【Z世代の群像④】「自分の体と人生 選ぶ権利は女性に」#なんでないのプロジェクト代表 福田和子さん

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【Z世代の群像】体のこと、性のこと、それは私が決めること

ビビッとくると一直線

 「女性が自分の体、人生を決めるために必要な選択肢がない日本の現状について、国連側が本気で向き合ってくれたことは大きな励みになった」。国内で避妊法や性教育の充実を訴える「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さん(29)は1日、記者会見場でマイクを手に晴れやかな表情を見せた。国連の女性差別撤廃委員会は10月29日、現代的な避妊法や中絶を選ぶ権利について、2年以内に改善に向けた報告を政府に求める厳しい勧告を出した。福田さんの笑顔は、人工妊娠中絶を巡る女性の権利を直視しない政府に感じ続けた失望の裏返しでもある。

 母と祖父母の4人暮らしで育った。幼少期から「凝り性」で、母が買ってくれたミュージカル映画のビデオは「1日に2、3回見るのが、1年近く続いた」と笑う。本や映画が好きだった中学2年の時、自爆テロの実行役となるパレスチナ人少年を描いた映画「パラダイス・ナウ」を見るや、翌日には、国際NGO「日本国際ボランティアセンター」が開くガザ・パレスチナ支援の集まりに足を運んだ。

 1年ほど通ったボランティア活動では、「それぞれの人が持ち前の専門を生かし、現地の人と対等な関係に立って支援に当たる」姿に憧れた。ただ、すぐには自分が学びたい専門分野は決まらず、理系文系を問わない横断的な教育が特色の国際基督教大へ進学した。

 福田さんがその後に学ぶことになる「性と生殖に関する健康と権利」(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:通称SRHR)は、1994年に国際人口開発会議で提唱された。しかし、日本ではまだ馴染みのない言葉だ。福田さんにとってSRHRへの入り口は、大学1年の時、母との何気ない会話だった。

吉原遊郭から見えた女性と社会の分断

 成人式を花魁(おいらん)の衣装で祝う若者がテレビに映った時、「晴れの日に着る衣装だろうか」と母がつぶやいた。その言葉が引っかかり、「花魁」を検索すると、スマートフォンから目に飛び込んできたのは、格子付きの部屋に並んで客引きをする明治期の遊女の写真。衝撃を受けて、大学図書館で手当たり次第、文献を集め始めた。

 東京の吉原遊郭にいた女性の手記や日記を調べると、見えてきたのは当時の女性たちの過酷な人生だ。多くの遊女が性病や無理な妊娠中絶のために20代半ばで死亡し、埋葬された浄閑寺(東京都荒川区)に無縁仏として眠る。「女性を遊郭に囲い、そこで起きた性搾取や暴力、貧困や差別は構造的に置き去りにされてきた」と感じた福田さん。その後も吉原遊郭の郷土史や90年代の低用量ピル導入を巡る国内の言説を自ら調査し、「性病や避妊中絶を取り巻く課題は、性産業や異性との交友が多い女性の問題だとみなすレッテル貼りが時代を通して進み、社会の中でそうした問題を語れない抑圧が生まれた」との見方を強めた。

国連女性差別撤廃委員会が最終見解を公表したことを受けて開いた会見で「性と生殖に関する健康と権利」を巡る国内における課題を訴える福田さん=11月1日、都内

女性自身の体や選択 大切にする社会とは

 大学時代、女性問題の勉強会や講座があれば、他大学などへも毎週末のように足を運んだ。そうした中、性産業から脱したい女性の保護や支援を目的に、売買春の買った側の処罰を法制化したスウェーデンの事例を知った。「法律に賛否はあるものの、性産業を女性らに対する暴力や権利侵害とみなす規範をつくった国とは、どのような国なのか」。答えを探るため、大学の交換留学制度を利用して、スウェーデンに1年間滞在した。

 留学中、異性のパートナーができた。海外での妊娠は避けたいとの思いもあり、ピルの処方を受けることにした。同国では25歳以下の若者が無償で受診や相談ができる「ユースクリニック」が普及している。クリニックの助産師に事情を話すと「他の避妊方法は考えているか」と尋ねられ、避妊方法の種類や選択肢について冊子や模型を使って説明を受けた。緊急避妊薬(アフターピル)を薬局で購入できることにも驚いた。そして何より「自分の体や人生についてきちんと考えて、えらいね」と言葉を掛けられたことが忘れられない。「日本では、性交経験を持つことや、避妊法を考えることに後ろめたさを感じさせられていた」と気付いた。「自分の体や選択が本当の意味で大切にされていると感じた。そうした社会を経験すると、あるべき権利や選択が奪われている場所へは戻れない」。国内で安全な避妊や中絶を選ぶ権利について発信しようと、帰国後すぐに活動を本格化した。

 ウェブサイトで若年層から意見を募ると、自らの同意はない一方的な性交を含む性暴力を受けた体験などが寄せられ、性交後72時間以内に服用する緊急避妊薬の必要性を実感した。緊急避妊薬を巡っては2011年に国内で認可され、17年には医師の処方箋なしに薬局で購入できるOTC医薬品とする検討がなされたが、導入は見送られた。福田さんは19年8月からスウェーデンの大学院で公衆衛生学を研究する傍ら、市民団体の共同代表として署名運動や国への要望活動に奔走した。

女性の声は「岩盤」を穿つか

 厚生労働省は21年6月、緊急避妊薬の薬局販売に向けた検討を再開。しかし、薬の年齢制限のあり方や若年層に対する不十分な性教育などを理由に慎重論は根強い。傍聴に足を運んだ福田さんも「動かぬ岩盤のような会合」に心が折れかけた。検討を受けて、昨年11月から緊急避妊薬を薬局で試験的に販売する調査事業が始まったが、実質的な導入に向けて出口は見えていない。

 「#なんでないのプロジェクト」を始めた当初、あえて避妊や性に関する言葉を活動の名称から避けた。「そうした言葉は一般に受け入れてもらえない」と思ったためだ。活動を始めて5年ほど、社会の受け止め方は変わってきたとも感じる。避妊や中絶を選ぶ権利は、女性の社会進出とも深く関わる。「女性が望んだ学歴やキャリアを中断せずに歩むには、どのタイミングで子どもを産むか、あるいは産まないという選択はとてもシビアな問題だ」と福田さん。「子どもを産むという選択が幸せなものであるには、産まないという選択も含め双方が尊重される社会であってこそ。女性が無力感を抱かされることなく、自分の選択ができる社会を実現するために声を上げ続けたい」。その声にうなずき返す女性は多いはずだ。

日本でジェンダー平等の課題に取り組む仲間とともにスイスで開かれた国連女性差別撤廃委員会の現地審査に参加した福田さん(左から2人目)ら=10月中旬、ジュネーブ

福田和子(ふくだ・かずこ) 
 1995年、東京都新宿区出身。鴎友学園女子中学高等学校卒。国際基督教大在学中の2018年、「#なんでないのプロジェクト」を発足。スウェーデン・イエーテボリ大修士課程修了。性と生殖に関する健康と権利(SRHR)について国内で発信を続け、23年にForbes Japan(フォーブズ・ジャパン)による「世界を変える30歳未満」に選ばれた。21年に始まった東京大の学生による自主ゼミ「東大で性教育を学ぶゼミ」の講師も勤め、現在は同大多様性包摂共創センター特任研究員

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