
「日本人ファースト」「違法外国人ゼロ」「外国人優遇策の見直し」……今回の参院選では各党が競うように排外主義的な公約を掲げ、街頭演説でも差別的な扇動が繰り返されています。中には事実とは異なる主張も少なくありません。選挙権を持たない外国人は、なすすべもなくこうしたデマにさらされています。こうした状況を喫緊に改善しようと外国人の人権にかかわるNGO8団体が8日、都内で記者会見を開き、「緊急共同声明」を発出しました。賛同は1週間足らずで266団体にのぼっています。
会見の冒頭で「外国人人権法連絡会」事務局長の師岡康子弁護士が、共同声明を読み上げました。
声明は、NHKとJX通信社が6月実施した調査を引用しています。
「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に「強くそう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の合計は64%。

声明は、これを否定します。
全く根拠のないデマです。日本には外国人に人権を保障する基本法すらなく、選挙権もなく、公務員になること、生活保護を受けること等も法的権利としては認められていません。医療、年金、国民健康保険、奨学金制度などで外国人が優遇されているという主張も事実ではありません
さらに与党・自民党が掲げる「違法外国人ゼロ」の公約にも厳しい指摘を投げかけています。
「違法外国人」との用語は、「違法」と「外国人」を直結させ、外国人が「違法」との偏見を煽るものです。「不法滞在者」との用語も、1975年の国権総会決議は、全公文書において「非正規」等と表現するよう要請しています。難民など様々な事情があって書類がない人たちを「違法」「不法」として「ゼロ」すなわち問答無用で排斥する政策は排外主義そのものです。
その上で、選挙に候補者を擁立している各政党と各候補者、政府・自治体に呼びかけています。
ヘイトスピーチ、とりわけ排外主義の煽動は、外国人・外国ルーツの人々を苦しめ、異なる国籍・民族間の対立を煽り、共生社会を破壊し、さらには戦争への地ならしとなる極めて危険なものです。
私たちは選挙にあたり、各政党・候補者に対し排外主義キャンペーンを止め、排外主義を批判すること、政府・自治体に選挙運動におけるヘイトスピーチが許されないことを徹底して広報することを強く求めます。また、有権者の方々には、外国人への偏見の煽動に乗せられることなく、国籍、民族に関わらず、誰もが人間としての尊厳が尊重され、差別されず、平和に生きる共生社会をつくるよう共に声をあげ、また一票を投じられるよう訴えます

師岡さんは声明の背景について説明しました。
「私たちは参院選にあたり『外国人が優遇されている』『外国人が治安を悪化させている』などのデマに基づき、日本社会に外国人、外国ルーツの人々を敵視する排外主義が急速に拡大していることに強い危機感を持っています。外国人の置かれている厳しい状況を直接知っている私たちが、声を届けなければならないと考え、急きょ共同声明を出すことにしました」
税金を払っているのに選挙権はない
「外国人が優遇されている」という言説がデマであることの根拠として、師岡さんは次のように話しました。
「まず、外国人は税金を払っています。それなのに選挙権はない。政党に寄付することもできないなど意見を表明する権利を非常に制限されています。他の多くの先進国では、外国籍の人に地方参政権は認めている。韓国では日本国籍者が地方参政権を行使しているし、ニュージーランドでは国政の選挙権もあります。しかし、日本では選挙権どころか、基本的な人権を保障する基本法もありません。永住者であっても国家公務員になることはできず、地方公務員になれる地方公共団体は限られています」
「生活保護制度は準用されているが、日本国籍者と異なり法的な権利としては認められていません。医療、年金、国民健康保険、奨学金などで外国人が優遇されているという主張は事実ではありません」
「日本人ファースト」がはらむ危険
「日本人ファースト」というスローガンの問題点も指摘しました。
「外国人というだけでファーストではない、ないがしろにしていいというメッセージを含んでおり、排外主義につながります。米国ではアメリカファーストとのスローガンの下、日本人に対し暴力的な排斥がなされている。米などの物価が上がり、賃金は上がらず、みなが生活に困っているのは外国人のせいではありません。これまでの政府の政策が原因です。外国人を攻撃して排除しても私たちの生活が良くなるわけではないのに、外国人がそのような不満のスケープゴートとなっています」
「選挙運動でも差別的言動は禁止」川崎市
政府や自治体は人種差別撤廃条約に基づき、こうしたヘイトスピーチを含む差別をなくす義務を負っています。
法務省は2019年3月12日の事務連絡で「選挙運動、政治活動等として行われる不当な差別的言動への対応について」を発出。「不当な差別的言動は、選挙運動等として行われたからといって,直ちにその言動の違法性が否定されるものではありません」と警告しています。
罰則つきのヘイトスピーチ禁止条例のある川崎市は2025年7月7日、ホームページにメッセージを掲示しました。
「 選挙運動、政治活動の自由は、民主主義の根幹をなすものですが、川崎市内の道路や公園等の公共の場所で、拡声機等を使用し、特定の国の出身者をその居住する地域から退去させることを扇動する等の不当な差別的言動を行うことは、条例により禁止されています。 特定の国の出身者を排斥する差別的言動は、インターネット上においても許されません」

