〈旧統一教会被害は終わっていない〉④高額の献金被害にあった母親から引き継ぎ提訴して約10年 「念書は無効」を引き出した逆転勝訴

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母親が高額献金の被害に遭った中野容子さん(仮名)は被害回復のために長い裁判闘争をし勝訴した

韓国でのTM報告書の暴露により、自民党との癒着が再燃。そんな中、高額献金被害者が逆転勝訴したよ

韓国では昨年末より、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)幹部が韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁に報告した約10年におよぶ「TM(True Mother、真の母)報告書」が暴露され、その内容が少しずつ報道されています。日本の安倍晋三元首相ら自民党政治家たちと旧統一教会がいかに癒着していたのか、徐々に暴かれているのです。その一方で、旧統一教会被害者たちの被害回復は現在もまだ終わっていません。

昨年12月18日、旧統一教会の信者だった母親(故人)が信者らによる違法な勧誘で高額な献金被害に遭った遺族が、教団側に損賠賠償を求めた訴訟の差し戻し審の判決が出ました。東京高裁(水野有子裁判長)は、教団側に約6500万円の賠償を命じました。双方が上告しなかったため、判決は確定しました。
これまで裁判を続けてきた娘の中野容子さん(仮名、60代)に、被害の実態、10年におよぶ裁判闘争と現在の思いについて聞きました。

Q:ついに賠償命令が確定しましたね。長い裁判を本当におつかれさまでした。裁判の経過をまず教えてください。

やっと肩の荷が降りたという感じです。母の被害に気がついてから10年以上かかりました。私が旧統一教会による母の献金被害を知ったのは、2015年8月でした。当時、2009年に亡くなった父親の財産が何もなかったことを母と話した時に、突然、母が「私が統一教会に全部寄付しちゃった」と言ったんです。もうびっくりしました。11月に全国霊感商法対策弁護士連絡会に相談し、2016年から母が通っていた教会と直接交渉を始めたものの誠実な対応がなく、結局2人で、2017年4月に東京地裁に提訴しました。裁判は2021年5月まで続き、その中で教団側から出てきたのが「念書」でした。「寄付ないし献金は、私が自由意思によって行ったもの」「損賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わないことをここにお約束します」と書かれ、母の署名と押印がありました。その上、教団側は動画まで撮影していました(2015年11月1日撮影)。当時、母は86歳で認知症の症状が出ていました。なぜこんな酷いことをしなければいけないんでしょうか。

東京地裁は、「念書は正常な判断能力に基づいて作成された」とし有効性を認め、私たちは全面敗訴になりました。すぐに高裁に控訴しましたが、2022年7月7日、同じ理由で全面敗訴しました。翌8日は、私は偶然にも奈良へ向かう新幹線の中で安倍元首相が山上徹也被告に銃撃された事件を知ったのでした。

それまでの裁判があまりにも大変でした。その上、母は認知症を患って裁判での供述もままならないまま、2021年7月に91歳で亡くなり、私が相続人として裁判を引き継いでいました。
最高裁に上告しても、判決が覆る可能性は低いというのが常識と言われる中で、自分にはもはや上告はできないと思っていました。しかしその時、代理人弁護士から連絡が入り、中野さんがやるなら協力は惜しまないと言われ、上告を決心したんです。

2022年に上告し、2024年6月10日には最高裁で弁論しました。そして迎えた7月11日の最高裁判決では、地裁・高裁の判決を見直し、念書は「公序良俗に反して無効」との判決が出たのです。
これは大変重大な意味を持つ判決でした。なぜなら、念書や合意書、誓約書などと称するものは母だけでなく、多くの信者の人たちが教団側に書かされていたからです。

母の場合は、すでに認知症にもかかわらず、自分がした献金は取り戻さないという内容の念書を教会から書かされ、言わされていました。裁判では教団側がその録画を証拠として出してきました。それを最高裁が無効だとしたのです。1審、2審は審理が十分に尽くされていないとし、これまでの判決を破棄し原審に差し戻すという判決でした。それによって第二次控訴審が行われることになりました。

Q:そもそもお母様はいつ頃、どんなきっかけで信者になったのでしょうか? またいつ頃からどの程度献金したのでしょうか。

両親は農業を営んでいました。母は、2004年頃、父が重い病で入退院を繰り返している時期に、旧統一教会の長年の熱心な信者であった私の妹の誘いで信者になったようです。妹は都内の教会に通っていて、現在も熱心な信者です。妹は教会の言いなりのような状態なので、私との関係は壊れてしまい、私の知らないところで母を教会に引き戻し、損害賠償請求を諦めるよう説得しようと試みたこともありました。

