「被害者を守りなさい!」 沖縄の米兵による少女誘拐暴行事件に抗議

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加害者の米兵を守り、被害者を守らない日本

沖縄の米兵による性暴力事件が、日本政府から沖縄県に半年間も伝えられていなかった「隠蔽」問題をめぐり、「基地・軍隊はいらない4・29集会実行委員会」が9月13日、東京の参議院議員会館で外務省、防衛省、警察庁、法務省に対し問題の根本解決を求める省庁交渉と院内集会、首相官邸前での抗議行動を開きました。230人が参加し、「米兵による性暴力事件、隠蔽するな」「日本政府は責任を取れ」「被害者を守りなさい」と声を上げました (*この記事には性暴力に関する描写があります)

沖縄少女誘拐暴行事件
昨年12月に発生。米兵は、沖縄県内の公園で少女を誘って車で自宅に連れ去り、16歳未満と知りながら性的暴行をしたとして、3月11日に沖縄県警により書類送検され、同月27日に那覇地検がわいせつ目的誘拐と不同意性交等の罪で起訴した。起訴後、外務省はエマニュエル駐日米大使に抗議する一方、沖縄県には6月25日まで情報を共有しなかった。現在、那覇地裁で刑事裁判が進行中。
このほかにも1月と5月に米兵による性犯罪が起きていたことが6月28日に判明。
「隠蔽」批判を受け、県警と県は情報共有の運用を見直した。しかし、6月に発生した成人女性への不同意性交致傷が県に通知されたのは、書類送検後の9月5日だった。

【省庁交渉

相次ぐ「ゼロ回答」

交渉に先立って、政府側に送っていた45項目の質問には9月11日付で、文書で回答がありました。

少女誘拐暴行事件について、

・なぜ事件発生から半年間も、県警から県に伝えなかったのか
・なぜ米軍に加害者の身柄の引き渡しを求めなかったのか
・なぜ起訴後に保釈したのか
・裁判でビデオリンク方式など被害者保護の措置が執られなかったのはなぜか
・外務省が沖縄県に伝えなかったのはなぜか

などの質問が出されました。

これに対し、警察庁や法務省からの回答は「個別事件に関することであるためお答えを差し控えます」とゼロ回答。

外務省は「被害者のプライバシー保護が重要となる性犯罪で、捜査当局から非公表の事案であると共有を受けた」とし、こちらも実質的な回答はありませんでした。

「米軍の協力」が何より大事?

省庁交渉には沖縄県選出の伊波洋一参議院議員、沖縄で被害者支援をしている「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代さん、沖縄県宜野湾市で生まれ育ち、語り部として活動している明有希子さんらが参加しました。

文書と同様の「個別事件に関することはお答えを差し控えます」「沖縄県警が米軍側から必要な協力を得て所要の捜査を遂げた」という回答が繰り返され、会場には「米軍の協力が何より大事なのか!」「どこの国の政府だ!」という怒号が飛び交いました。

また、1995年の3人の米兵による小学生レイプ事件を受け、1997年に日米間で取り決めた「在日米軍に係る事件・事故発生時における通報手続」が機能していなかった理由について外務省は、「日本側当局の捜査に支障が生じないよう米側とも協力し、結果として日本側当局の迅速な対応が確保されたことから1997年の取り決めの趣旨・目的は達成された」とし、批判にはあたらないと強弁しました。

資料を掲げて省庁の職員を追及する伊波洋一参議院議員=東京都千代田区

非公表の米兵の事件「把握していない」

法務省からは犯罪統計を基に、2017年〜2024年の米軍関係者による不同意性交等、不同意わいせつの検挙件数が示されました。

一方、公表されていない事件は何件あったか?という質問には、「法務省として網羅的に把握していない」と回答があり、会場からは「把握してください!」「私たちの安全がかかっているんです」と声が上がりました。

「子どもの安全がかかっているんです」と訴える明有希子さん=東京都千代田区

被害者はカウンセラーにもつながれず

高里鈴代さんが「被害者の少女は8月までカウンセラーにもつながれず、自傷行為をするような混乱の中に置かれていた。それは適切ですか?」と問うと、警察庁は「沖縄県警がリアルタイムで適切に対処しました」と繰り返しました。

防衛省の担当者は「性犯罪では、被害者が公に報じられることを恐れて事件を取り下げるケースがある」との見解を示し、高里さんに「2017年7月以降、性犯罪は親告罪(被害者からの告訴がなければ検察が起訴できない犯罪)ではなくなっているんです。時代錯誤な刑法認識はやめてください」と叱られる場面もありました。

【院内集会】

アメリカの声は聞くが、沖縄県民の声は聞かない

院内集会では一連のやりとりについて、「何を聞いても(被害者の)プライバシー、プライバシーと言っているだけで、こちらの質問の内容や質問に込めた怒り、なぜ質問したのかというところが伝わっていない」「外務省が米軍と非常に頻繁に情報を共有している、と言っていた。密接な連絡体制をとっているということだが、沖縄の声が届いていない。人権意識の欠如が発言から見えてきた」などの報告がありました。

