双葉社から出版されている『ルポ路上メシ』が、野宿者への深刻な人権侵害を引き起こしているとして、野宿者、支援者らが5月13日、双葉社に抗議を申し入れました。抗議声明をとりまとめた「ねる会議」の京極紀子さんから寄稿をいただきました。この問題について随時掲載します。
47団体、804人が賛同
2025年11月に双葉社から出版された國友公司著『ルポ 路上メシ』を読んで愕然とした。元々は同社発行『週刊大衆』(2024年5月25日号〜2025年9月22・29日号)に連載されたものだという。読んでみると、取材であることを隠して各地の炊き出しなどを訪れ、野宿者、生活困窮者から聞き出したプライベート情報などを暴露するなどとてもひどい内容だった。
私たち「ねる会議」は野宿者の生活と人権を闘いとるために、渋谷、新宿周辺で活動しているグループだが、会のメンバーがたまたまこの本を手に取り気付いた。私たちの知っている野宿者や炊き出しの支援団体などが出てくるのだが、みんな知っているのだろうか?
私たちはこの本が、野宿者、生活困窮者への人権侵害であると考え、双葉社、國友氏に対して抗議声明を出すことを決め、本に書かれている団体などにも声をかけて賛同を募り、5月1日に公開した。同時にさらに広く賛同を呼びかけたとこと、締め切りまでのわずか10日間に47団体、804人という大きな数が集まった。みんな怒っている。5月13日、私たちは賛同者の怒りとともに双葉社へ抗議の申し入れを行った。双葉社からは現時点での認識として「重く真摯に受け止める」との発言があり、後日、出される予定の見解と対応を待っているところだ。
双葉社の側からは、担当編集者、編集局次長、総務局編集総務部長の3人が対応した。まず、抗議声明と賛同者のうち掲載可能な方の名前を合わせて手渡し、國友氏にも文書を渡すよう求めた。その上で、抗議文にそって4点の問題点を一つずつ読み上げ、参加者の声をぶつけた。以下出版社に対して列挙した問題点とその中身、私たちの主張を報告する。
■ 問題点1ー対象者の同意なき取材と公開
著者はこれまで、『ルポ西成』『ルポ路上生活』『ルポ路上メシ』等数冊の本を出版していて、『ルポ西成』『ルポ路上生活』は文庫本にもなっている。前著『ルポ路上生活』文庫本の帯には「総計15万部」とある。ルポルタージュとしては異例の部数で驚いている。ここに挙げた3冊は野宿者や生活困窮者をテーマにしたものだ。『ルポ 路上メシ』は、前2作同様、取材という目的を隠し、立場を偽って野宿者、生活困窮者に近づき、情報を集めている。実際に國友氏に接触され、同書でプライベート情報を暴露された人は、國友氏が「生活保護を受けている」と嘘を言って自分たちに近づいてきたことを覚えている。
年齢の若い國友氏を「新たな仲間」と受け入れ、いろいろな情報を伝える人の親切心を利用して話を聞き出す。炊き出しの場で情報交換し助け合うことは、野宿者や生活困窮者が不安定な状況の中で生活していくために必須の行為だが、國友氏のやり方はそのネットワークを壊すものだ。また、同書には、それぞれの人の野宿に至る経緯、生活保護利用の状況、病気のこと、職歴など多岐にわたるプライベートな事柄が書かれている。寝場所や風貌、年齢などから人物が特定できる描写もある。事実誤認もあるのに、書かれた内容を本人に確認もせずに出版するのは重大な人権侵害だ。
■ 問題点2ー野宿者の寝場所を危険に晒す記述
1でも触れたが、本の中で、野宿者の寝場所について詳細に書いている。野宿者の中には、人目につかないように工夫して自分たちの寝床を作っている人たちも多い。野宿者に対する「暴力」や「襲撃」は日常茶飯事だ。本の記述は野宿者の生活と命を脅かし、危険に晒すものなのだ。
■ 問題点3: 支援すること/支援を受けることをおびやかす行為
國友氏は、知り合った人から話を聞き出すだけでなく、支援団体による野宿者の訪問活動を尾行し、それによって特定した寝場所を具体的に書いている。寝場所を公開することの危険性は前述した通りだ。
居場所、寝場所を訪問する活動は、個人の生活領域に入りこむことになるため、慎重に行う必要がある。國友氏の行動、および同書の記述は、支援活動に求められる信頼性、安全性を損ない、また、支援を受けることそのものを危険にさらす。
本の中では炊き出しの日時や場所などの詳細も書かれているが、少なくとも私たちが確認した複数の活動では、主催者の同意を得ていない。場所の公開は、野宿者、生活困窮者の食事の場所を好奇の目にさらし、安心できない場にするものでもある。炊き出しでは、主催団体それぞれが、周辺住民との関係や、自分たちのキャパシティなどに合わせて、バランスを取りながら活動の場を作っている。支援する側、支援を受ける側双方にとって、十分な配慮が必要な情報であり、むやみに公表すべき事柄ではない。
■ 問題点4: 野宿者、生活困窮者に対する侮辱
最後に、最も重大なことかもしれないが、この本は、全体が野宿者、生活困窮者を奇異な観察対象として取り上げて、揶揄、冷笑する視点から書かれている。
たとえば、「長年の習慣で体の調整機能すら進化してしまっているのかもしれない。もはや爬虫類である」(p. 22)
(「人に何かをしてもらったらお返しをしないと気が済まない」という人について)「捕まえたネズミでも渡されたりしても困る」(p. 98)
「聞いているだけで頭が悪くなりそう」(p. 333)などなど。
ほんの一部でしかないが、読んでいてつらくなる。國友氏と直接話をして、本の中に書かれた人たちは、書かれた内容、記述にショックを受けている。当然だ。しかも、多くは異議申し立てをすることが困難な人たちなのだ。そういう人を揶揄の対象にすることは卑劣であるし、それを娯楽的な読み物として商業出版し、利益を得ることは搾取的である。
侮蔑的な視線と描写に満ちた本は、書かれている人たちを深く傷つけるが、傷つくのは書かれた当事者だけではない。野宿者、生活困窮者全体に対する差別を助長するもので、出版することでその差別をさらに拡大する。著者である國友公司氏だけでなく、出版社の責任もとても大きい。

それは「潜入取材」なのか?