献金については、母の記録はないので正確には言えないのですが、2005年から2010年ごろまで行われ、当時はまだ認知症は出ていませんでした。証券会社で運用していた父名義の資産や母名義の資産も献金していました。最も高額な献金は、所有していた果樹園を売却したお金で、現金で教団側に運んだため、正確な記録はありませんでした。それらを合わせると約1億8000万円ほどになります。献金をして授けられた物品の数々――大理石の壺、経典、彫刻、メダルなどが家に残っていました。
裁判には印紙代がかかるという問題もあり、最高裁への上告では父親名義の資産被害のみを上告しました。これは約1億8000万円の約3分の1くらいです。これは妥当性が弱いからではなく、裁判費用と考え合わせて判断したことでした。

Q:今回昨年12月18日の差し戻し審の判決はどのようなものだったんでしょうか。またその判決の意味は何でしょう。

第一次地裁・高裁判決では、献金について、母が適切な判断ができなかったであろう事情を丁寧に検討しないまま違法行為はないとしていました。差し戻し審はそういった諸事情を挙げ、統一教会の献金勧誘について社会通念を逸脱する違法なものと認めました。

また、上告審以降は個人としては婦人部長のみを相手方としていたのですが、この婦人部長の共同不法行為責任が認められたことも大きかったと思います。婦人部長は献金について一貫して、某本的に何も知らない、母が自分の意思でしたと主張をしていました。実際には、女性信者を束ね、献金についても本部から命じられる目標を達成するために信者らに指示する立場にあったのですから、その責任は重大だったわけです。

Q:旧統一教会対策について言いたいことは?

2023 年に、自民党、公明党、国民民主党が強行に反対して、包括的財産保全法ができなかったのは大変な痛手です。統一教会にとって何よりも大切なのはお金なので全力でそれを隠そうとするはずです。被害者救済が十分になされるか危ぶまれます。

Q:旧統一教会と関係のあったと言われる自民党議員らに言いたいことは?

TM 報告書によって、私が母の被害に気がついて被害回復の交渉、裁判を行ってきた2015年からの年月が自民党と統一教会がより強く結びついた時期であったことがよくわかりました。

第一次控訴審で統一教会側が最初に出した書面(2021 年10 月)は、安倍元首相がビデオメッセージを寄せた天宙平和連合という教団関連団体のイベントについて、ほぼ全体を費やして主張を行ったものでした。統一教会側は世界各国の元高官や宗教者らがこのイベントに賞賛のメッセージを寄せたことで、統一教会がなんらかの権威を得たと主張したいようで、自信たっぶりでした。損害賠償請求とは関係のない荒唐無稽な主張だと思いましたが、TM 報告書がその理由を明かしてくれたのです。

先に話しましたが、2022 年7 月7 日の第一次控訴審判決の翌8 日に、安倍元首相銃撃殺害事件が起きたことには本当に驚きました。統一教会による母の被害、私たちの裁判と、山上家の被害と家族の苦しみは同じ時間の中を並行して進行してきた。被害の実態は共通しています。事件は私にとって、そのことが暴力的に生々しく露呈した瞬間でした。そんな家庭が数多くあり、苦しむ被害者がいるのです。
山上被告が裁判で明かした、安倍元首相のビデオメッセージに対して抱いた感情、絶望感と危機感について政治家、とりわけ自民党はよくよく考えてほしいと思っています。

全国霊感商法対策弁護士連絡会・木村壮弁護士(東京共同法律事務所)に聞く

木村壮弁護士は2008年頃から旧統一教会の被害回復に取り組んでいる。2026年1月15日、オンライン

Q:今回(12月18日)の差戻し審の判決の中で意義があったのはどんな点だったのでしょうか?

大きく二つあります。

一つは、2024年7月の最高裁判決で献金勧誘の違法性について規範を示しているのですが、それについて東京高裁がどう判断したかということです。
特に重要なのは、被害者本人(中野さんの母親)が認知症になり、その後亡くなりましたので、どのようにお金を出したのか、つまり、勧誘の文言を直接証言できませんでした。だから違法性が立証できないとして、前の高裁判決では献金勧誘の違法性は認められないとしたわけです。
しかし、第二次控訴審判決では、教団は先祖解怨(かいおん)をしないと幸せに暮らせないとしてお金を集めてきた、それも組織的に行ってきたと認定し、本人についても同様の言辞で勧誘されたと優に推認できるとしたわけです。

