公開文書は「真っ黒」 秋田市の生活保護費障害者加算過支給返還問題

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情報は公開しないのに、権力で従わせようとする。ひどくない?

 秋田県秋田市(穂積志市長)が生活保護の障害者加算を長年誤支給し、対象世帯に過支給分を返すよう求めている問題で、民間団体「秋田生活と健康を守る会」(後藤和夫会長)が公文書の開示請求を行った。誤支給が発覚した5月の会計検査院検査の詳細について、市はほぼ黒塗りの状態で開示した。

【これまでの経緯】秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ生活保護世帯に障害者加算を過大に支給していた。5月に会計検査院の指摘で発覚した。市が11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円に上る。返還対象額は、最も多い世帯で約149万円。

「未成熟な情報」なため

 開示請求は10月中旬から11月中旬にかけて行ったもので、秋田市からの回答は11月24日と29日。会計検査院検査の内容についてはすべてのやり取りが黒塗りされ、一切の情報が不明だ。黒塗りされていないのは検査日時、場所、調査官、市側の説明者のみ。

 この理由について、市の回答には「個人に関する情報」のほか「審理・判断過程における未成熟な情報であることから、公にすることにより、市の機関と国等の率直な意見の交換もしくは国等における意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるため」「公にすることにより、市の機関と国等の信頼関係を損ね、外部の圧力・干渉等を招来するなど事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため」(秋田市情報公開条例第7条2号、5号、6号に該当)などと記されていた。

 後藤会長は「未成熟な情報とあるので、いったいいつ成熟するのかと市に尋ねたところ『おそらく1年後』との回答だった。そういう判断が未成熟な、確定していない状態で、当事者世帯には返還を求めるというのは都合のいい対応ではないか」と指摘する。

 さらに秋田市は、当事者に返還を求めないよう訴えていた県内外約70団体からの要請に対しても「返還を求めていく」と5日に文書で回答した。

 「こんなに声を上げても、流れは変えられないんでしょうか。弁護士さんや大学の先生や、議員さんが、こんなに異議を唱えても」

 約100万円の返還を伝えられている当事者はこう不安を語る。保護費(家賃補助を除く)は月8万8000円だったが、ミスとされた加算分の約1万6000円を削減された。10月から4月までは暖房費の冬季加算がつくが、春にはなくなる。「やっぱり、返還していかなければいけないのでしょうか」

返還取り消しや「返還違法」の判決も

 全国公的扶助研究会会長で花園大学社会福祉学部教授(公的扶助論)の吉永純さんは秋田市のケースについて「行政のミスを棚に上げ、その尻ぬぐいを利用者にかぶせ、保護費を返還させるのはおかしい」と話す。

 吉永さんによると、近年は役所のミスによる返還請求が、裁判や県知事への審査請求で「処分取り消し」となった例が複数ある。例えば、役所のミスで過支給となった児童扶養手当約60万円分を全額返還するよう求められた世帯について、役所の決定を違法とする判決が2017年2月1日、東京地裁で出ている。

(最高裁判所ホームページより)

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  「これで生活してください」と長年支給していた金額が間違っていた。だから過去の分を返してほしい。そう言われて返せる世帯が、どれくらいあるだろう。
 月々振り込まれる金額は「最低生活費」だ。
 物価は高騰している一方、保護費は実質据え置かれている。
 生活保護世帯は、市が認めたケースに限り貯金ができるが、最低生活費を削って貯金をすることは非常に困難だ。 
 秋田市は「分割払いOK」と伝えているが、まるで借金のように返済を背負わされ、突然減額された最低生活費からお金を返していくこと自体、理に合わない。

 取材している人間として歯がゆいのは「返還を求めるのは不当である」という声が、すべての当事者世帯には届いていないことだ。民間の支援団体とつながっている人や、偶然自分の記事を見てくれた人くらいで、大半の世帯は「返さなければならないもの」と受け止めてしまう可能性がある。

 いまは、どうにかして返還を迫られている世帯にアクセスしたいと考えている。秋田市内の医療機関などに、記事などの情報を当事者世帯に伝えてもらえないかお願いしようとも考えている。

 仮に返還を求められても、秋田県知事への不服申し立てなどで撤回してもらう道があるということを伝えていきたい。

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