刑法が改正され、同意のない性行為は犯罪とされて3年。性的同意はどんなシチュエーションでも常に必要だと理解されているかどうかを問うアンケートを、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ(HRN)」が、日本の40歳未満を対象に調査しました。「常に必要」という回答は8割以上にのぼりましたが、具体的な場面では回答にバラつきが見られました。
ホテルに入室、長期間交際で「不要」が3割強
2026年6月17日、全国の18〜39歳を対象にウエブ上でアンケートを実施し、3000人の回答を集計しました。
「性的な行為をする際に相手の同意は常に必要だと思いますか?」には2435人(81.2%)が「はい」と回答。
具体的な場面で聞くと「先輩と後輩、上司と部下など、上下関係がある場合」「二人でデートをし、食事を共にした場合」などは74%を超えましたが、「ホテルに誘って、相手がホテルに入室した場合」(64.5%)、「相手が明確に拒否していない場合」(65.6%)、「長期間交際/結婚している場合」(65.9%)などで「はい」の割合に低下が見られました。
同意の判断基準(複数回答可)は、「したい、いいよなど言葉で明確に同意を表している」が68.2%でしたが、「言葉はなくても、態度や雰囲気から同意していると感じる」(24.1%)、「恋人・配偶者、性的パートナー党の関係性があれば同意していると考える」(19.4%)と雰囲気や関係性を根拠とする層がそれぞれ2割前後いることが分かりました。
不同意の判断基準(同)は「いやだ、やめてなど、言葉で明確に拒否している」(68.8%)「言葉がなくても抵抗する行動がある」(50.2%)、「不快そう、消極的な様子がある」(46.7%)「明確に拒否・抵抗されない限り、同意していないとは判断しない」(17.8%)。
「ノー」を言えない事態、42%が想定できない
「相手がノーと言いたくてもノーと言えない場合で性行為に応じる事態を想定できるか」との問いには42.0%が「想定できない、嫌ならはっきりいうべき」と回答しました。
また、2023年に刑法の性犯罪規定が改正されたことを「知らない」は過半数の55.2%、「同意のない性交は法的処罰の対象」と「知らなかった」は39.1%にのぼりました。

相手が安心して意思を表明できるか考慮を
結果を受け、HRNスタッフの安田里菜さんが考察を述べました。
「性的同意の必要性を抽象的には認めながらも、関係性や場所、飲酒、沈黙、過去の経験などによって『同意の省略』が起きる余地があることが示唆された」
「ノーと言えない状況への理解と、拒否する責任を相手に求める認識が併存している。相手が安心して意思を表明できる状況にあるか、力関係や恐怖、酩酊などによって意思表示が困難になっていないかを考える必要がある。また、恐怖により声が出ない、動けない、相手に合わせてしまうといった反応があり得ることについても、理解を広げる必要がある」
「性的同意は大切という一般的な認識が、法的理解に必ずしも結び着いていない。法改正の周知だけでなく、日常のどのような状況で自由な意思に基づく同意が成立しないのかを伝えて行く必要がある」
今後の取り組みの必要性として、「若い世代にも知識と行動の間にギャップがあることがわかった。性的な行為を始める側には相手が同意を示せるかを考え、迷いがあるときはそこから先に進まない責任がある。教育過程でも、被害を避けることのみならず、加害者にならない、周囲の人として性暴力を見過ごさないことを教える必要がある」と話しました。
ユースチームがハンドブックを作成
ヒューマンライツ・ナウでは若い世代に「性的同意」について理解してもらうための補助教材として「性的同意ハンドブック」を作成しました。
タイトルは「What is Sexual Consent?(性的同意ってなんだろう?)」
持ち歩き用のA6判とワークショップなどで使用するB4判の二種類で、どちらも20ページです。
ハンドブックでは性的同意について大切なポイントとして4点を挙げました。
1)YESははっきりした意思であること……沈黙や流されることは「同意」ではありません。
2)いつでも変えられる……一度OKしても、途中で「やっぱり嫌」と思えばやめることができます。
3)無理や圧力がないこと……怖い。断りづらい、立場が弱い状況では、本当の同意とは言えません。
4)相手を尊重すること……同意は「確認すること」で、お互いを大切にするコミュニケーションです。
具体的な場面として「いい雰囲気のとき、同意を確認するのは変?」「お酒を飲んでいる時の同意」「先輩・後輩などの上下関係があるとき」の三つの場面を提示し、検討を促しました。
「同意」と誤認される恐れがある、性被害の時に生じやすい【5F】のサバイバル反応=Fight(戦う)、Flight(逃げる)、Freeze(固まる)、Fawn(迎合)、Flop(脱力)も紹介。さらに「同意がない」と推察される場面を見た時に、バイスタンダーとして取ることができる対応の【5D】=Direct(直接声をかける)、Distract(気を逸らす)、Delegate(周りに助けを求める)、Delay(後から声をかける)、Document(記録する)も掲載しました。