國友氏は自分の情報収集を「潜入取材」と位置づけているようで、同書の中でもそう書いている。まるで、自分のやっている卑劣な取材を正当化するかのような書きぶりである。本来の「潜入取材」は、権力の内部に入り込んで社会の不正義を暴くものだろう。
野宿者や生活困窮者に寄り添い、社会の不平等さを明らかにすると言うのなら、自分を隠して「潜入」することではなく、立場を明らかにして、取材の趣旨を述べて書く態度が必要だろう。公開にあたっても本人の同意を受けた上で、原稿を確認してもらう。その最低限のことすら行われていない。公正さなど微塵もない単なる暴露本である。
取材対象の人たちに対して、原稿を事前に読んでもらうとか、出来上がった本を渡すとか、やるべきことを一切やっていない國友氏だが、前著『ルポ路上生活』文庫版の後書きで、前著が単行本として発行された後に、取材した一人の野宿者を訪ねたことが書かれている。「余談であるが」から始まる文章の中で、取材当事者のその人から「二度と来ないでくれ」と言われたことを明らかにしている。『ルポ路上生活』で当該の野宿者について書いていることを、支援団体のメンバーが本人に「密告した」として「本当に余計なことしかしない」とも書いている。その人が書かれたことを不快に思っていたことを認識しているのだ。にもかかわらず、國友氏は『ルポ路上メシ』でも当人を(回想する形で)数度にわたって書いている。本人が嫌だ、もう来るなと言う人のことを何度も書く。確信犯だし、とてもひどい行為である。
私たちの指摘に対して、編集担当者は「単行本は読んでいたが。文庫本の後書きは確認していなかった」と話した。文庫版の出版は2023年、本著の週刊誌連載前である。見落としたのは、編集部の落ち度であると思う。そして著者の取材方法を了解して記事を連載、本を出版したのも双葉社である。

出版して世に出すことで、差別を拡大
私たちは、申し入れの場で、炊き出しに参加する野宿者などから寄せられた抗議の声も読み上げて伝えた。一人一人の言葉をきちんと届けたかったし、本を出した人にも真摯に受けとめてもらいたい。書いただけではなく、出版して世に出すことで、差別を拡大した。重大な人権侵害の当事者であることを自覚してもらいたい。その上で、ねる会議の意見として、同書の販売をこのまま続けてほしくないと要望した。
昨年、新潮社の発行する「週刊新潮」に掲載されたコラムの民族差別的な内容をめぐって、名指しされ差別を受けた作家の深沢潮さんが、出版社に抗議したことが大きなニュースになった。新潮社は謝罪し、週刊新潮の当該コラム欄を打ち切ったが、表面的な謝罪に深沢さんは納得せずに、新潮社との出版契約を打ち切り、自分の本の版権を引き上げた。また作家の柚木麻子さんも新潮社から一部の著作の出版権を引き上げるなど抗議の態度を明らかにしている。
公共性を持つ出版社が、自社の出版物に対して、責任を持つことは当たり前のことだ。『ルポ路上メシ』においても、出版した双葉社の責任は大きい。その対応を、私たちや書かれた人だけでなく、野宿者、生活困窮者、支援団体、賛同を寄せてくれた人たち、そして多くの人が注目している。その場しのぎの謝罪はいらない。責任ある出版社として、双葉社は私たちの抗議に対し、誠意を持って受け止めてほしいと思う。
ねる会議は、双葉社からの回答を待ち、今後も話し合いを持つ予定だ。ねる会議のブログでも報告していく。引き続き注目、応援をお願いしたい。
ねる会議ブログ http://minnanokouenn.blogspot.com/?m=1
きょうごく・のりこ 1956年生まれ。地域労働運動、反戦・反基地の活動などに取り組みつつ、現在は「はむねっと(公務非正規女性全国ネットワーク)」や「ねる会議」の活動にも参加。