師岡さんは「このようなことを、国もほかの地方公共団体も行うべきだ」と話しました。
各団体の代表者の発言が続きました。
健康保険を払っていても、かかれる医者がない
●NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)共同代表理事の鳥井一平さん

在留外国人は376万8000人、人口比3.05%です。外国人が国保の加入者に占める割合は4.6%。そして、医療費のうち外国人が使用した割合は1.3%です。払うけど、もらってない。多くの外国人が税金や健康保険料を払いっぱなし。どういうことか。病院に行っても受け付けてもらえないからです。日本語を話せない患者は受け入れられないと断られる。そうなると、薬局で薬を買ってすまそうとなる。健康保険料を払っていても、かかれる医者がない。これが実態なんですね。

そういうことを生み出しているのはゆがんだ移民政策です。現にいる移民を認めたがらないものだから、労働者の受け入れと共生を別個に議論している。コロナの時に作物が腐ったり、配送が止まったりした。技能実習生の受け入れが止まると、たちまち日本の経済活動はストップしちゃう。あの時に問題となった技能実習生の奴隷労働は今も続いているんです。
ごみ捨てなど生活領域のことは「外国人問題」といってデマを流す。ごみ問題でいうと日本人だって、地方に行ったら分別の仕方がわからないことがあるんですよ。
物価が高い、賃金が上がらない。賃金が上がらないことを外国人のせいにしている政党もある。そんな事実はこの30〜40年をみても、どこにも見当たりません。人を使い捨てにする国の政策に根本的な問題があるんだ。それなのに、政党がヘイトを煽っている。政府がヘイトを煽っている。デマやウソを拡散している。メディアは事実を知らせていない。事実を伝えてほしい。人々には事実を知ってほしい。
この社会は、すでに外国人の存在なくしてなりたたない。人々はいろいろな形で共生策を探っています。地方ではこの人達なしにやっていけないという現実があるんです。
次の社会はヘイトの社会じゃない。違いを尊重するのが、なんとか一緒にやっていきたいという人の声をすくい上げるのが、政治の責任だと思います。
申請があっても在留資格認めない制度に問題
●全国難民弁護団連絡会議の浦城知子弁護士

難民支援の見地からお話したい。ルールを守らない外国人と言われることがあるが、難民認定制度の運用によって「非正規」滞在におかれてしまう人もいる。
難民申請中は日本で生活をしなければならない。ところが、空港で難民申請をすると上陸許可が得られない。申請があっても、条約上の迫害にあたらないとして在留資格を認めない運用が取られている。適法に難民申請をしているのに在留資格がない状態に置かれてしまう。そうした状況は改めていかなければいけない。
幼少期に日本に来た人が家族と一緒に生活する権利は人権条約によって認められている。国際法の見地から排外主義に与することの問題について、多くの人に知っていただきたい。
半数以上の外国人は生活保護を利用できない
●一般社団法人「つくろい東京ファンド」の大澤優真さん