性暴力に関する相談センターの案内や「性的同意」に関する10問のクイズ、「性的同意」をテーマにしたPALETTALKの漫画も掲載しています。
日常の場面に引き寄せて考える
HRN女性の権利プロジェクトユースメンバーの冨田ささらさんは「若い世代が日常の場面に引き寄せて考えることができるように作成した。性的同意の必要性は理解していても、具体的な場面になると疑問が浮かんでくる。恋人同士でもその都度確認する必要があるのか? 相手が黙っていたら? 先輩と後輩など断りにくい関係では? こうした場面ごとに解説をつけた。性的同意について、学校などで具体的に学ぶ機会は少ない。ハンドブックを気軽に手にとり、話し合ってほしい」と話しました。
編集の過程で「性的同意は難しい法律用語ではなく、相手の意思と身体を尊重するためのコミュニケーションだ」と気づいたといいます。ハンドブックが「自分から同意を確認する。あいまいな反応は立ち止まって考える。一度同意があっても、その都度確認する。をういった大事なポイントを抑えながら、自分ならどのように判断し行動するかを考えるきっかけになればいい」と話しました。
性的同意を知ることは命を救う
上智大学の学部生時代に性的同意を広める学生団体「Speak Up Sophia」を立ち上げた東京大学総合文化研究科博士課程のミーシャ・ケードさんは「10年前は性的同意について聞いたことがないという学生が多かった。日本社会に同意の概念が浸透したのは素晴らしい」と評価しました。次のステップは「相手を傷つけずにどうやって同意をコミュニケーションすればいいか」。
ミーシャさんは活動を通して、日本社会の特徴に気づきました。
「日本ではノーだけでなくイエスも言えない。積極性を性的にオープンな人と悪くとられてしまう不安がある。また、相手を喜ばせたいと自己犠牲をしてしまう若者が多かった。性欲が低いことにコンプレックスがあって逆に積極さをアピールしてしまう人もいたし、気が乗らない性行為に傷ついている人もいた」。
その上でこのハンドブックについて「大げさではなく命を救うハンドブックになるのではないか。性的同意は人権問題。人の命がかかっている。同意を知ることで被害者にも優しい社会になる」と話しました。
若い世代でも30%に「同意誤信」の危険性
上智大学法学部の三浦まり教授は「日本社会としてどう成熟度を高めるかが重要。前提となるべき中等教育までの包括的性教育がそもそも欠落している。その隙間を埋めていくのが大学やメディアの役割だ」と話し、同意についてのワークショップ型研修の重要性を訴えました。
千葉大学の後藤弘子理事・副学長は2018年の学生の言葉を紹介しました。「大学で知るのは遅すぎる。もっと早く知りたかった」
多くの学生にとって、性的関係を持つことが社会的に容認されるのは大学に入った後。そのときにどういう関係性を持てばいいかというモデルや知識が全くない学生も少なくありません。
後藤さんは「性被害に遭ったとき、どういうことが自分に起こるのか。ハンドブックにある5Fを小さな時から学ぶだけでもかなり違う。正しい情報が正しく伝わることに意味がある」と話しました。

伊藤和子弁護士は「強制性交等罪が不同意性交等罪に変わったのは大きな変化。Yes means Yesに近い不同意の構成要件も例示された。しかし法改正の内容が浸透していない」との認識を示しました。裁判では「相手が合意していると思っていた」という加害者側の「同意誤信」で無罪になるケースが相次いでいます。
「アンケート結果を見る限り、若い世代でも30%が同意誤信に陥りかねない。抵抗がなければ同意という認識は改めてもらうような教育内容が重要になってくる」と話しました。
HRNのユースチームは、高校や大学でハンドブックを使ったワークショップを推奨しています。ダウンロードは無料。印刷物の送付を希望する場合はヒューマンライツ・ナウのホームページの「問い合わせ」へ。

