特別養護老人ホームで死亡事故も 介護現場に蔓延するスキマバイトの実情 国は人手不足の根本対策を

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介護現場に広がるスキマバイト。大阪の特別養護老人ホームでは死亡事故が起きていた

介護現場に広く導入されているスキマバイト(スポットワーク)をめぐり、大阪の特別養護老人ホームで昨年死亡事故が起きていたことがわかりました。介護福祉士でライターの白崎朝子さんによる追及第2弾です。

スポットワーカーによる入浴介助で死亡事故

 2025年6月2日、大阪市東成区の特別養護老人ホーム「アルカンシエル東成」(ユニット型・定員90名)で、スポットワーカー(スキマバイト)の介護福祉士A氏(男性・当時38歳)が、入居者Bさん(男性・70代)を約50℃以上の風呂に入れ、全身の77%に熱傷を負わせた。Bさんは熱傷による敗血症で23日後に死亡。大阪府警はA氏を傷害致死の疑いで昨年9月に逮捕した。その後大阪区検察業は「業務上過失致死」に罪名を変更し、10月21日に起訴。同日、大阪簡易裁判所が罰金50万円の略式命令を出した。

 死亡したBさんはほぼ全介助の要介護4の半身麻痺で、専用の椅子にベルトで身体を固定し、リフトを使っての入浴だった。A氏は2回目の勤務にも関わらず1人で入浴介助を任されていた。A氏は「Bさんが入浴している間、脱衣所で服の片付けなどをしていたため、異変に気づくのが遅れた」と供述していたという。また、「ケガをさせてやろうといった気持ちはありませんでした」と容疑を否認していたという。浴槽は手動で蛇口をひねり給水する仕組みで、一定の温度を超えないようストッパーが備えられていたが、「湯温の操作を適当にしてしまい、最初から高温の湯を張ってしまった。湯温はすぐに手を引っ込めてしまうほど熱かった。Bさんを別室に搬送した後、熱湯から適温に(ハンドルを)回した。湯温が熱湯だとバレるとまずいと考えた」と供述したという。

ある程度、経験を積んだ介護職員なら、入浴は一番危険な身体介助だと認識している。私の経験では、お湯の温度は必ず自分の手を湯船に入れて確認。利用者が湯船に浸かったあとも、お湯の温度が熱くないか必ず利用者に確かめていた。利用者がのぼせてしまう場合もある。湯船に浸かるのは3分ほどなので、必ず湯船の側で見守った。

今回の事件では、まだ2回目のスポットワーカーに補助業務ではなく、ひとりで入浴介助を任せた施設側の判断や責任を問題にすべきだと思う。利用者の安全を配慮していたならあり得ない対応だからだ。

法人に「業務改善指導」 勧告、命令などの処分はなし

アルカンシエル東成の運営法人は、呉診療所グループの社会福祉法人弘仁会(大阪市生野区)。介護施設で死亡事故が起きた場合、施設(法人)側が受ける可能性のある主な「処罰・処分」は、刑事事件としては法人や管理職への処罰がある。警察は施設の安全管理体制や人員配置、教育体制に過失がなかったか(業務上過失致死の共犯や両罰規定的な捜査)を調べているはずだが、施設幹部や法人が刑事起訴されたという情報は見つけられなかった。

弘仁会のホームページでは謝罪文(2025年10月3日)と「(2025)年末に大阪市福祉局より監査結果として業務改善指導を受け、早急に改善報告を完了いたしました」(2026年1月15日)と記されていた。その後もスポットワーカーを雇用しているかどうかはわからなかった。アルカンシエル東成の施設長に電話で問い合わせたが取り次いでもらえず、法人の広報担当者にも電話で問い合わせたが、「利用者のご家族のこともありますので、問い合わせなどは一切お断りしております」との回答だった。

