反「女性手帳」デモから12年 真綿で首を絞めるように強まる「産みなさい」の圧力

記者名:

12年前に阻止した「女性手帳」。今も私たちは怒っていい。

今朝、フェイスブックを開いたら、12年前のこの日の「思い出」がひょいと顔を出した。2013年6月9日、東京・吉祥寺で反「女性手帳」デモが開かれた、と書かれている。私は当時、大阪本社社会部に所属していたが、私用で東京に来た折にデモを取材したのだった。女性を中心に70人が思い思いのプラカードを手に、吉祥寺駅から井の頭公園までを歩いたと記憶している。

内閣府の作業部会「全女性に手帳を配布」

「生命(いのち)と女性の手帳(仮称)」、通称「女性手帳」は安倍晋三内閣が打ち出した政策の1つ。当時、内閣府に置かれた「少子化危機突破タスクフォース(作業部会)」がデモに先立つこと1カ月前の5月7日に、配布を決めた。晩婚・晩産化が少子化の原因になっていると考え、出産適齢期を意識してもらうために、2014年度から市町村の窓口で「女性」を対象に配布するというもの。具体的な内容は、妊娠した女性に配る「母子手帳」にならい、妊娠適齢期などの必要知識や自治体の支援施策を記した部分と、所持者が健康データを記録できる部分との2部構成を想定していた。

国会では民主党の蓮舫参院議員(当時)が「全女性を対象にするというが、セクシュアルマイノリティの扱いはどうなるのか」などと追及。

SNSに渦巻いた批判

ツイッターでは次のような批判が渦巻いた。

「妊娠異性がいないと成立しないんだから20歳以上の女性に配るんじゃなくて普通に学校教育で扱えばいい話じゃん…」

「これ、女性にだけ考えてもらって何か意味があるのかしら。男性は、何歳までに子どもを養って、かつ休職する配偶者をささえる覚悟を決めるべきか考えなくてもいいのか?」

「別にいまの少子化は『女性に(生殖・育児に関する)知識が足りない』から起きているわけじゃないだろってこと。むしろ育児にどれぐらいコストがかかるのか知識があるからこそ産みたい人も産めないんだろうよ。手帳つくるカネがあったら育児支援にまわせや」

「こんな事に税金使うより、正規社員増やして労働条件整えたり、保育園増やしたり、医療や福祉を充実させる方がよっぽど少子化対策になるよ」

「晩婚家庭へ何故晩婚だったのかと丁寧に聞き取りしたり、早く結婚して早く出産した家庭の調査とかしたりする学術的な分析を全くやらず、いきなり精神論に飛んでることが、反知性的でキモい」

プレコンセプションを予見した、病院の通信

政府はこのデモの直後に「女性手帳」の配布を断念した。その“遺志”を継ぐ形で登場したのが自治体の「プレコンセプションケア」(将来の妊娠を見越した意識啓発・健康管理)だ。

12年前の済生会新潟第二病院産婦人科の「へその緒」通信にはプレコンセプションケアを予見する書き込みがある。

「妊娠・出産に関する大切な情報を発信しても、発信元が少子化担当大臣じゃ『産めよ増やせよ』というメッセージなんだと曲解される可能性があるわ」

「妊娠・出産の知識の啓蒙をするなら、少子化問題とは切り離してやるべきよね。例えば、産婦人科の学会などに頼んで、そこからPRしてもらうような手もあったのにね」

今だって私たちは怒っていい

まさしく今、自治体は産婦人科医や産婦人科の学会の意見として、プレコンセプションケアを推進している。起こっていることの根は同じ。状況は変わらないどころか、確実に悪くなっている。それなのに、反対の声は熱さや広がりを欠いている。

年間出生数が70万人を切るというあまりの少子化の進展の早さに「なんでもいいから、とにかく産んでもらわないと」という圧力ばかりが強まり、女性たちが声を上げにくくなっているのではないか。

12年前、私たちは怒っていた。

「とりあえず産め、無責任な政治にNO!」

「少子化の原因を女性の精神論にすり替えるな」

手書きのプラカードの強いメッセージを眺めながら、今だって同じように怒っていいのだと思う。

12年前も、参院選を前に政府は日和ったのだ。

やめさせたい政策にNOを言うなら今だ。

進めたい政策にYESを言うなら今だ。