斎藤元彦兵庫県知事は辞職を 県民が抗議集会 県議会は百条委員会を開催

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パワハラや贈答疑惑 兵庫県知事の辞職を求め県民120人が集まった

斎藤元彦・兵庫県知事によるパワハラや贈答品受け取り疑惑をめぐり7月19日午後、神戸市中央区の兵庫県議会で文書問題調査特別委員会(通称・百条委員会)が開かれた。百条委員会とは地方自治法100条に基づいて地方議会に設置されるもの。地方事務に係わる疑惑や不祥事について事実関係の解明のために、あらゆる関係者の証人出頭や証拠記録の提出を求めることができる。3回目のこの日は、疑惑を告発した元県民局長(60)への証人尋問が行われる予定だったが、元局長は7月7日に死亡。自死とみられている。

元局長は3月に斎藤知事のパワハラなどを一部県議や報道機関に告発、県の公益通報窓口にも通報した。元局長は3月末に定年退職が予定されていたが、県は3月27日に退職保留処分とした。同じ日に斎藤知事は定例会見で、「不満があるからと言って、業務時間中に“嘘八百”含めて、文書を作って流す行為は公務員失格です」と元局長を非難。県は5月に公益通報窓口とは別に内部調査をし、告発内容は「真実ではない」との判断を下し、元局長を停職3ヶ月の懲戒処分にした。この一連の手続きは、公益通報者保護法違反の疑いがある。

一方、職員らの証言から告発に沿った事実が出てきたため、県議会は百条委員会を設置、6月14日に初会合を開いた。

シール投票の台紙には手書きで知事の辞職を求める書き込みも=兵庫県庁前

7点の疑惑についての文書を公表

7月19日の百条委員会では、①元局長が3月12日に出した「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」という文書②元局長自身の百条委陳述書草稿③元局長の妻の陳述書(メール)を証拠採用し、配布した。

①では7点の疑惑について取り上げている。

・ひょうご震災記念21世紀研究機構の副理事長の解任
・県職員が前回の知事選を手伝っていた
・次期知事選への投票依頼行動
・タイアップ企業や市町村へのおねだり(贈答品受け取り)
・政治資金パーティー
・阪神・オリックス優勝パレードの寄付集めと信用金庫への県補助金のバーター
・知事の職員へのパワーハラスメント

イベント、行事に個室・姿見の手配が必須

②は元局長がそれぞれの疑惑について「いつ、誰から聞いたか」を答える想定問答集だが、多くの事項で「はっきりとは記憶にありません」「迷惑がかかるので申し上げられません」と明言を避け、「委員会で(詳細を)調べていただきたい」としている。ただしパワーハラスメントに関しては、見聞きしたことの詳細がまとめられていた。

(知事の)職員に対するハラスメントは、県政に関する重要事項とか施策遂行上の問題といった次元ではなく、「知らなかった」「気に入らない」「配慮が足らない」「生意気だ」「自分より目立った」といった知事個人にとっての不都合、不満が原因となった叱責、罵倒である。この理不尽さに職員は耐えられないと思います。また、その影響で、本来そこまでしなくてもよいこと、公費がかかっている以上すべきではないこと(例:イベント、行事における個室の用意、姿見の手配など)が必要だったのは自分の経験でも明らか。知事の動線には非常に気を使い、行事によっては何回も下見をすることも。

③は元局長の妻のメールで内容は次の通り。

「主人がこの間、県職員の皆さんのためを思ってとった行動は、決して無駄にしてはいけないと思っています。主人が最後の言葉を残していました。そこには一死をもって抗議するという旨のメッセージとともに、19日の委員会に出頭はできないが自ら作成した『陳述書』および参考の音声データの提出を持って替えさせてほしいこと、そして百条委員会は最後までやり通してほしいことが記されていました。(中略)主人が望んだ職員の皆さんが誇りをもって働ける兵庫県庁となることを、遺族一同願っています」

地ワインの贈答、「受けた」と認める

委員会では音声データも流された。知事の声で「ワインを、私はちょっとまだ飲んでいないので、ぜひまた」というもの。疑惑のうちの1つ、知事が兵庫県上郡町の地ワインを町長に「おねだり」した時の会話を録音したものとみられた。同日、斎藤知事は記者団の囲み取材でワインの贈答を受けたことを認めた。

