
外国人への憎悪や排除 どう対応すべきか
外国人への憎悪や排除につながる候補者の主張を専門家はどのように見ているのでしょう。韓国系カナダ人で北大公共政策大学院教授の池炫周直美( チー・ヒョンジュウ・ナオミ)さん(東アジア現代政治)に話を聞きました。
Q 選挙で「外国人政策」を訴える政党が増えています。日本に住む外国人の対応を厳格化し、日本人を優遇するよう求めるものです。どのように見ていますか。
A 欧米諸国と同じように、日本でも排斥主義が拡大してきたのを感じます。アメリカファーストを掲げ、留学生へのビザ発行を厳格化するトランプ政権と同じですよね。
日本は政党だけじゃなく、国もそうなってきています。例えば、文部科学省は、日本の大学院博士課程にいる学生のうち、日本人以外は研究期間中の生活費の支援をしないと決めました。
積極的な排除というよりは日本の学生を守りたくてやっているのでしょうが、学問の自由に反しているなと思います。国籍は関係なく、その人の研究の内容で判断すべきでしょう。数年前から参政党が表に出てきて、そのときは真剣に考えていなかったですが、少しずつ議席を伸ばし、6月の都議選では3議席を獲得した。急に危機感を持つようになりました。この流れは一過性のものではない、さらに悪化するのではという懸念があります。
Q 中でも参政党は「日本人ファースト」を声高に叫んでいます。
A その背景にあるデマを容易に信じてしまう現象に危機感を抱いています。外国人が優遇されている、外国人は犯罪を犯しても逮捕されてない、みたいな言説がSNS上に大量に流れていますが、ファクトチェックをすれば一目でデマだと分かる。それも結構簡単にインターネットで見つけることができるファクトです。耳障りのいいことだけを聞いて信じてしまう。自分たちが外国人に対してしようとしていることと同じようなことを、海外で自分たちがされたらどう思うか。自国民を大切にすることと外国人の排除はイコールなのかと問いたいです。日本に住む外国人は全人口の約3%に過ぎません。その人たちへの生活支援が、日本人の生活に大きな影響を与えているとは思えません。賃金が上がらない、なのに物価が高くて、生活が苦しい。それを根拠がないままに、外国人のせいにしています。
Q 参政党の北海道選挙区の候補者は、街頭演説でこのままだと外国人に植民地化されてしまう。土地もビジネスも取られてしまうという発言をしていました。
A 例えばですが、日本も1980年代のバブルの時代に海外で土地を買い、マンションを買ったりしたんです。日本だけが珍しい現象ではなく、海外にも前例はちゃんとあります。それと日本は成熟した民主主義の国です。その日本がどこかの国の植民地になるということがそんな簡単にあるはずがない。もっと自分の国に自信を持ってほしいです。
留学生、私費留学がほとんど

Q 日本で暮らす留学生が優遇されていると主張する政党もありますが、実際に大学でそのように感じますか?
A うちの大学の留学生たちはほとんど私費で留学してきています。一部は国費留学で来ていますが狭き門です。授業料の免除申請もできますが、免除されるのはほとんど日本の学生です。しかもそういった奨学金制度はどこの国にもあり、海外で学ぶ日本の学生も同じように恩恵を受けている。就職も日本の学生と同じ時期に就活を始めても、先に決まるのは日本の学生で、海外の学生はずっとあとです。
Q 外国人政策を掲げる政党は投票権を持たず、選挙に行けない外国人を差別のターゲットにしているとの指摘もあります。
A わたしの両親は生まれも育ちも日本ですが、帰化しなかったために選挙権を持つことができませんでした。ですがその後移住したカナダでは自分の住んでいる地区では永住権を持っていれば選挙権を持てる。日本ではこの議論が進みません。かつて東京・武蔵野市が外国籍の人も投票できる住民投票条例を制定しようとしましたが、反対派からの猛攻にあい断念しました。実現にはまだまだ時間がかかると思っています。
気になる女性蔑視発言
Q 参政党の主張でほかに気になる点はありますか。
A 女性蔑視ですね。神谷代表は公示後の第一声で、「高齢女性は子どもが産めない」といいました。これは本当に失礼な発言です。もっと国民が怒っていいと思います。女性を子どもを産む存在としてしか捉えていないような発言は、差別的だと思います。参政党の支持者には若い人が多いといいます。自民党が長期で政権を持ち、政治が変わっていない、暮らしが変わっていないひずみがこういうところに出て、若い人たちが参政党の主張に魅入られているとしたら、それは政治や大人たちの責任だと思います。
ヘイトはヘイトしか生まない、長続きしない
Q 最後に一言。
A ヘイトはヘイトしか生みません。ヘイトは長続きしない。第二次世界大戦のドイツでナチスが生まれましたが、政権は長続きしませんでした。トランプ政権もいつかは終わります。社会は信頼関係があってこそ成り立ちます。そして、信頼関係はきょう、あしたにつくられるものではない。日本に来ている外国人とも信頼関係を築き、そして目の前で起きている現象をパニックに陥らずに一つ一つ丁寧に考え、対策を取る。それこそが将来に向けての一歩だと思います。

チー・ヒョンジュウ・ナオミ カナダ出身。北大大学院法学研究科博士後期課程修了。2024年より現職。