「いのちのとりで訴訟」原告に謝罪せず 厚労省が生活保護基準引き下げをめぐる最高裁判決への対応を説明

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最高裁判決から7カ月、ようやく出てきた厚生労働省の局長、課長は原告らが求める謝罪をしなかった

生活扶助基準額の引き下げをめぐり1,000人を超える生活保護利用者が国を訴えた「いのちのとりで訴訟」。2025年6月、最高裁は引き下げを違法とする判決を下しました。それから7カ月が経過した1月22日、厚生労働省は新たな引き下げ基準を設定して差額を支給するという方針について、初めて課長級以上が出席し、原告や弁護団に説明しました。原告らは引き下げ前基準との差額の満額補償と厚労大臣による謝罪を求めていますが、この日も叶いませんでした。

社会援護局長と保護課長が初めて出席

22日の説明と意見交換の場は厚労省が設定しました。これまで原告との交渉には意思決定ができる課長級以上の出席はありませんでしたが、この日は初めて鹿沼均・社会援護局長と竹内尚也・保護課長が姿を見せました。

記者への公開は冒頭の撮影のみで、終了後、原告と弁護団が記者会見を開き、意見交換の内容を報告しました。

大阪訴訟の原告団の小久保哲郎弁護士によると、冒頭、鹿沼局長からあいさつがあり、その中で、「最高裁判決で(生活扶助基準引き下げ)判断の過程に過誤・欠落があり、違法との判断を受けたことに加え、追加給付が必要となったことについて、深く反省し、全国の被保護者のみなさま、国民のみなさまに深くお詫び申し上げます」とお詫びがありました。

その後、竹内課長から対応方針についての説明がありました。

厚労省の方針は次の通りです。

  • 最高裁判決で違法とされなかった「ゆがみ調整(2分の1処理)」を再実施。
  • 最高裁で違法とされた「デフレ調整」(-4.78%)に代わり、低所得者(下位10%)の消費実態との比較による新たな「高さ調整」を-2.49%とし、実施。
  • 原告については特別給付金として減額分を追加給付する。(10年以上にわたる訴訟の継続に留意し、当時の法定利率(年5%)に基づく金利相当分を上乗せする)
厚労省が原告らに示した資料。新たな基準を設けて小幅な減額にし差額を支給するとした

追加給付は3月以降にずれ込む

追加給付のスケジュールについては当初1月に予定されていた告示を「2月中には出す」という回答で、給付は3月以降にずれ込む見込みです。

原告らが「大臣による直接の謝罪はないのか」と質したところ、厚労省側は「大臣は国会の場でお詫びしている」と回答。原告らは重ねて「追加給付が必要となったということは原告らが最低限度を下回る生活を10年以上も強いられたということだ。そのことについての謝罪はないのか」と尋ねましたが、返答はありませんでした。

竹内課長は説明の中で「最高裁判決では引き下げ自体は違法とされていないし、国家賠償請求は認められていないので適切な対応だ」と強弁したそうです。

経緯の検証なし、再発防止策なし

尾藤廣喜弁護士は「行政措置が最高裁で取り消されるという前代未聞の事態を招いたことについて経緯の検証がなされていない」と指摘しました。鹿沼局長は「地方から支給について問い合わせが殺到しているので検証の暇がない」と回答。再発防止策についても言及がありませんでした。

説明会の様子を記者会見で話す小久保哲郎弁護士(右)と尾藤廣喜弁護士=東京都内

厚労省の対応策は司法判断をないがしろにしているとして、法学者や弁護士から抗議が相次いでいます。

昨年12月8日には法学者123人が緊急声明を発出。

今年1月15日には、元日弁連会長11人を含む弁護士1254人が共同声明を出しました。

尾藤弁護士は「引き下げは違法という判決が出た後に、基準を再設定して引き下げをやり直すというのは、紛争の一回的解決と根本的に反している。基本的にこの解決方法については納得しない」と話しました。

原告にのみ特別給付金を「贈与」?

また原告だけに上乗せする「特別給付金」は厚労省のマニュアルでは生活保護費とは別の「贈与」に位置づけられているとし、「我々の要求は保護費として支給することだ。原告と原告以外の給付が違うというのは、無差別平等の原理に反している」と改めて主張しました。

原告らは厚労省に対し、新たな保護基準額が告示された後に、集団で行政不服審査請求を行い、訴訟も検討していると宣言しました。

冬季加算も減額 「家が潰れるか凍死するか」

物価高の影響を受け、追加給付が届かない中で、生活保護利用者は依然として厳しい生活を強いられています。

神奈川訴訟の原告・髙橋史帆さんは「国会答弁で済んでいるといって、厚労大臣が私たち生活保護利用者にお詫びをしてくれないことに憤りを感じています」と話しました。

原告、弁護団らは厚労省から対面で最高裁判決への対応策を聞いた=東京都内

厳冬の中、暖房の費用が捻出できず、重ね着をしてしのいでいます。

「家の中でフリースを二枚重ねしてマフラーとニット帽をかぶっている。そういう状態で寝汗をかいても、暖を取りたくても、週2回の入浴ができない。夏は夏でエアコンもかけられない。下着一枚で過ごす。そういうライフサイクルを何年も繰り返している。私たちの生の声を聞けといいたい」

名古屋訴訟の原告、澤村彰さんは「厚労省は専門家委員会の法学者の意見をねじまげました。僕たちの要望も、一個も聞いていません。ゆがみ調整は適法と言っていますが、その計算式を未だに出していません。隠蔽しています。それが厚労省のやり方です」と怒りを露わにしました。

冬場の生活の状況については、次のように話しました。

「この12年間、生活保護の冬季加算は減っています。雪国の人は雪下ろしを依頼することができず、いつ自宅が倒壊するかわからない危険がある。家が潰れるか凍死するか。暖房を使いたいけど電気代が高い。私の生活保護費は、引き下げ改定前は月8万3000円、いま7万1000円です。この物価高で電気代もガス代も上がっています。そんな状況を放っておいて、原告にだけ特別支給をするという。意味がわかりません」

「人間として向き合っていないことが明らかになった」

いのちのとりで裁判全国アクション共同代表の稲葉剛さんは「厚労省は生活保護利用者に被害、苦痛を与えたという認識を持っていないことが今日明らかになった。当事者は裁判でずっと生活実態を訴えてきた。専門家会議でも最低限度以下の生活を強いられたと被害を訴えた。しかし、そもそも厚労省は聞く耳を持っていなかった。非常に愕然とした。人間として向き合っていないということが明らかになったんだろう」と話しました。

稲葉剛さん=東京都内

全国アクションでは行政不服審査請求の共通書式をホームページからダウンロードできるように準備し、すべての生活保護利用者に請求を呼びかける方針です。

また総選挙に際し、厚労省の対応をどう考えるか、各政党に公開質問状を出す予定です。