「外国人が生活保護を日本人より受けやすい」というのは制度運営上、あり得ない。
日本に暮らす外国籍の方で、生活保護が準用できる人は38%。短期滞在の人をのぞくと46%。半数以上はそもそも生活保護を利用できない。私たち困窮者団体は、そういった生活保護を利用できない人から毎日相談を受けています。本当に生きていけないような状況です。外国人が優遇されているというのはあり得ないと強く思います。
生活保護目当てに(日本に)殺到しているということもあり得ない。今、外国人の生活保護の利用者は減っています。違法に支給しているということもありません。外国人に生活保護を認める国はほかにないというのもウソ。ドイツなどは認めています。
国保も払っているのに医療を受けていない。外国人が医療を受けにくい側面もあるが、日本人に比べ、若い人が多いからですね。
外国人が日本に医療目的できて、食い物にしているというのは本当か。厚生労働省は2015、16年に調査し、「そういう事例はほぼ確認されなかった」と結論づけています。外国人が医療を食い物にしていると街頭演説している候補者で、この調査に触れている人は見たことがないです。こういった基礎的な情報をまず抑えてほしい。
高額療養費制度も外国人が多く使っているわけではない。
1990年代と比べると、外国人人口は増えたが刑法犯罪数は減少している。国立社会保障・人口問題研究所の是川夕先生は「外国人の増加による治安の悪化といった現象は事実として存在しない」と言っています。
どんな議論をしてもいいと思う。ただデマが基になった議論はしてはいけない。それは社会を壊すことにつながると思います。
強まる強制退去の圧力
●一般社団法人「反貧困ネットワーク」代表の瀬戸大作さん

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の人からSOSが続いている。この在留資格の人は生活保護の利用資格がない。語学学校の仕事を解雇された。病気で仕事を辞めざるを得ない。でも生活保護が利用できない。2件の緊急対応をしていますが、2件とも強制執行がついている。
強制退去の圧力を受けている当事者はたくさんいる。
「仮放免高校生奨学金プロジェクト」で40世帯の子どもたちを支援している。そのうちの2世帯の親が強制退去の令状がついている。1世帯は8月中旬までに帰れと言われている。退去令状を見ると、「裁判中にも送還する場合がある」。入管から「次は荷物を持ってこい、家族のことなんか関係ない」と言われている。
今、入管はIDカード、身分証明、ボディチェックを受けないと入れない厳戒態勢。入管の「違法外国人ゼロ」キャンペーンに基づいた施策がすでに実行されている。この問題について7月10日に記者会見を開く。仮放免の当事者に、どんな人権侵害を受けているのか、具体的に話をしてもらおうと思っている。
「人種差別禁止」遅れている国内の法整備
●人種差別撤廃NGOネットワークの小森恵さん

日本には人種差別を禁止する法律が未だにない。それゆえ、日本が拘束されている人種差別撤廃条約に基づき、人種差別をなくすための取り組みを行っている。非常に重要な役割を果たしているのが、人種差別撤廃委員会による政府の報告書審査だ。これまで4回の審査があり、私たちも具体的に関わってきた。2010年の審査の前年に京都の朝鮮学校に対するヘイト集団の攻撃があった。委員会は勧告で「朝鮮学校の子どもたちに露骨で粗野な発言と行動が行われている」と認定し、日本政府に人種差別撤廃条約4条の留保を解除するよう求めた。ヘイトスピーチ禁止の法律を作りなさい、ということ。
2014年の審査で、委員会は「ヘイトの扇動に毅然と取り組むこと」「ヘイトを流布する公人に対する対策」「偏見と戦うための人権教育」などを求める勧告を出した。
2016年にヘイトスピーチ解消法ができました。解消法が一定の効を奏して、街頭におけるヘイトスピーチは収まった。でもその代わりにオンラインでの陰湿なヘイトスピーチが広がった。
2018年の審査では、解消法をもっと実効性のあるものにしなさい、被害者の救済や加害者への制裁を盛り込みなさい、という勧告が出た。
こうした法律を基にしながら、当事者は個別で裁判を戦ってきた。自治体の条例ができた。しかしながら、ヘイトスピーチが止まない。今この段階において一番危惧しているのは、路上やネットではなく「選挙」の空間にヘイトが侵入してきたということ。色んな国で差別と戦う人たちによって人種差別撤廃条約という国際基準ができ、国際人権が発達してきた。まさに国際連帯だと思う。日本人ファーストとか、日本人だけということではなく、国際連帯のスピリットを持って、毅然として何をすべきかを考えなければいけない。
外国籍の子どもたちの夢を奪わないで
●外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)事務局の佐藤信行さん

