6月22日は「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日」。国の隔離政策により、ハンセン病患者及び回復者が人権を奪われてきた歴史を反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないことを誓う日です。2009年から、国主催の式典が開かれています。今年は19日に、厚生労働省の敷地内の碑に献花が行われ、式典とハンセン病問題対策協議会が開かれました。
今年も首相の出席はなし
厚生労働大臣、文部科学大臣、法務大臣が式辞を述べましたが、首相は初年度に菅直人首相が出席して以来、出席はありません。今年も石破茂首相の姿はありませんでした。
らい予防法違憲国賠訴訟の13人の原告の一人で、全国原告団協議会の会長、志村康さんが5月、92歳で亡くなりました。原告団協議会事務局長の竪山勲さんは式辞を、志村さんの追悼から始めました。
「ハンセン病問題全面解決の先頭に立って戦ってくれた。92年の生涯はハンセン病への差別偏見への挑戦の歴史だったと言っても過言ではない。志村死すとも魂は死せず。今もこの場に私たちとともに生きています」
平均年齢は88.8歳 医師は25人欠員
違憲国賠訴訟の勝訴判決から24年。ハンセン病療養所の入所者や元患者の多くが鬼籍に入りました。全国13の国立ハンセン病療養所と私立神山復生園の物故者は2万7823人を数え、故郷の墓に帰れず、療養所内の納骨堂に納められている遺骨は1万7822柱にのぼります。
入所者の平均年齢は88.8歳(2025年5月1日現在)。医療や介護がなくては生活が成り立たない中、療養所の医師の欠員は25人と昨年5月時点より4人増えています。
10園でいまだ「面会制限」
持病を持つ高齢者が多い環境と人手不足が相まって、ハンセン病療養所の多くで未だにコロナ時の面会制限が継続しています。
竪山さんは式辞でこの問題にも言及しました。

「世界中を震撼させたコロナも一昨年5月4日から感染症法上、2類相当から5類に移行しました。しかし、まだまだ療養所におけるコロナ対策は『隔離』の状態が続いていると言わざるを得ない。しかし、らい予防法廃止以来、入所者と家族や市民との交流が行われ、親子同然となった交流もあります。『再びの隔離』を思わせる対策の中で人との交流が断たれてしまったことは多くの問題を残したといっても過言ではありません」
コロナ下であっても適切な対策を取れば面会できる——元患者らはそう訴えてきましたが聞き入れられず、『隔離』はコロナ収束後の今も続いています。
「面会制限は人権侵害にもあたるといわれていることによくよく留意すべきです。面会を規制するのではなく、どうしたら面会ができるかに目を向け、考えればその方法はいくらでもあるはずです。医学科学はどうしたら人の尊厳が守れるかをその根幹に置くべきです。全国の療養所でも一刻も早く5類相当にふさわしい対策にするべきです」
厚生労働省の調査によると、国立ハンセン病療養所のうち、面会制限がないのは、長島愛生園(岡山県)、菊池恵楓園(熊本県)、奄美和光園(鹿児島県)の3園だけです。
ほかの10園では、「訪問時に体調を確認し、リスクが認められる場合は面会をご遠慮いただく」「面会は事前予約制とし、面会可能時間を制限」「抗原検査を行わない場合は入所者との飲食を禁止」「宿泊者は他園入所者、家族に限定する」などの措置が今も続いています。
「家族じゃないから泊めない」
療養所と行き来がある人たちに取材したところ、以下のような制限を体験したという声がありました。
・外部からの来訪者は、事前に本人とアポイントメントが必要
・介護が必要な人が住むセンターでの面会は、検温や検査が必要
・事前に約束があっても、本人が『会いたくない』と言っているという理由で、療養所の福祉課が『不可』を言い渡す場合があった
・コロナで宿泊が一律『不可』になったまま、今も泊まれない
・養子が宿泊を申請したところ、『本来は家族が泊まるところであなたにその資格はない』と言われた。その後、特別に許可された
・赤ちゃんを連れた友人一家が宿泊したいと頼んだが、家族ではないからと断られた
「広く面会の許可を出して」
全国の療養所と行き来がある市民団体の女性は「心の中では楽しみにしていても、職員に遠慮して外部からの訪問を断ってしまう。そんな入所者もいる」と指摘し、次のように話しました。
「強制不妊手術などで実子を持つことがかなわなかった元患者らは、養子縁組により家族を作ってきました。いまさら『血縁のある家族しか泊めない』は酷です」
「残り時間が少ない人生の中で、直接、友人知人と接していられる交流の時間はさらに短くなります。認知症が進み、名前が思い出せなくなれば、『本人の意思』という理由で面会も叶わなくなります。一回一回の機会がとても大切で、入所者は自分のところに寄ってほしいから福祉課に申し出るわけです。正当な訪問理由があるのなら、広く面会、宿泊の許可を出してほしいと思います」