外国人との共生、人権擁護などに取り組む11団体が1月26日、「衆議院選挙にあたり排外主義の煽動に反対する緊急共同声明」を発出しました。政府や報道機関に対し、選挙期間中にヘイトスピーチや差別煽動が行われないよう、明確な批判を求めています。
共同声明が具体的に求めたのは以下の3点です。
1)各政党・候補者は、外国人に対する偏見を煽るキャンペーンを行わず、差別を批判すること
2)政府・自治体は、選挙運動におけるヘイトスピーチが許されないことを徹底して広報すること
3)報道機関は、選挙運動についてファクトチェックを徹底するのみならず、デマやヘイトスピーチもあたかも一つの意見のように並列的に扱わず、明確に批判すること
参院選後に加速した排外主義、外国人差別
5団体が記者会見に出席し、意見を述べました。昨年7月の参議院議員選挙時にも8団体が共同声明を発出しましたが、各地の選挙演説で「日本は外国人に支配されている」「外国人のせいで治安が悪化している」などの差別的なデマが流布され、外国人を排斥するヘイトスピーチが多数行われました。差別街宣に抗議するひとたちに候補者や支援者から「お前日本人じゃないだろう」「10円50銭と言ってみろ」など、関東大震災時の朝鮮人虐殺を彷彿とさせる言葉が投げかけられました。
外国人人権法連絡会の師岡康子弁護士はこうした状況を振り返り、「外国籍の人たちは大変な恐怖を感じている。選挙権がないので反対する声も上げられない。非常に理不尽な状態だ。日本はいまヘイトスピーチからヘイトクライムへ、ジェノサイドや戦争へと突き進む分かれ道にある」と話しました。
昨年10月に発足した高市政権は、「外国人客が奈良の鹿を蹴り上げている」など根拠のないデマで外国人差別を煽り、外国人規制策を急速に進めています。
声明は、外国人からの訴えとして「住居や駐車場を貸してくれなくなった」「クレジット契約更新を断られた」「クラスメートから『日本人ファースト』と言われた」など日常的な差別が悪化している、と記しています。
師岡さんはクルド人に対するヘイト街宣をめぐる民事訴訟の原告代理人を務めています。
「子どもたちが盗撮されたり、日本人男性から暴力を振るわれたとクルドの人たちから直接何件も聞いた。近所の男性から暴行を受けた子どもは恐怖で家から外に出ることもできなくなってしまった」(師岡さん)

国、自治体はヘイトスピーチを止める具体策を
日本には人種差別禁止法はまだありませんが、師岡さんは国や自治体、市民からの働きかけでヘイトスピーチは止められると話しました。
「国は通知を一枚出すだけではなく、選挙管理委員会にヘイトスピーチが行われないよう対応を徹底し、ヘイトスピーチを批判するべきだ。川崎市や千葉県ではヘイトスピーチをしないよう、候補者への徹底を選管に求めている。市民からもこのような働きかけを行うことが重要です」
受入れへの対応なく、規制強化ばかり
政府は1月23日、関係閣僚会議で「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」をとりまとめました。
選挙告示直前にこのような対応策が出されたことについて、特定非営利活動法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)の鳥井一平さんは「またかという思いを禁じ得ない」と話しました。

「出入国管理庁が昨年5月に発表した違法外国人ゼロプラン、7月に石破内閣が発表した外国人との秩序ある共生のためのプランに続き、全く前提事実を言わずにただ外国人が増えると大変だと不安を煽るものになっている。官製ヘイトであり、政府が差別排外主義を煽動している」
タイトルには「受入れ」と「秩序ある共生」が並立されていますが、「受入れ」に呼応する政策はなく、規制強化だけが書かれています。
鳥井さんは「日本では受入れと共生を別個にしている。労働力は受入れるが人間は別ですという話だ。非正規滞在者はそもそも労働力が足りないから受入れられ、労働力の調整弁として使ってきた。労働者の受入れを適正化してこなかったことにそもそもの問題がある」としました。
外国人による不適切な社会保障利用に根拠なし
一般社団法人つくろい東京ファンドの大澤優真さんは対応策の中の社会保障について検証しました。
対応策の中には「行政措置の対象となるものの見直しも含め外国人による制度の適正な利用に向けた必要な措置を検討する」とあります。しかし、不適正な利用があったという根拠が書かれていません。

