日本人女性と結婚し、埼玉県で生活しているスリランカ人男性ナヴィーンさんに、強制送還の危機が迫っています。支援者らからのオンライン署名5168筆が11月27日、法務省出入国在留管理庁(入管庁)に手渡されました。国会議員33人の連名の署名もありました。入管庁が今年5月に発表した「国民の安心・安全のための不法滞在者ゼロプラン」を受け、外国人住民の強制送還が続出しています。ナヴィーンさんのケースもその一環とみられ、支援団体は「ゼロプラン」の中止も求めています。

父親は政党間の抗争で命を落とした
ナヴィーンさんはスリランカで父親と政治活動に関わり、対立政党から暴行や殺害予告を受けたことから、2004年に日本に渡りました。在留資格は「留学」。日本語学校に通っていましたが仲介業者に授業料を着服され、2005年12月、在留資格を更新できずにオーバーステイの状態になりました。
そのころ、現在の妻なおみさんと知り合います。なおみさんはシングルマザーで、子育てが一段落する10年後の結婚を約束して交際を続け、2016年に結婚しました。
ナヴィーンさんの父親は政党間の抗争で命を落としました。ナヴィーンさんは政治的な迫害を怖れてスリランカに帰ることはできないと判断し、2013年、2017年に難民申請をしますが、不認定となり、2022年に不認定処分の取り消し、在留特別許可の義務づけなどを求めて提訴しました。
2025年8月26日、東京高裁はナヴィーンさんの訴えを棄却しました。
判決は、ナヴィーンさんがなおみさんの母親や息子とも同居し「安定かつ成熟した婚姻関係を築いている」と認めながらも、その関係は「不法残留という違法状態の上に築かれたもの」であるため保護に値しないとしました。在留特別許可の付与については「実子の利益」が最優先されますが、2人の間には実子がいないことも影響したとみられます。
強制送還されれば5年は戻ってこられない
支援する反貧困ネットワークの瀬戸大作事務局長は11月21日、入管庁に同行し、「1カ月後の12月21日以降にいつでも強制送還が可能だという説明を受けた」といいます。

「1カ月以内にスリランカに戻ったら、一般的に1年後に帰ってこられる可能性があるといわれた。それに応じなければ強制送還されて最低5年は戻ってこられない。健康問題もある。ナヴィーンさんは大量の抗うつ剤を飲んでいて命の危険がある。もし強制送還されたらどうなるんだろうと」
入管庁の職員は署名を受け取り「法令に従って適切に対処して参ります」とのみ発言しました。
12月8日現在、まだ入管からは送還についての文書通知はありませんが、予断を許さない状況です。
ナヴィーンさんは普段、反貧困ネットワークが生活困窮者を対象に開く「おとなりカフェ」のランチ営業を手伝ったり、大学で学生たちに自分の境遇や難民認定の難しさについて話をするなどの活動をしています。東京近郊で開かれている「移民難民フェス」では自作のスイーツや料理をふるまっています。
この日は日本人の友人たちが、ナヴィーンさんとの出会いやその人柄について語り、強制送還を止めてほしいと訴えました。
9年間の婚姻生活があるのに配偶者ビザが出ない
妻のなおみさんは次のように訴えました。
「夫婦として相当期間共同生活をし、協力して9年間の婚姻生活があるのに、配偶者ビザを認めてもらえません。シングルマザーだった私は結婚前提の交際を11年して結婚に至りました。人柄がステキな方と思い結婚しました。かけがえのないパートナーです。夫は命にかかわる重度のうつ病を患っています。私がそばで支えなければ、自ら命を絶ちかねない。収容や送還で夫婦を引き裂くのはやめてください。
夫は日本社会に溶け込み、柔軟に対応ができています。ビザを認めてもらえれば喜んでくれる人がたくさんいます。とても優しい人です。数え切れないほど感謝され、ありがとうといわれる姿を見てきました。ともに暮らしていくことができるのにね、という言葉も何度も日本の方から聞きました。
私は高齢の母の面倒をみているので、私がスリランカに行くことはできません。ともに穏やかにくらしていけるように、総合的な判断で配偶者ビザを認めてください」
ゼロプラン後の日本 おかしなことばかり
ナヴィーンさん本人も最近の出来事や今の思いを語りました。

「ゼロプランが始まったころからおかしいことばかり。入管は(母国に)帰って帰ってと言っている。私は家族もいるし、帰ることはできないよと言ったら、入管の職員から家族全員で帰れと言ってきた。(同居している)妻や義母、義理の息子は日本人なのに、日本人まで海外に送還することが始まったのかなと思う。このまま入管(の対応)が悪化していけば外国人だけじゃなくて、日本社会の問題につながっていく。外国人と結婚した日本人にもいじめが始まっている。
(7月の)参議院選挙の後は、日本社会がちょっとおかしくなっている。非常に怖くなっているのは、関東大震災時に続く、2回目の(外国人)虐殺が起きる始まりではないか。
川口市のショッピングセンターでレジに並んでいたら、日本人のおじいさんにカゴで殴られて、「後ろに回れ」といわれた。その後、おじいさんは店の外で私が出てくるのをずーっと見ていた。
私と奥さんが入管に行く日に北戸田駅まで自転車で来て、駐輪場で並んでいたら、「ガイジンは邪魔だからどけ」と言われた。
これまで21年間、日本に住んでいて、そういうことは一切なかった。日本社会がおかしくなって、外国が日本社会を脅かすといっているんだけど、私からみると、日本政府が日本社会を脅かしているようだ。とんでもない嘘やデマをばらまいている。
外国人でも命を守るのが政府の仕事であるはずなのに、人の命を奪っちゃうようなことをどんどんやっていくのがあり得ないと思う。台湾(有事)の問題も、自分たちの発言で日本社会を脅かして、自分たちがやりたい方に国民を向かせるためにやっているのかな、と。外国人のせいにして政府がやっている悪いことを隠している。そのために嘘をばらまくのをいつやめるのか。1日でも1秒でも早くやめてほしい。
私たちの結婚をちゃんとしたものと認めた上でビザを出さないのもわからない。政府は、入管は何を求めているんだろう。わからない。入管がやっていることは間違っている。ビザを与えて働かせて、私からも税金を取れば、家族にとっても国にとってもいいこと。いま、どっちにとってもいいことにはなっていない。
ちゃんと人間として認めて、一日でも早くビザを出して、私たち家族の幸せを認めてほしいって強く思っている。みんなの力が必要、これからもよろしくお願いします」

