
日本の女性の平均賃金は男性を100としたとき、74.8にすぎない。(2023年、厚生労働省・賃金構造基本統計調査)
女性管理職比率も各種調査で12〜13%と低迷——。
こうした労働現場での女性に対する差別的な構造を変えようと、全国労働組合総連合女性部、均等待遇アクション21事務局、ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)の3団体が2月26日、東京都内で福岡資麿厚生労働大臣に要望書を提出し、厚労省の担当者との交渉を持ちました。要望書は昨年10月の国連・女性差別撤廃委員会(CEDAW)の勧告を引用し、6項目について改善を求めています。
1.賃金格差の公表について
男女の賃金格差の是正のため、政府は女性活躍推進法に基づき、企業に男女別の賃金の公表を求めています。現在は従業員数301人以上の企業が対象ですが、今国会ではこれを101人に引き下げる法改正が提案されています。しかし、日本では女性の半数近くが99人以下の企業に雇用されており、3団体は全企業を公表の対象とするよう求めました。
これに対し、厚労省は「100人以下の企業については、公表事務の負担感を考慮し、支援策の充実や情報公開の意義を周知することで公表の裾野を広げたい」と回答しました。
また、3団体が実額での公表や正規男性と非正規女性の格差がわかるような形式を求めたことについては、「実額を公表すると、賃金水準の格差に焦点があたり、新規雇用に影響を及ぼす恐れがある。異なる職種・雇用形態間での差異を示すことは企業に求めていない」と否定的でした。
WWNの西村かつみさんは1995年、勤めていた住友電気工業を相手取り、男女賃金差別訴訟を起こしました。女性には管理職への道が開かれていないこと、男女の賃金格差が大きいことが差別に当たるという訴えです。2000年に1審で敗訴。2003年、控訴審で和解、実質上の勝訴でした。西村さんは課長に昇進しました。
この間に、CEDAWから「男性は総合職、女性は一般職というコース別雇用管理から、男女の雇用格差が生じている」「間接差別の定義について国内法に取り入れるよう求める」という勧告が出されました。こうして2006年には男女雇用機会均等法が改正され「間接差別」の禁止が盛り込まれました。
厚労省の回答を受け、西村さんは次のように訴えました。
男女賃金格差は30年来の基本的な課題で、格差はほとんど縮まっていない。
賃金公表で、非正規の女性の低賃金をはっきり明確にすることは格差是正にとって重要です。
非正規の男性も高くはない。それに比べても女性は低い。それを明確にすることが格差是正につながる。
差異の公表は格差是正の第一歩だが、原因は何かを明らかにしないと解消できない。
その会社における男女格差の原因をはっきりさせ、どういう改善措置を取っていくのかというプロセスの公表を義務化してほしい。
女性活躍推進法の改正にも反映していただきたい。
2.間接差別の禁止について
雇用機会均等法第7条は「間接差別」を禁止しています。一方で、同法の施行規則2条ではその中身について、「採用時に身長、体重、体力に関する自由を要件とする」「採用時に総合職について転勤を要件とする」「昇進時に配置転換された経験を要件とする」の三つに限定しています。
3団体は施行規則2条による限定を撤廃するよう求めました。
厚労省は「間接差別は広がりのある概念。企業に行政指導を行うには範囲を明確にする必要があるため、あえて規定している。さらなる対象の追加については必要に応じて検討する」と回答しました。
2024年5月13日、東京地裁で、企業の社宅制度利用の対象を総合職だけに限定していたことは間接差別に該当すると認める判決が出ました。裁判で2条規定以外の間接差別が認められたのは初めてです。
そのAGCグリーンテック訴訟の原告も交渉の場に出席し、発言しました。
判決は会社の社宅措置は間接差別の判断枠組みに入ることを示しました。CEDAWからの勧告も出されているので、間接差別の禁止を法案に是非入れていただきたいと思っています。

3.非正規労働者の賃金・待遇の改善
3団体は男女の賃金格差の大きな要因が非正規労働者の低賃金にあるとみて、改善を求めました。同一価値労働同一賃金の徹底と、国際労働機関(ILO)が提唱する国際的な基準での評価が必要だとしています。
これに対し厚生労働省の担当者は「直近の10年間は正規労働者の数が増え、特に女性で増えています。不本意に非正規労働に就いている人が2013年から着実に減少している」と回答。「誰もが希望する働き方ができるよう、さらに正規への転換を進めて行く」と言うにとどめました。
同一労働同一賃金の徹底は都道府県労働局で指導をおこなっており、「法違反の場合は指導、是正を求めている」と話しました。
昭和シェル労組で45年間、男女差別解消を求めて闘ってきた柚木康子さんは、次のように話しました。
どこでこの格差をなくすかというのをまじめに考えないと女はずっと貧乏なんですよ。私は正規で45年も働いてきたけど、亭主の遺族年金より、私の年金の方が低いのね。それぐらい女の賃金は安いってことなんですよ。国民年金はもっと安い。ちょっとパートで働いたって月10万円いかないんだから。この人たちにどうやって生きていけっていうのか。どうやって賃金格差をなくして、女性たちがちゃんとした年金や働いてきた対価を受けられるようにするかを、早く考えないと。
女性たちの貧困をどうするのかというのを視野にいれた検討をしてほしい。
直せるところから直していかないと。もう間に合わないよ、日本の貧乏!