呉診療所グループホームページより

管轄自治体である大阪市福祉局高齢者施策部介護保険課の課長によれば、監査を行ったが、法的な強制力はない「業務改善指導」にとどめたという。その理由として介護保険法の「人格尊重義務違反(※)」には当たらないとのことで、「勧告」「命令」「指定の一部効力停止(新規受け入れ停止)」「指定取り消し」などの処分は下さなかったとの回答だった。

※ 介護サービスの事業所や施設が利用者の人権と尊厳を保障し、個人の意思を尊重しサービスを提供する法的義務。虐待、不適切な身体拘束、プライバシーの侵害、投薬の管理違反などの違反があった場合は、行政処分の対象となる。

重度訪問介護の非常勤ヘルパー歴30年以上で労働運動家でもある久保田順哉さんは、「重度訪問介護ではスポットワークは使っていないと思いますが、命をあずかる施設として、スポットワーカーのみで入浴させた施設側の問題こそより悪質で、業務停止命令を出されてもおかしくない。だが改善指導だけにとどまっている。人材の定着を目指す方向で、介助者の待遇をよくするのではなく、人手不足であることを理由に、スポットワーカーという単発バイトを使うのは、非常に危険であり、虐待や今回のような介護事故が今後、増えると考えます」とコメント。

また久保田さんは、「利用者保護の観点から、業務停止命令は発出が難しいかもしれないが、利用者にとってもワーカーにとってもスポットワークはふさわしくない。労働基準法も守れずに、安全配慮義務にも違反している。利便性という名のもと、構造的な問題がより弱い立場の人達を追いつめています」と憤る。

5月30日に東京・上野であった「ケアデモ」。ケアを支える人、受ける人が共に行進した

「カイテク」と地方自治体の連携協定 

介護・看護・保育など対人支援専門のスポットワーク「カイテク」は、「深刻化する介護人材不足に対応するため」と銘打ち、全国の地方自治体や福祉関連団体と相次いで連携協定を締結。事業所の負担軽減と地域包括ケアシステムの維持を図っているという。提携先は以下の通りだ。

・ 大阪府(2024年締結):介護人材の育成・確保に向けた連携協定。

神奈川県(2026年締結):県内における介護人材等の確保に関する取組を推進。

北海道旭川市(2026年締結):介護人材の確保に関する連携協定。

愛知県小牧市(2026年締結):介護人材の確保に向けた取り組みを強化。

愛知県豊田市(2025年締結):福祉専門人材確保に向けた連携事業を開始。

公益社団法人日本介護福祉士会(2026年締結):介護福祉士など専門人材の確保・育成。 

本来なら国に対して人材不足の解消のための施策を要請すべき自治体、日本介護福祉士会が一民間企業と連携したことに、私は大きな違和感をもっている。特にスポットワーカーによる死亡事故の起きた大阪府はいち早く「カイテク」と連携しているが、今回の死亡事故をどう考えているのだろう。

日本介護福祉士会と「カイテク」の協定について、介護福祉士の黒川百合子さんは、「人材不足への対応として潜在有資格者の就労機会を広げる取り組みやテクノロジー活用は必要だと思います。一方で、介護福祉士の専門性向上や人材育成は本来、日本介護福祉士会が中心となり担うべき重要な役割です。介護は単なる人材確保やマッチングでは成り立たず、人と人との関係性や尊厳を支える専門職です。今回の協定には職能団体としての使命との整合性に疑問を感じます。日本介護福祉士会には、まず会員や現場の声に耳を傾け、職能団体としての役割を改めて問い直して欲しいと思います」と批判。

元衆議院議員で社会福祉士・介護福祉士でもある尾辻かな子さんは、「人手不足の根本原因は低賃金であり、責任は公定価格を決める政府が抜本的な対策を講じてこなかった点にあります。そのしわ寄せが現場や地方自治体に降りかかっています。そもそも介護の仕事はスポットワークに向きません。利用者の名前や個別の介護手法、信頼関係は一日で把握できるものではなく、何より現場の安全性に重大な問題が生じます。命を預かる領域において、その場しのぎの対応は通用しません。今こそ政府が根本的な処遇改善に取り組むべきです」とコメントを寄せた。