伊波洋一・参議院議員は、今年7月に政府が発表した情報共有の新しい運用について、「日本全国で米軍の演習が始まっている。各地で同じ構造があり、米兵が増えてくる。さまざまな事件が起きると予想される。新しい通報体制は、そのような事態に連動するものだ」と話しました。

「南西諸島の住民が九州に移り住む退避計画が出来上がりつつある。日本政府は軍事体制の強化に重きを置いている。私たちの国が変わろうとしている。(その過程で)日本政府はアメリカの声は聞くが、沖縄県民の声は聞かない」

【明有希子さんの話】

普天間基地のある宜野湾市で生まれ育った明有希子さんは自らの経験を語りました。

明有希子さん=東京都千代田区

羽交い締めにされ、首と腰に手

18〜19歳の時に嘉手納カーニバルというお祭りに友達と行きました。米兵5人が「アイムマリーン(僕は海兵隊員だ)、酒を飲もう」と声をかけてきて、避けると羽交い締めにし、首と腰に手を回してきました。身動きが取れなかった。友人が「私のお父さんは警察官です」と言ったら、パッと手を離したんです。これだけでも抑止力になるんだなと思った。その後しばらく鎖骨が痛くて、男性の知り合いに駐車場まで送ってもらいました。

今回の事件と紙一重のすれすれがいくつも積み重ねられてきました。

娘に聞かれた「警察は、沖縄にいなかったの?」

1996年6月に名護市の中学生が拉致され、殺害される事件がありました。当時、私は高校生で受験を控えていて、バスで塾に通っていました。事件を受け、県内でパトロールが強化されました。バスを降りたとき、警察官から「どこまで行くのか」「名護で事件が起きていることはわかる?」と声をかけられました。警察官がパトカーを自宅近くまで回してくれて、「大丈夫だね」と。守られていると感じました。

今回の事件の被害者も10代です。家族で事件について話していると、小学校6年生の娘は「警察は何もしなかったの?警察は沖縄にいなかったの」と問うてきました。

自分が17歳だったときの安心感を、今の沖縄の子たちが感じとれるのか、と苦しくなりました。今日、省庁の9人を前にして、いつまで経っても沖縄の声が届かないのだなと、まざまざと見せつけられた気がしました。

本土のみなさんが、がんばって

娘の通う保育園に米軍ヘリの部品が落下したときも思ったのですが、本当に紙一重なのです。基地の側で子どもを育てる身として何ができるかを考えています。みなさんに、沖縄に押しつけている米軍基地の問題を考えてもらいたい。沖縄ががんばるんじゃなくて、本土のみなさんががんばるんだと思います。

【高里鈴代さんの話】

高里鈴代さんはこれまでの米兵の性暴力事件を紐解きながら、性被害者への偏見、被害者バッシングを批判しました。

高里鈴代さん=東京都千代田区

性被害者をバッシングする社会

米兵による性暴力の隠蔽は、被害者のプライバシーを守るという大義名分で語れるのだろうか。この社会には性被害を受けた人に対するバッシングがある。

被害者のプライバシーを守るんだ、と各省庁が言っていましたが、そもそも、「被害者に落ち度があった」と暴力を受けた人を責め立てる社会です。だから、被害に遭ったら、バレてはいけないと隠す。

1995年の少女の性暴力被害事件では、被害者は裁判に出廷しなくてよかった。それは、加害者3人が罪を認めたからです。でも今回の事件では加害者の米兵は無罪だと言い張っている。だから被害者の少女に過酷な証言を強いることになってしまいました。

エレベーターで乗り合わせただけで「合意」?

2001年の事件では、被害女性と飲食店のエレベーターで乗り合わせた米兵が、エレベーターを降りた直後にしゃがみこんだ女性を持ち上げて、車に押し込みました。女性はショックで駐車場内を逃げ回った。女性が車にぶつかったところで、加害者が両手を握って駐車場でレイプしました。米兵はエレベーターで見ただけなのに、女性が「(性行為に)合意していた」と最後まで言い張りました。

そもそも被害者は逃げているし、車の上によじ登って、携帯で警察に通報しようともしました。混乱して119番にかかっても、必死になって喋っていた。その通報を受けた消防署員も証言しました。

被害に遭った女性は週刊誌に、「公衆の前でのレイプ」と書かれました。記事は「合意だった」という加害者の言葉を引用しました。

被害があった人は落ち度があった、本当は受け入れたんじゃないか、というのがこの社会に蔓延している意識です。それなのに、防衛省や警察が、「被害者のプライバシーを守る」と言う。私たち社会全体の意識を変えないといけない。「被害者は悪くない」という意識を広げていかないといけない。

米兵による性暴力事件を受け、首相官邸前で抗議する人たち=東京都千代田区

「14歳に見えない服装」ってどんなですか?