大澤さんは3点について検証しました。
- 難民申請中の人に別の支援金と重ねて支給している理由があれば見直す方向。
難民事業本部(RHQ)の保護費との二重受給を指すと思われるが、RHQの保護費の受給要件は厳格で、受給者は難民認定申請者のわずか5%。二重受給は制度上極めて困難。ほぼゼロだと思う。
2.永住者の生活保護停止もあり得るとする。
そもそも外国人は生活保護を受けやすいというのはデマで、在留外国人の約6割は生活保護を利用できない。現状、保護を受けている方は高齢の方が多く、停止は亡くなる方、病気が重篤化する方の急増に帰結する。人の命にかかわることだと認識しているのかと強く感じている。
3.国民健康保険については日本での医療目的により来日し、高額な治療を受けているようなものを適正化するとある。
厚労省の2017年の調査では不適切事案はほぼ確認されなかった。国民健康保険の納付率が日本人は93%に対し、外国人は63%という調査結果の数字がひとり歩きしているが、職場を通じて加入する被用者保険も含め公的な医療保険料全般を支払っていないと考えることは適当ではない。国保に加入する外国人の多くは留学生で、学生の納付率は日本人でも低い。
大澤さんは「対応策は、特に社会保障について明らかにミスリードなところがたくさんある。不安や憎悪を煽っている。不安や憎悪を煽られない、煽らせないということを報道機関や報道を見ている方々にお願いしたい」と訴えました。
国連・人種差別撤廃委員会がつきつけた課題
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ教)の佐藤信行さんは国際人権の観点から発言しました。

「政府および国会に対して、人種差別撤廃法を一日も早く制定すること、各自治体に対して反差別人権条例の制定を求めていきます。排外主義の嵐に毅然として闘う海外の諸教会と連帯し、国際人権活動を進めていきたい」
昨年12月2日、国連の人種差別撤廃委員会は日本政府に課題リストを送付しました。
「課題リストは、難民申請者の強制送還、永住資格取消制度、奴隷労働制度と指弾されている技能実習制度の問題点が解消されないままの新たな育成就労制度、氾濫するヘイトスピーチ、ヘイトクライムを禁止する法制度の未整備など、歴史的かつ現代的な課題を日本政府に突きつけています。それらは私たち日本社会にも問われているんです。差別され、排除され、人間としての生活が保障されない社会に私たちは声を上げるべきです」
選挙目的で、移住や庇護に関する問題を道具化しない
移住連の山岸素子さんは国連・人種差別撤廃委員会の外国人排斥根絶のためのガイドラインを紹介しました。
- 選挙目的で、移住や庇護に関する問題を道具化しえないことを候補者や政党が誓約すること
- 移民を、問題の原因や危険なものとして(例えば、『違法』外国人という表現)、あるいは非人間化した形で描写しないこと
- 政治家による外国人排斥や人種差別的な表現は、徹底的に捜査され、適切に制裁されるようにすること

署名やファクトチェック活動を呼びかけ
最後に「フォーラム平和・人権・環境」共同代表の染裕之さんが今後の行動計画を発表しました。
- 署名活動:2月11日を起点とし、5月末を集約とし、6月18日に政府・国会に要請書とともに提出したい
- ファクトチェック活動:偽情報・誤情報に反証していきたい。フライヤーなど事実を示して反証していくためのツールを作成する。
- 共同行動:全国各地の平和運動センターとともに、多くの市民団体に呼びかけ、労組とともに実行委員会を作る。学習会や署名活動もサポートする。
- 「6・18ヘイトスピーチと闘う国際デー」の実施:署名を政府、国会に提出。国際人権機関、海外のNGOと共有を図る。6月21日午後に全国キャンペーンのゴールとして東京行動を予定している。

ヘイトクライム、ジェノサイド、戦争につながる
質疑応答で選挙時に差別煽動やヘイトスピーチが激化する背景をどのように考えるかを問われ、移住連の鳥井さんは「政治家、閣僚の中に事実を見たくない人がいる。とりわけそうした人が政権のメインストリームにいることで、候補者がその意向に忖度してしまっているのではないか。野党の中にも事実に基づかない決めつけがある。いま一度クールになって社会がどう動いているのか考えてほしい。地産地消というとき、いったい誰が地域の生産を担っているのかについて、目を向けてもらいたい」と話しました。
佐藤さんは今般まとめられた「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」には前例があるとして危機感を強めています。
「2024年に入管難民法改定案の永住資格の取消条項が審議された時にも、永住者90万人のうち、税金や保険料などの公租公課の未払いが何人いたのか示されなかった。立法事実を示しなさいと何回も国会で質問されたが、結局政府が出したのは、3つの自治体で公租公課の未納があったという事例だけ。アメリカとドイツの永住資格取消の例が挙がったが、いずれにも公租未払いで取り消すという条文はない。法務省自ら根拠のない形で改定案を強引に可決してしまった。国連人種差別撤廃委員会は、これを明らかな条約違反として、とりやめるか見直すかを求めてきている」
師岡さんは「円が安くなって、外国人観光客が、自分たちが行けないような店に行く。日本経済が弱いことが原因なのに、そこに批判が向かないように、あたかもそれは外国人のせいだというキャンペーンを張っているのではないか」とみています。
「2000年代に在日特権を許さない市民の会(在特会)が出てきて、公の場で外国人に『死ね、殺せ』と言い始めた。しかし、政府はまだそうした動きに批判的で、安倍内閣の下でヘイトスピーチ解消法が成立した。現在は政府や多くの政党が競って外国人優遇のデマを振りまいている。外国人に対する憎悪を煽ることはジェノサイドや戦争につながりかねない。今声を上げないと危険だと思っています」