ケアデモで掲げられたボード。「ケアの人手不足は国の責任!」とある

放課後等デイサービスにもスポットワーカー

障害や発達に特性のある小学生から高校生の就学児童が、放課後や学校の長期休暇に通所できる福祉サービスにも、スポットワークが導入されている。スポットワークを導入した放課後等デイサービスで働いていたMさんにその実態を聞いた。
Mさんのいた職場は働く人自身が出資者であり経営者でもある「ワーカーズコレクティブ」の考え方を基盤に運営されてきたNPO法人。法人では2025年3月頃から派遣労働者や業務委託、スポットワーカーの活用が始まった。その後、運営の在り方に疑問を抱いた職員らが昨年8月に労働組合を結成した。

他の保育園で「スポットワーカーから正式採用につながった」という話を聞いたのがきっかけで、法人から事業所の運営会議にスポットワーク導入の提案があり、現場は多少の抵抗がありつつも承認。学校の長期休み中の職員の休憩時間確保のため、スポットワークに募集をかけた。だが募集のタイミングやスポットワーカーの情報は、直前までほとんどの現場職員に知らされなかった。

個別性の高い支援には対応できない

長期休暇には、スポットワーカーが1日に2人入ることもあった。リピーターは2回ほどで、大体は初めての人だった。 「資格を持っていることを条件にしていたので、(施設勤務などの)本業を持っているが多かったです。また障害福祉の現場を知りたいという動機から申し込む人が多く、その後の採用につながった例はありませんでした」とMさんは言う。

初めて入る人に個々の障害特性や必要な配慮を充分に把握してもらう時間はなく、個別性の高い支援を必要とする利用者を担当してもらうことは難しかった。「利用者の多くは職員の顔ぶれを覚えているため、『知らない人だ』と違和感を持った利用者はいたと思います。慣れない職員が頻繫に出入りすることで、利用者が不安定な状態になった可能性があったと思います」とMさんは振り返る。

法人は保護者にスポットワークの導入を知らせていない。保護者は送迎で出会う職員しか知らず、派遣労働者やスポットワーカーが入る現実を知らないようだ。会議ではスポットワーカーのことを派遣元の社名で呼ばないようにするとか、スポットワーカーが来所したとき、社名を名乗らないようにした方がよいということまで話したという。
 

スポットワークという働き方は、“ともに生きる”ことを可能にするのか?

インクルーシブ(「誰一人取り残さず、ともに生きる」)の理念で運営されるべき障害児の居場所。そこは利用者と職員の時間をかけて紡いだ信頼関係が一番大切だ(認知症高齢者も同様である)。

しかし、認知症対応型グループホームの一人夜勤をスポットワーカーに頼らざるを得ない事例もある。人手不足は構造的な問題であり、法人運営のあり方すべてが悪いとは言えない。スポットワークのリピーターから正規職員につながっている例もあるという。だが運営自体に問題がある法人もある。

スポットワークの導入を禁じている社会福祉法人の障害者支援施設で管理者を務めるTさん

都内の社会福祉法人が運営する障害者支援施設の管理者Tさんは、「いくら求人を出しても慢性的な人手不足ではあるが、当法人では理事会がスポットワークの導入を禁じている。スポットワークはありえない」と話す。同法人の理事は雇用期間の定められた契約社員ですら雇用しない方向性を模索している。

介護、保育だけでなく、医師、看護師、薬剤師のスポットワーカーもいる。“いのち”に関わる領域がなぜこれほどまでに人手不足なのか、その構造的な問題と真摯に対峙しなければならない。(白崎朝子)

第1弾の記事はこちらです。合わせてお読みください。

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