規模事業者の首を絞める仕組み。スパイスや食材の仕入れ値が上がっても、なかなか価格に転嫁できない現実があります。なぜならばお客さまも生活が苦しいからです。

オーガニック野菜を栽培している農家から仕入れようとした時に、農家がインボイス登録をしていないことから、仕入れを躊躇したり、断念したりしたこともあります。農家は消費税分を値引きしたりしてくれるが、申し訳ない気持ちで一杯になります。こういう誰かが損をする制度で経済活動が活発になるんでしょうか。私はもともと政治に無関心だった。今の苦しい状況は自分の無関心が招いたものだと思っています。2019年、売り上げが前年同月比で20%減った。その後コロナ禍を通じて地域の店が次々と閉店する中で気づきました。制度が変わらない限り、希望ある商いは続けられない。だからこそ、私は今、声を上げています。

制度が夢を持つことを罰するような仕組みであるなら、未来に希望は持てません。私たちは地域とともに歩んでいます。小さな店だからこそできることを全力でやってきました。それを根こそぎ奪うような制度に黙っていられません。政治でつくられた制度は政治で変えなければなりません。消費税廃止、インボイス廃止!

「増税もう無理、インボイス」とデモ行進

その後200人が「増税もう無理、インボイス」「さよならしたい消費税」「あっちは裏金、こっちは増税」などとコールを繰り返しながら、新宿西口までデモ行進をしました。

インボイスの影響はフリーランスや零細事業者を直撃しています。デモを主催した「インボイス制度を考えるフリーランスの会事務局」が今年3月から4月にかけて実施した「1万人のインボイス実態調査」(有効回答数10,538)によると、90.8%が消費税を負担に感じ、97.3%がインボイスに反対していました。

「消費税分を価格転嫁できた」わずか5%

インボイス登録業者のうち、消費税分を全額価格に転嫁できた事業者はわずか5%。8割が負担を価格に上乗せ出来ていませんでした。所得や貯蓄を減らして消費税等の負担を補った事業者は4割超。1割超が借金をして消費税を払っていました。

インボイス登録を機に価格交渉した事業者は21%、半数超が価格交渉をしなかったと回答し、その理由には「取引先との圧倒的な力関係の差」「あらかじめ決められた予算」が挙げられています。

経理の業務の時間的負担は9割が実感。

経過措置廃止後、「廃業・転業」も

そして「時限爆弾」となっているのが、経過的措置の廃止です。現在「2割特例」と「8割控除」という2つの経過措置が取られています。「2割特例」とは、インボイス導入で新たに課税事業者になった事業主に限り、消費税の納税額を売上税額の2割に軽減できる制度。2026年9月30日まで適用されます。「8割控除」とは課税事業者が免税事業者から仕入れた場合、仕入れ税額の8割を控除できるという制度。こちらも2026年10月1日から控除幅が「5割」に削減され、2029年10月に撤廃されます。

経過的措置がなくなる2026年10月以降の事業の見通しについて、5割が「不安」とし、「廃業・転業を視野にいれている」も14.7%にのぼりました。

個人の尊厳を踏みにじる異常な税制

インボイス制度を考えるフリーランスの会事務局は調査の総評の中で次のように述べています。

「自由記述欄に寄せられた8,000件超の声を分析すると、昨年の同調査と比較して圧倒的に『消費税』そのものへの言及が増え、『フリーランス潰しの税制』といった憤りの声が多数見られた。そして『死』について言及したコメントが50件以上確認されたことを何より重く受け止めなければいけない。そのうち半数以上は、インボイス制度を機に課税事業者になった者であった。『国から死ねと言われている気がする』という声が散見されることからも、消費税・インボイス制度が、個人の尊厳を踏みにじる異常な税例になっていると言える」

与党減税なし 野党は百花繚乱

参院選の消費税・インボイスにかかる各党の政策は次の通りです。

少なくとも与党の自公以外は、消費税減税とインボイス廃止について足並みが揃っているように見えます。しかし、訴えの中身はバラバラです。「食品の消費税をゼロに」というターゲット減税は立憲、社民、保守。「2年間の時限的停止」が維新。「まず5%に」が国民と共産、「段階的廃止」が参政、「廃止」がれいわ。こうばらけると選択的夫婦別姓のように野党案が乱立し、選挙後も減税方針をまとめきれずに廃案という流れが見えてきます。
一方で、インボイスの経過措置である2割特例、8割控除が終わり、赤字でも借金してでも消費税を払えと、より多くの事業主が突きつけられる2026年10月まであと、1年3カ月しかありません。

消費税廃止、インボイス廃止のグランドデザインを共有・合意できるのか。野党もまた問われそうです。