今回の事件も、被害者が加害者とSNSで繋がっていたらしいという情報が出ている。たとえば英語を教えてもらおうとSNSでつながっただけで、加害者に少女を強姦する権利はあるのか、と言いたい。

2008年には14歳の少女が、海兵隊員の家に連れ込まれ、レイプされました。オートバイに乗った米兵が来て、家まで送っていくよ、と声をかけられた。バイクに乗ったことが悪いのでしょうか?沖縄では日常的に米兵を見かけます。優しく声をかけてきたら、「ラッキー」と乗ってしまうかもしれない。乗ったことが責められるんじゃなくて、送るふりをして自分の家に連れ込んで、レイプしようとした加害者が問題です。少女は一度は逃げて自宅に電話をし、加害者は「2度としないから、今度こそ家に送るよ」と約束して、車の中でレイプした。そういう状態になった時に、孫や娘に「なぜついていったのか」と叱ってはいけない。送ってもらえて便利だと思えるような環境だったのですから。

加害者は沖縄署に拘束されているときに、「14歳だと思わなかった」と言いました。その供述が沖縄タイムスにも琉球新報にも出た。そうしたら、県外から電話がありました。女性から「14歳に見えない服装をしていたのか」と聞かれました。14歳に見えない服装ってどんなですか? 私たちの社会はここまで被害者を守ろうとしないのか。

日本の女性は訴えないから大丈夫?

1995年の事件の時、加害者の米兵3人は「日本の女性は訴えないから大丈夫だと思った」と供述しています。米兵の同僚がレイプしても捕まっていない。襲ってもナイフなど持っていないので、返り血を浴びないから大丈夫だ、と。たとえ捕まって被害者の面通しがあっても、僕たちは似たように見えるらしいからバレない、と。

その事件を受け、8万5000人が集まる大きな抗議集会が開かれました。東京から来た政治家が『沖縄の怒りはピークに達して、今後下火になっていく』と言っていたと聞いて、「許されない」とグループを立ち上げました。12日間、県庁前にテントを貼って、自分たちの経験を話し合う場にしました。一人の父親が参加し、娘が小学生の頃、被害に遭ったが、秘密にして訴えなかったという声が寄せられました。

このとき、私たちは北京女性会議から帰ってきた翌日に記者会見をしました。その会見を高校生の頃に3人の米兵にレイプされた女性が見ていたんですね。

女性は、沖縄市の公園の近くで、米兵の車が近づいていきて、道を尋ねられ、答えようとしたところ後ろから羽交い締めにされて公園で3人にレイプされた。死ぬんじゃないか、死んでしまうと思いながら、樹々が揺れているのを見ていたというんです。

被害にあった場所から被害者が推測できるからと、病院には行ったが警察には訴えず、高校を卒業した後は県外に就職したそうです。会見のテレビを見て、「自分があの時に被害を訴えていたら、少女が被害に遭わなかったかもしれない」と泣いていました。この女性は県民大会に参加し、今は平和運動にかかわっています。

「政治的な手芸部」の女性たちは「人権」のバナーを掲げた=東京都千代田区

基地の集中が性犯罪の要因

沖縄では、米兵が英語のネイティブスピーカーとして中学や高校にボランティアで入っていく。沖縄に住んでいたら、米兵と出会うことも接触も多い。その接触を位置付けているのは政府です。国内の約7割の米軍基地が、国土の0.6%の沖縄に集中している。性犯罪が起きる大きな原因はそこにあります。それなのに未だに日本社会では被害に遭った人が自分を責めている。どうして加害者が責められないのでしょうか。

私自身もレイプ未遂事件にあったことがある。ちょうど中学校が新設され、新しい校舎に引っ越す時でした。夜8時ごろに近くの文房具店に英語のノートを買いに行きました。路地を曲がろうとしたら、若い男性が声をかけてきた。「新しい中学で英語の先生になる。知人の家を訪ねに行くところだが、案内してほしい」と言われた。「先生」という言葉に反応し、信用して案内した。大きな畑が家の裏にあり、畑の真ん中を歩きながら、その男性から「ちょっと待っていてね」と言われた。月明かりを見ながら「なぜ待たないといけないんだろう」と思っていたら、男性が戻ってきて、握手しようと言われて、自分を抱き寄せた。居心地が悪くて「先生でも、失礼します」と言って、突き放しました。そうしたら男性は転んだんですね。私はそのすきに家に駆け込んだ。翌朝、母親が学校に尋ねたら、そんな教師はいないというんです。別の学校ですでに被害に遭った生徒がいました。

私は婦人相談員をしていましたけれど、同じように少女が被害にあったということを何度も聞いてきました。被害にあった少女を責める社会。今度の裁判の対応を通しても、省庁が「(事件を公表しないのは)被害者のプライバシーを守るため」と堂々と言ってくることに対しても、これは加害者を守り、被害者を守らない日本社会の問題だということを認識したいと思います。

(吉永磨美、阿久沢悦子)

※高里さんのお話の一部ディテールを修正しました(9月16日19:50更新)