秋田県秋田市のJR秋田駅西口からほど近い「仲小路商店街」。ここで2023年10月、「にじいろ仲小路 アライの輪を広げよう!」というキャンペーンが行われた。LGBTQ+のプライド(尊厳)を象徴する「6色の虹」にちなんだオリジナルのメニューやサービスを、キャンペーンに賛同する16店舗が提供。商店街を巡りながら多様性について思いをはせ、アライ(ally=味方)の輪を広げていこうという試みだった。
秋田市のホームページでイベントをチェックし、協力店の一つ「ティールーム陶」(午前10時半~午後7時、第3水曜定休)を訪ねた。
ここで提供しているメニューはフルーツやチョコなど「6」アイテムをトッピングした「アライサンデー」。多すぎず少なすぎず、食後のデザートにぴったりだ。
同じ店舗内にある「食器のさかいだ」のアライコーナーには、カラフルなグラスや、1本から選べる箸が並んだ。棚の上段には、毎年5月に秋田駅西口付近で開催されている「秋田プライドマーチ」のリストバンドなども展示された。
「アライ企業を一気に見せたい」
イベントを発案したのは、秋田市生活総務課の女性活躍推進担当リーダー・加藤裕子さんだ。
「秋田市がLGBTQの人たちにとって暮らしやすい場所になるには、働きやすいとか、買い物しやすいとか『企業がアライであること』が必要です。そこで、秋田市にあるアライの企業を一気に『見せる』ことができないだろうかと考えました。このイベントを通して、当事者の人たちが少しでも暮らしやすい環境をつくりたいという思いがありました」
昨年からアイデアを温めてきた加藤さんは、これまで多様性にかかわるイベントで協働する機会のあった仲小路振興会に相談。「ぜひ一緒に」と、協力を得ることができた。担当職員が協力店舗を回ると「こういう取り組みは大歓迎」「大事なことだと思う」など、心強い声が返ってきたという。
「生きやすい社会、改めて宣言すべき」
協力店の「ティールーム陶」「食器のさかいだ」を経営する株式会社境田商事の取締役・境田未希さんは開催前、このイベントをどう思うか、いま参加することにどんな意義があると思うか、と一人のスタッフに尋ねたことがある。
スタッフからは「LGBTQ+の人は確かにいて、迫害されてきたという事実がある。改まってPRすることではないという考え方もあるけど、その人たちが生きやすいように、むしろ改めて宣言すべき時だと思う」との答えが返ってきたという。「スタッフの言葉で、このイベントをする意味を確信できた」と境田さんは語る。
各店舗がアイデアを練ったメニュー
各店舗はそれぞれの特色を生かしながらオリジナルのサービスを考案し、提供した。
「VIVANT MAKEUP WORKS」(午前10時~午後6時、日曜定休)ではイベント期間中、ジェンダーレスなメイクレッスンを1時間5000円で受けられるサービスをもうけた。
「御厨光琳」(午前11時~午後2時、不定休)は水曜日、6色のミニデザートとコーヒーがついた「にじいろセット」を個数限定で提供。
「そば処 四季」(午前11時~午後2時半、木曜定休)では会計時に「アライです」という合言葉を告げると、会計から5%を割り引き。
また各店舗でイベントについて簡単なアンケートに記入すると、秋田市オリジナルの「にじいろマカロン付箋」がもらえるサービスもあった。
「秋田市からの一方的なお願いではなく、それぞれのお店がアイデアを練って『うちはこれができます』とサービスや商品を提案してくれた。それが一番、うれしかったです」(加藤さん)
パートナーシップ制度を知ってほしい
秋田市は2022年4月、秋田県内の市町村で初めて「パートナーシップ宣誓制度」を導入した自治体だ。
同性婚が認められていない日本では、男女の夫婦が当たり前に受けられる公的サービスを、同性カップルは受けることができない。その状況を少しでも改善しようと地方自治体が独自につくっているのが、パートナーシップ制度だ。
秋田市では制度導入により、同性カップルが市営住宅への入居申し込みや、市立病院での面会、住宅リフォーム支援事業の補助金交付などを受けられるようになった。これまでに宣誓したカップルは2組となっている。
制度の導入以降も、秋田市は周知に力を入れてきた。「LGBTQについてよく分からない」「知りたい」という人に向けたパンフレットは用語の解説にとどまらない丁寧なつくりで、当事者や支援者の声、パートナーシップ宣誓制度の概要や相談窓口などが盛り込まれている。
https://www.city.akita.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/033/991/nijiiroakita_leaf.pdf
今回のキャンペーンも、その流れをくんでいる。「楽しそうなことをやっているな、と思ってもらいたい。あまり関心がないという層にアライの輪をつなげる一つのきっかけになって、誰もが生きやすい秋田に近づけられたらと思っています」と加藤さんは話す。