県知事の辞職を求めるバナーを掲げる人たち=兵庫県庁前

公園の授乳室を着替えのために占拠

また、委員の丸尾牧県議(無所属)からは独自の職員アンケートで出てきた事実として、県立尼崎の森中央緑地で3月30日に開かれたユニバーサルマラソンに知事が出席した際、着替えのために授乳室をクローズドにして知事専用の個室として利用したことが報告された。授乳室には救護室が併設されており、ベッドや緊急呼び出しボタンもついている。知事は5月、「急いでいたので授乳室とは気づかなかった」と弁明したが、丸尾県議は「ドアには子どもを抱いた母親の絵、入り口の横にはミルクのマークもあった。当日は一人熱中症患者も出た。救護室が使えなかったのは問題だ。イベントの担当課は控え室の利用を提案したが、秘書課から要請されて授乳室の利用となったということだった」と報告した。

守秘義務免除の規定、見直し求める

百条委員会は今後、無記名の職員アンケートを実施し、職員らの証人尋問を年末までに8回行う予定だ。

ただ、証人として招致された職員の守秘義務免除について、県人事課は7月12日に、「守秘義務免除の申請手続きは各部総務課長が承認する」という規定を定めている。これについて、委員の竹内英明県議(ひょうご県民連合)は「百条委員会からは事前に質問内容は一切明かされない。職務上の秘密が含まれる事項が質問に含まれるかは証人として招致された職員には分からない」と指摘。

手続きを取らないまま秘密にかかる質問が出た場合は虚偽の答弁をせざるを得なくなり、偽証罪で5年以下の禁固刑を課される可能性が出る。一方で、事前申請を経ずに秘密について証言すれば、人事上の処分を受ける可能性が高い。

竹内県議は「このような規定は人事当局から百条委の調査への妨害といっても過言ではない」と主張し、規定の見直しを強く求めた。

元局長の死を悼み、喪章を着けたり黒いプラカードを掲げたりする人が目立った=兵庫県庁前

「知事辞めろ」120人がコール

百条委員会に先立って19日正午から、県庁前で「斎藤知事の辞職を求める県民集会」が開かれた。約120人が集まり、「斎藤辞めろ、すぐ辞めろ」とコールを繰り返した。元局長への弔意を示すために喪章を着け、白い菊の花を手にスピーチが続いた。

集会を呼びかけたのは尼崎市在住の50代の主婦「塩タン」さん。4月からこの件で3回のスタンディングを行ってきたが、元局長の死を受けて、広くSNSで集会参加を呼びかけたという。炎天下の県議会棟前でマイクを握り、「元局長さんの百条委員会をやりとげてくださいという声に私達県民も、議員の方も、必ず応えましょう。斎藤知事の数々の不正を許すな。私達の兵庫県を取り戻しましょう」と呼びかけた。

「もう県民はあなたに県政を負託していません」と訴える「塩タン」さん=兵庫県庁前

とりわけ知事が「県民の負託を受けているから辞職しない」と言っていることに我慢がならない、という。「もう県民はあなたに負託していないです。現実を見てください」

もう一人の職員の死も悼む

尼崎市の田中淳司市議は、阪神・オリックス優勝パレードの担当だった職員の死に言及した。業務によりうつ病を発症し、休職。今年4月に亡くなったという。「おそらくはまじめに仕事をしてきた職員です。職員が心身をすり減らし死に至る。一方で、恥知らずな斎藤知事。そして斎藤知事を生み出した既成政党の行動を私達県民は見ていることを突きつけようではありませんか。庶民の怒り、憤りをぶつけていこう」

尼崎市から参加した主婦は「斎藤知事のインスタはどれもリア充の演出写真ばかり。いつも知事がセンター、県民はバック。それを見ていてこの人、県民のこと思っていないな、とすごく腹が立ちました。一分一秒でも早く辞めていただきたいです」

県立病院の看護師だった西本美砂子さんは県職員OGとして発言した=兵庫県庁前

県立塚口病院で看護師をしてきた県職OGの西本美砂子さんは「まともな調査もせずに元局長を懲戒処分にしたり、公務員失格だと言ったことがまず間違い。斎藤知事は辞めるしかない。職員が2人も亡くなっているのに、人の痛み、命の重みがわからないのかと思うと恐ろしい。公共の授乳室を占拠したというのも常識を疑う」と話した。