先週、東日本大震災から14年になる福島県で、「子ども日本語教室」の子どもたちがキャンプを行った。小学生から高校生まで10カ国の25人。いずれも日本に来て間もない子どもたちだ。
子どもたちは日本の学校に通いながら、日本語教室にやってきます。日本語を学ぶだけでなく、子どもたちの居場所になっている。子どもたちは悪戦苦闘しながら、自分のアイデンティティを獲得していく、そして、日本語を必死に獲得して、高校入学、大学入学を目指す。
しかし、日本の現実はこのような子どもたちに対して、「頑張って公立学校の教員になれても、校長や教頭にはなれない」「18歳になっても、日本社会や地域社会をよくしようと思っても、選挙権は認めない」と公言している。さらには「この国は『日本人ファースト』。君たちは招かざるお客さん」と言うのでしょうか?
子どもたちの顔を思い浮かべながら、こう言いたい。この子どもたち一人一人の夢を私たち大人は奪ってはいけない。
憲法前文を現実のものに
●フォーラム平和・人権・環境の共同代表、染裕之さん

今年は戦後80年、原爆投下80年。アジア太平洋諸国の人に多大な被害を与え、人権を蹂躙し、国民にも塗炭の苦しみを与えた反省から、日本国憲法に三つの基本理念を誓った。基本的人権の尊重、主権在民、平和主義。
憲法103条のうち31条が人権に関わる条文です。人権の最大限の尊重を必要としているのが日本国憲法の大きな特徴の一つ。
個人として尊重され、平穏に暮らす権利がうたわれている。前文には国際協調主義がうたわれている。
「全世界の国民が等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに存在する権利を有する」
これを理念に終わらせず現実のものとするべく、みなさんと一緒に排外主義の煽動に反対する取り組みをしていきたい。
「ヘイトを見過ごすと民主主義が壊れる」
記者との質疑応答では「外国人へのヘイトを見過ごすと民主主義が壊れる」「今後、私たち一人ひとりへの差別や格差として跳ね返ってくる」などの意見も出ました。
師岡さんは「この問題は日本人が先頭に立って動くべきだ。多くの選挙演説の場で排外主義が煽られているので、外国籍の人はその現場を通りたくない。しかし、国政選挙なので逃げ場がない。優遇されているどころか、外国の人たちこそ恐ろしい思いをしている。選挙が一日も早く終わらないかと思っている。でも、結果によって排外主義的な政治家が増えてしまったら、ますます逃げ場がない。この社会に責任がある有権者として、責任を持ってこの状況を変えるべきだし、その声を報道に伝えてほしいと思った」と話しました。
国連広報センターも「ヘイトスピーチ」憂慮のポスト
参院選のこうした状況を受け、東京の国連広報センターは7月7日、SNSに元国連ジェノサイド防止担当特別顧問のアダマ・ディエンさんのインタビュー動画を上げました。
「ホロコーストはガス室から始まったのではなく、はるか以前にヘイトスピーチから始まったのです」
外国人政策に関する各党公約は……
各政党の外国人政策について、公約、マニフェストから見てみましょう。

立憲、公明、共産、社民をのぞき、「多文化共生社会」に逆行し、外国籍住民の人権を抑制する方向の政策が並びます。
まるで、「選挙権がない人はいくら叩いても実害がない」「外国人をスケープゴートにすれば日本人有権者の溜飲を下げることができる」と言わんばかりです。
困るのは「近未来の日本人」
しかし、少子化は短期間では解決しません。
厚生労働白書によると、2021年の医療・福祉分野の就業者数は20年前から倍増し、891万人。今後20年間で就業可能人口が約1400万人減る中、医療・福祉分野に限っても2040年には96万人が不足すると見込まれています。外国の人の手を借りなければ、どうにもならないのです。
公明党のように外国人を「観光資源」としてだけカウントするのも的外れです。
一緒に地域をつくっていく人、社会を担う労働者としてきちんと位置づけ、払っている税金や保険料に見合った公的サービスを提供するのは当たり前のことではないでしょうか?
「追い返す」一辺倒の入管行政を取っている限り、日本で働きたいと思う外国人は増えないでしょう。そのことによって困るのは、実は近未来の日本人です。政党のキャッチフレーズに煽られず、冷静に判断したいものです。