衆院選2024「個人的なことは政治的なこと」④ 日米地位協定の争点化に温度差 米軍被害者の思いは

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日米地位協定の見直しが衆院選の争点に急浮上。そこには沖縄との温度差が。

「温度差がある」

沖縄県宜野湾市出身の明有希子さんは、衆院選で「日米地位協定の改正」が争点の一つとなっていることを、そう感じています。

沖縄県で今年6月、米兵による16歳未満の少女への誘拐暴行事件が明るみに出ました。発生から半年も沖縄県に事件が伝えられていなかったことがわかり、外務省による「隠蔽」だと非難の声が上がっています。その後、神奈川、青森、山口、長崎でも、この数年に米兵による性暴力事件が起きたことが、次々に明るみに出ました。

石破首相「日米地位協定を必ず改定したい」

こうした状況を受けて、石破茂首相は「日米地位協定を必ず改定したい」と意欲を見せ、各党も選挙の争点にしています。

しかし、沖縄ではこれまでも選挙のたびに「日米地位協定」「辺野古新基地建設」への態度が全候補者に問われてきました。それほど身近で切実な争点なのです。

明有希子さん=東京・首相官邸前

「沖縄に根を張って生きている県民は毎週末の米兵による飲酒による事故や暴力を目のあたりにしています。今回の少女誘拐暴行事件を受けて、どうやって生活していけばいいのか、どうやって沖縄で娘を育てていけばいいのか、途方に暮れるような思いがあります。地位協定は生活にかかわること全般と関係しているのです」と明さんは言います。

明さんの長女が通っていた保育園に米軍ヘリの部品が落下する事故が起きたのは2017年12月。米軍は当初「部品在庫は揃っている」として、飛行中の落下を否定しました。明さんら保護者は事故原因の究明と、保育園上空の飛行禁止を求めました。2004年に沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した後、日米間で飛行ルートの合意があり、保育園上空は飛ばないことになっていたはずなのに、形骸化していたのです。

「米軍との合意は口約束でしかない。ヘリはどこでも飛べるし、どこにでも着陸できる。飲酒を慎むなどの公務時間外の行動規律『リバティ制度』も全く守られていません」

「平成の琉球処分」忘れない

石破首相は、自民党幹事長だった2013年11月、自民党沖縄県連の公約だった「普天間基地の県外移設」を「辺野古新基地建設容認」へと転換させ、記者会見で発表した過去があります。沖縄県では「平成の琉球処分」と呼ばれ、深く記憶に刻まれているできごとです。

「日米地位協定を変えてほしいという期待はあるが、それ以前の問題として、米軍基地の70%を押しつけられている沖縄県民の声を拾ってほしい」

石破首相がいう日米対等とは米軍と自衛隊の対等であって、子や孫の身の安全のためにがんばってきた沖縄県民の思いとはかけ離れている——そう感じています。

「石破首相に期待はできないが、地位協定改定はやってもらわなきゃ困るという矛盾したおかしな選択を強いられているような気持ちです」

両腕骨折し、リハビリ1年半

神奈川県逗子市では2022年7月、公道上で米軍横須賀基地所属の男性が通行人の男女4人に襲いかかり、重傷を負わせる事件が起きました。24年9月26日、横浜地裁横須賀支部は男性に懲役2年4月、執行猶予4年の判決を言い渡し、確定しました。この事件では男性が拒否したため、初動捜査での飲酒検査や薬物検査が行われず、日米地位協定により警察や検察が男性の身柄の引き渡しを求めることもできずに、初公判まで1年7ヶ月を要しました。

横浜地裁の民事訴訟に出廷した米兵傷害事件の被害者女性=横浜市中区

10月18日、被害者らが男性に損害賠償を求めている訴訟の口頭弁論が横浜地裁で開かれ、被害女性の1人が出席しました。刑事事件の判決の確定を受けて、逗子市が米軍に抗議。横須賀基地から逗子市に対し、謝罪に伺いたいとの打診がありました。しかし、被害者には未だに男性からも米軍からも謝罪はありません。

7カ所を骨折する大けがを負った女性はこの日、改めて「米軍であろうとも、日本で犯罪を犯した以上は日本の法律で裁きを受けるべきだし、そういう風にしてもらいたいというのが今の私の気持ちです」と訴えました。背後から突き飛ばされて転倒し、地面に強く打ち付けて両腕を骨折。ギプスで固められて1ヶ月半、家事も仕事もできませんでした。腕や手首が固まってしまい、可動域が元に戻るまでに1年半のリハビリを重ねました。顔の骨折も大きなダメージとなり、背後から人が歩いてくる気配に怯えるなど、恐怖心は今も消えることがありません。

執行猶予付きの判決が確定した以上、これまで米軍住宅と基地内でしか行動を許されていなかった男性が、基地の外に出て飲酒をし、再犯する可能性があります。

また、除隊となり米国に帰国すれば、損害賠償を求めるのが困難になってしまいます。

「米兵絡みのトラブル?」

被害者の代理人を務める中村晋輔弁護士は、逗子市を含む衆院選神奈川4区の候補者の自己紹介を新聞で読んで驚きました。自民前職の男性は「足元の逗子市で起きた米兵絡みのトラブルに防衛副大臣として直面し」と書いていました。

「米兵絡みのトラブル?重大な傷害事件ですよ。トラブルと言い換えている限りは、日米地位協定の改定には本気ではないのだと受け止めざるを得ない」

米兵による少女誘拐暴行事件に抗議する人たち=東京・首相官邸前

日米地位協定についての各党公約

日米地位協定の改定について各党の公約から拾ってみました。

日米同盟、日米安保について最も手厚く書いているのは自民党です。

「抑止力を維持しつつ、沖縄等の基地負担軽減を実現するため、普天間飛行場の辺野古移設や在日米軍再編を着実に進め、自治体への重点的な基地周辺対策を実施します。米国政府と連携して事件・事故防止を徹底し、日米地位協定のあるべき姿を目指します」

ただし、「辺野古移設を進めつつ沖縄等の基地負担軽減を実現する」というのは矛盾した表現に見えます。

立憲民主党と国民民主党は、日米間での交渉や議論を始めるという立場です。

これに対し、共産党、社民党は日米地位協定の「抜本的改定」「全面改定」を公約に掲げています。

維新はマニフェスト内に安全保障に関する項目がありません。

公明は「国民の生命と平和な暮らしを守るため、専守防衛の下、防衛力を着実に整備・強化します。平和安全法制に基づく適正な運用を積み重ね、日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図ります」。

れいわ新選組は「日米間の友好関係は維持しつつ、アメリカ追従の外交政策を見直す」としています。