女性相談支援員の養成研修から「中年女性」が欠落 母子家庭には「夫等との関係の改善」を支援?

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中年女性は女性支援の対象外なの??

困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援新法)の施行を受けて、今年度から国が実施する女性相談支援員養成研修のシラバス(授業計画)に「中年女性」の項目がないことがわかりました。「高齢女性」も介護や認知症などに偏った内容。「母子家庭」の相談支援の項目には「夫等との関係の改善」とあり、2026年度に実施が迫った「共同親権」についての研修はありません。女性支援に関わる人たちから法の趣旨に反すると、見直しを求める声が上がっています。

中年女性の困難は何もないの?

中高年女性の当事者団体「わくわくシニアシングルズ」の大矢さよ子さんは9月中旬、国から研修を委託された民間のコンサルティング会社からメールを受け取りました。女性相談支援員養成研修の教材や試験の作成を依頼するものでした。ホームページ上で公開されていた研修のシラバスを見て、驚きました。

「中年女性がない!」

女性支援新法は「年齢・障害・国籍等を問わず、全ての女性の人権が尊重され、安心して、かつ、自立して暮らせる社会の実現のため、支援の枠組みを構築、強化する」ことを目的としています。すべての年代が対象のはずですが、シラバスの「相談者理解」の講座に「若年女性」「高齢女性」はありますが、「中年女性」はありません。

大矢さんは「これでは中年世代の女性には何も困難はないと相談員に伝えることになってしまう。中年世代には、不安定な非正規労働を続けざるを得なかった就職氷河期世代の単身女性や高い貧困率のまま母子家庭を卒業した単身女性も含まれている。その意味では女性支援新法の対象者に該当する困難を抱えた女性が多くいる世代です。研修から外していいものではありません」と訴えています。

高齢女性の困難は「要介護認定、認知症」

「高齢女性」についての講義時間は全部で30分に過ぎず、その半分を占める「高齢女性が置かれている環境」の研修内容は「要介護認定者の増加」「認知症患者の増加」、一段下がって「高齢単身女性の貧困の増加」とあります。

大矢さんは「44%にのぼる高齢単身女性の高い貧困率を、困難の重要な背景として扱ってほしい」と指摘しています。

「夫等との関係改善」を支援?

ひとり親の相談支援に足かけ8年かかわってきた「シングルペアレント101」(静岡市)の田中志保代表も大矢さんがSNSに挙げた疑問を読んで、シラバスを確認しました。

相談者理解の「母子家庭」の講座の到達目標を読んで仰天しました。

「母子家庭に対して、夫等との関係の改善、離婚をめぐる支援を提供する」

40分の講義時間のうち10分を「元夫等との関係、離婚後における支援」に割く、としています。

田中さんは「いったい母子家庭のどれほどが、夫等との関係の改善を望んで相談に来るのでしょうか? 女性相談でここを扱うのはむしろ悪手で、相談機関への信頼を失い、二度と相談機関そのものを利用しなくなる可能性が高い」といいます。

「共同親権」に関する項目なし

現在、田中さんが抱えるひとり親からの相談の多くが2026年に始まる「共同親権」制度への不安です。しかし、研修には「共同親権」「ポストセパレーションアビューズ(離婚後の訴訟や調停を用いた法的な嫌がらせや、つきまとい)」が一切入っていません。児童扶養手当などが受けられず最も困窮する「離婚前別居中」の女性に関する言及もありません。

「DV被害者・ストーカー被害者」の研修内容にも共同親権が入っておらず、加害者から避難する場合の支援連携先に弁護士が入っていないなど、相談現場から見ると不備が目立つといいます。

全国一律のカリキュラム

厚生労働省などの資料によると、研修は「2023年度以前にはなかった全国一律のカリキュラムに基づくもの」で、時間は経験3年未満の「女性相談支援員」が6時間15分、3年以上の「主任女性相談支援員」、5年以上の「統括女性相談支援員」がそれぞれ1時間30分。研修の負担を軽減するため、勤務時間の合間に受講できるようオンデマンドの教材を準備し、オンラインでのテストを実施。正答率80%以上を合格とします。

研修修了者は、給与や賞与の処遇改善加算が受けられます。たとえば初任者の基本額が月15万3900円から19万7700円になり、勤勉手当も年9万2400円上乗せされます。こうしたインセンティブにより、全国約1600人の女性相談支援員全員が受講すると見込まれています。

厚労省「検討委を通さず変更できない」

厚労省社会・援護局女性支援室にシラバスについて質問しました。

——このシラバスを使った研修は義務ですか?

研修を実施するのは自治体で、このシラバスを必ず使わなければいけないものではない。シラバスは「最低基準」を示したもので、研修の内容や講師の選定は各自治体が、地域の実情に合わせて行う。このシラバスを使わなくても女性相談支援指針を網羅した研修を行っている自治体もあるし、内閣府のDV被害者支援研修などのプログラムを合わせて使っている自治体もある。

——研修の内容から「中年女性」が欠落しているとの指摘があります。

委託先の会社から、そのような指摘を受けたとの話はきいている。

——見直しを検討されますか?

シラバスは一度通知として自治体にお示ししたもので、今年3月、有識者による検討委員会で一度正式なものとして認められている。この検討委員会を通さずに取り扱いを変えることはできないので、初年度の研修をこのシラバスでやってみてから、その後にアップデートしてはどうかと考えている。

女性が世代で分断されてしまう

大矢さんは女性支援新法へのパブリックコメントに「中高年女性の経済的困窮も対象としてほしい」と書いて提出し、「女性支援新法は全世代が対象」との回答を得ています。シラバスの見直しを強く求める理由として「女性支援新法の基本方針に書いてある通りの研修をやらないと、女性が世代で分断されてしまう。初年度の研修に入っていないことで、支援員に中高年女性の困難が認識されないままになる事態を招きかねない」とし、近く厚労省に内容を見直すよう要望書を提出する予定です。

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