外務省が国連に対し、日本が国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)に出している拠出金の使途から女性差別撤廃委員会(CEDAW)を除外するように求めたことに、抗議が広がっています。CEDAWが昨年10月、スイス・ジュネーブで開いた日本政府への第9回報告審査に基づき、「男系男子」の皇位継承を定めた皇室典範の改正を勧告したことに、抗議の意図を示すのがねらいといいます。女性団体などは「日本政府が男女平等に背を向け、国連との対話を拒否するという誤ったメッセージになる」と批判、撤回を求める署名運動も始まっています。
外務省の方針は1月29日に明らかになりました。国連に対し、次の2点を伝えました。
1)国連人権高等弁務官事務所への拠出金の使途から女性差別撤廃委員会を除外する
2)女性差別撤廃委員会の委員の今年度の訪日プログラムの実施を見送
女性差別撤廃委員会の勧告は雇用、婚姻制度、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)など幅広い問題に及び、日本の女性差別的な施策の改善を求めています。今回、問題となった「皇室典範の改正」についての勧告は次の通りです。
皇位につく資格は基本的人権に含まれない?
「委員会はまた、皇室典範の規定は委員会の権限の範囲内ではないという締約国の立場に留意する。委員会は、しかしながら、皇統の男系の男子のみが皇位を継承することを認めることは、条約第1条及び第2条並びに条約の目的及び趣旨と相容れないと考える」
女性差別撤廃条約第1条は次のように定めています。
第1条 この条約の適用上、「女子に対する差別」とは、性に基づく区別、排除又は制限であつて、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女子(婚姻をしているかいないかを問わない。)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。
日本政府は昨年12月に勧告に対する見解をとりまとめ、発表しました。
「皇位につく資格は、基本的人権に含まれているものではないので、皇室典範において皇位継承資格が男系男子の皇族に限定されていても、女子の基本的人権が侵害されることにはならず、したがって本条約が撤廃の対象としている『女子に対する差別』に該当しない。我が国の皇室制度も諸外国の王室制度も、それぞれの国の歴史や伝統を背景に、国民の支持を得て今日に至っているものであり、皇室典範に定める我が国の皇位継承の在り方は、国家の基本に関わる事項である。以上のことから、委員会が我が国の皇室典範について取り上げることは適当ではない」
「閣議決定ではない」と外務省
こうした経緯を受け、昨年ジュネーブで開かれた女性差別撤廃委員会に参加した市民団体「女性差別撤廃条約実現アクション」と「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク」は1月30日、参議院議員会館内で集会を持ち、外務省に除外措置の説明を求めました。
外務省からは総合外交政策局人権人道課兼女性参画推進室の課長補佐、内閣府からは総務官室官房参事官補佐が出席しました。市民団体側は10人、女性国会議員も7人が参加しました。
除外措置などを通告した理由について外務省は「皇室典範の改正に抗議をしたが、勧告の最終版でも修正されなかったため」と説明。
日本政府からOHCHRへの拠出金は年2000万円〜3000万円だが、2005年以降CEDAWに使われた実績はないことがわかりました。

「今回の措置は閣議決定に基づくものか」という問いには「違う」と回答。
「内閣府の男女共同参画推進室は知っているのか」「官房長官は知っていたか」という問いには「答えられない」。
「外務大臣の決裁か」と聞くと、「外務省が判断して決定した」と答えました。
委員の来日招請について、来年度以降も中止するのかについては「未定」。
今回の措置はあくまで勧告の中の皇室典範の改正を求めた部分について抗議するもので、女性差別是正を求められた他の分野について「施策を後退させる意図はない」とも話しました。
両団体は連名で申入書を作成し、岩屋毅外務大臣に提出しました。
申入書は「委員会の勧告内容が日本政府の意に沿わないからといって、国連機関への拠出金を制限するなどという報復的な対応は、とても人権先進国がなすべき行いとは言えません」とし、除外措置などの撤回を求めています。
両団体に所属する柚木康子さんは「閣議決定もなく除外措置を通告したのなら、軽率にも程がある。資金を止めるというのは、日本政府が女性差別撤廃委員会との対話を拒否し、男女平等に背を向けるというメッセージになる」と話しています。
連合も抗議、オンライン署名も開始
日本労働組合総連合会(連合)も1月30日、清水秀行事務局長が談話を発表し、抗議。
選択的夫婦別姓、性と生殖についての自己決定、セクシュアル・マイノリティの権利などについて、ジュネーブで訴えてきたNGO団体のネットワーク「SRHR市民社会レポートチーム」も2月3日、除外措置に抗議するオンライン署名を始めました。
レポートチームの一員で、「なんでないのプロジェクト」の福田和子さんは次のようにコメントを寄せています。
「このような対応がまかり通ったら、条約に基づいた公正な勧告が出せなくなってしまう。結果的に、国内外でのジェンダー平等実現への取り組みを後退させかねない。さらには、国際的に広がる人権軽視の風潮への加担となりかねない、絶対にここで止めるべき暴挙だと思います。本勧告はあらゆるマイノリティの必死の訴えも強く反映したものです。CEDAW委員に必死に訴えた全ての人たち、この勧告に生きる希望を感じた全ての人たちの思いを踏み躙る判断だと、とても悔しい思いです」
(2月6日午前10時更新:福田さんのコメントを追記しました)