また、当時、本人は家族の不幸が続き、心情的に不安定になりやすかった。そうした客観的な状況があったとした。教会の言いなりに土地を売らされ、売得金を交付させられるなどいろいろなことをやらされてきたこともありました。判決はこのような事情から本人が教団の「教理の影響下にあった」と認定しました。
そして、判決は客観的に精神的に不安定な状況で、教理の影響下にある中で、先祖解怨しないと幸せになれないとして献金勧誘されたことから、本人には献金をすべきか否かについて適切な判断することに支障が生ずる事情が少なからず存在したと判断しました。

さらに、判決は、実際に教団に払ったお金は一億円を超えている。これは生活の維持を困難にするほどの極めて高額な金額であり、実際に、ご本人は生活に困窮していたと認定しました。

以上を踏まえ、具体的な勧誘文言が立証できなくても、このような客観的な事情から違法性が認められ得るということは、今後、被害救済をしていく上で、とても重要な判断だったと思います。

今回の控訴審判決のもう一つの重要な判断は、旧統一教会だけではなく、教団幹部信者らの責任も認めたことです。
実際に献金を集めるのは教会の女性たちです。さまざまな方法で献金の勧誘をするのですが、判決は、それを「婦人部長」が取りまとめていたことを認定し、その婦人部長の責任を認めました。

Q:合意や誓約書などを教団側が準備しているケースも多いのでしょうか?

かなりあります。これまでも合意書などの有効性を否定した判決がすでに3つ出ており、今回の判決で4つ目です。

Q:今回、差戻し審で献金勧誘の違法性を引き出したことは大きな意味があるということですね。

そうですね。旧統一教会の被害は、かなり長期間にわたって何度も献金をさせられるものが多いので、その時、その時に何を言われたかを立証するのは、極めて困難です。立証できないから違法性を認めてもらえないケースがこれまでもありました。

しかし今回は勧誘文言を立証できないから違法性が認められないとする判断を覆す判決が出たわけです。その意味でとても重要な判断です。

Q:ところで、木村弁護士も参加している全国霊感商法対策弁護士連絡会 が2025年12月9日に、声明「統一教会『献金問題に関する被害補償委員会』の発足を受けて」を出しています。その内容をわかりやすくお話しください。

この「献金問題に関する被害補償委員会」(以下、「補償委員会」)とは、旧統一教会が10月29日に設置したものです。

東京地裁が解散命令の中で指摘する「根本的な対策」のためには、独立した第三者委員会が、旧統一教会による過去数十年にわたる献金勧誘や霊感商法問題について十分に調査をし、原因を分析することから始めなければなりませんが、旧統一教会はこうした基本的な調査すら予定していないのです。そのため、教団が「補償委員会」を設置しても、「根本的な対策」には全くなりません。

また、「補償委員会」は、情報源は教団からのものに限られ、かつ、旧統一教会の被害に精通しているわけではないため、十分な被害救済がなされないおそれがあります。そのため、旧統一教会による献金被害に遭われた方は、適切な賠償を受けるために、「補償委員会」ではなく、「全国統一教会被害対策弁護団」など旧統一教会による被害に精通した専門家に相談し、自己の被害を回復していただきたいと思っています。

Q: たとえ解散命令が確定したとしても、その後教団の資産が被害回復のために使われるのか心配です。

2025年3月に東京地裁が教団に解散を命じており、旧統一教会が即時抗告したため現在東京高裁で審理中で、今年3月までには東京高裁の決定が出る見込みです。もし東京高裁が解散命令を支持すれば、旧統一教会は宗教法人として解散し、清算手続きがはじまります。その中で清算人は、被害者に「債権届」を提出するよう催促する公告を出すことになります。そして、清算人は被害者から提出された債権届について認否し、被害として認定されたものについては清算手続き内で賠償することになりますが、これまで通り公正な賠償がなされるためには、現在、弁護団で申し立てている東京地裁での調停の手続きなどを利用して賠償の要否や賠償額について公正な判断されるようにしていく必要があると思います。2022年3月末時点の教団の総資産は約1181億円とされています。それが被害回復に使われるようししていかなければなりません。

【電話相談】
全国統一教会被害対策弁護団
03-6261-6653
10時30分から~15時30分(月~金)
ホームページからメールでの相談もできる。

全国霊感商法対策弁護士連絡会
相談電話:火曜070-8975-3553
     木曜070-8993-6734
相談時間:11:00~16:00
reikan@mx7.mesh.ne.jp

宗教2世ホットライン
「今」助けを必要としている2世たちへ。悩んでいる2世を応援したい2世がボランティアで記事を投稿したり、当事者が気持ちや経験を伝える情報共有サイト。

連載は続きます。



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