正規の女性も増えているが、非正規も増えている。
働く女性の53%が非正規ですよ。賃金が最低賃金の近傍にいる非正規は、昔は1割だった。いま3割までその割合が増えている。それだけ、みんな下がっているのよ。最低賃金でよく働く女性労働者がいれば、経営者は賃金を上げない。そうすれば男性の賃金も下がるよ。そんなことを放置していたらだめでしょ。どうやって底上げするのか。
非正規は、正規の賃金の8割なんか全然いかないんだから。きちっと分析してやらないと。
2020年に労働契約法20条をめぐる最高裁判決が相次いで出た。正規と非正規の同一労働同一賃金を問う訴訟。非正規の人が裁判することがどれだけ大変か。メトロコマースの原告は印紙代がかかることすら知らなかった。10万円そこそこの給料でね。大阪医科薬科大のアルバイト職員について、最高裁は賞与が出なくても不利益じゃないとした。裁判所は同一労働同一賃金の意義を全然くみ上げない。私たちは本当に怒っている。法がずぼらな判断を許さないように変わっていかないといけない。
4.アンコンシャスバイアスに影響されない人事考課
CEDAWの総括所見は賃金格差是正のために、非差別的で非主観的な職階および評価方法の導入を日本政府に勧告しています。一方2013年、広島高裁は中国電力の男女賃金差別訴訟で、男女格差があることを認めながら、女性は人事考課で低い評価を受けていたとして、「差別に当たらない」という判断を示しました。
3団体は「評価者の偏見やバイアスが、差別となり、不利な人事考課につながっている」と指摘しました。

5.ハラスメントへの取り組み
3団体はパワーハラスメントを受けた労働者からの相談に適切に対応し、相談者の意向に沿った解決ができるように事業主を指導するよう求めました。また、政府に対し、ILOの「仕事の世界における暴力およびハラスメントの撤廃に関する条約」への批准と「包括的ハラスメント及び暴力禁止法」の制定、罰則規定の設置を求めました。
厚労省の担当者は「労働施策総合推進法で事業主にハラスメントの相談体制の整備等の義務を課している。その措置がなされていない場合は指導を行うなど履行確保に努めている。条約批准については、国内法制との整合性をみながら慎重に検討していく」と回答しました。
AGCグリーンテック訴訟の原告は、間接差別が認められた判決の後、会社でのハラスメントに悩んでいると訴えました。
私の部署は男性上司と私の2人だったのですが、私の提訴後に、会社は私の上司として総合職の女性を採用しました。私は仕事を外され、情報や連絡ももらえなくなりました。
判決後の昨年11月末、私が入社してから16年間担当してきた給与業務をいきなりアウトソーシングすると言われ、やりがいがある人事業務をすべて取り上げられてしまいました。アウトソーシングについて会社は合理化の一環としていますが、少人数の職場で、私には情報をくれない、打ち合わせには入れない、直前まで知らせない。アウトソーシングでも会社と委託先でやりとりがあるはずなので、自分にもやらせてほしいと言ったのですが拒否されました。
私は管理室の仕事がしたいです、と言ったら、私にできる管理室の仕事はないと言われました。提訴中に業務の棚卸しをせず、増員して、仕事を取り上げ、外しておきながら、仕事がないですと言われるのがとても理不尽です。上司や会社は部下を育成してキャリアアップさせる気が全くありません。これは、私を排除する目的で閑職においやることで自主退職するようしむけるパワハラで、人権を無視した行為です。
判決後、会社は私を一般職の枠に押し込め、仕事外しを強め、関与させないようにしています。女性活躍とは真逆の方向に追いやられ、提訴前のように仕事ができなくなりました。
親会社の外部委託のハラスメント窓口に相談したのですが、会社に伝えるだけでフォローは何もしません。会社も当事者本人の調査を行う義務がありますが、一度も対面で話すことがなく、ヒアリングも調査もせず、最終回答は「親会社が提携している法律事務所がありますから、そちらに相談を」とずさんな対応で終わりました。
立場の弱い労働者は会社から有形無形の圧力を受けて、会社にいられなくなり、ひどくなると心の病気で健康を害します。最終的には辞めたくなくても辞めなければならない選択を迫られます。会社対応だけが優先されるのではなく、従業員を辞めさせることができない仕組みづくりや、対等の立場で要求したりできるようハラスメントに関する罰則規定を設けてください。
私は会社ではひとりで闘って、裁判後の今も同じ会社で働き続けています。仕事がしたいし、退職したくないです。会社に救済の場がなく、いま非常に苦しんでいます。どうぞよろしくお願いします。
6.雇用環境・均等行政の体制の強化・拡充
3団体は最後に、CEDAWの総括所見を確実に実施するために、雇用環境・均等行政の強化・拡充を求めました。また、専門的、継続的に業務に従事する非常勤職員の常勤化、定員化も求めました。
3団体は引き続き、厚労省と交渉を重ねていく予定です。