「ひめゆり」侮辱発言で西田昌司参議院議員に抗議 自民党本部前 警察官による制止も

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ひめゆり隊や沖縄戦に対する歴史の改ざんを許さない。西田昌司議員は明らかな嘘をついています。

自民党の西田昌司参議院議員が5月3日、那覇市で行った講演で、沖縄戦で犠牲となった女子学生を顕彰する「ひめゆりの塔」について「(説明が)ひどいですね」「歴史を書き換え」「むちゃくちゃな教育」などと発言した問題で、市民ら90人が16日夕、東京都千代田区永田町の自民党本部前で抗議集会を開きました。警察官約30人が地下鉄の駅から集会に向かおうとする市民らをブロック。声を上げる市民らを車道側に追い込んだり、道路を横断しようとする市民を阻止したりする場面もありました。

西田議員の発言要旨と経緯
西田昌司参議院議員は5月3日那覇市であった講演で、憲法を改正して国民保護法制をつくるべきだという持論を述べる中で、次のように発言した。
「私も何十年か前、国会議員になる前に、ひめゆりの塔にお参りに行ったことがある。今はどうか知りませんけど、ひどいですね。ひめゆりの塔で亡くなった女学生の方々が、たくさんおられるが、あの説明をみていると、要するに日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆり隊が死ぬことになっちゃったと。そして、アメリカが入ってきて、沖縄が解放されたと。そういう文脈で書いているじゃないですか。亡くなった方々は救われませんよ。歴史を書き換えられるとこういうことになっちゃうわけですね。(中略)沖縄の場合には、地上戦の解釈を含めて、かなりむちゃくちゃな教育のされ方をしています。(中略)自分たちが納得できる歴史を作らないとできないと思います」
西田議員は7日には「発言を撤回しない」とし、「昔は沖縄に軍隊はいなかった。終戦直前にアメリカに占領されるという情報があって、なんとかしなければということで日本軍が沖縄に入ってきて、結果的に島民が巻き込まれて大きな犠牲が出た」と史実に基づかない見解を重ねて表明。9日に記者会見を開き、謝罪と撤回を表明したものの、「自分の言っていることは事実だという前提でいまも話している。問題は、事実(かどうか)ではなく、県民の感情を分かっていなかったことだ」とも発言。「むちゃくちゃな教育」という部分は「撤回しない」とした。
沖縄県議会は16日、根幹部分について謝罪と撤回がないとして、西田議員にあてた「謝罪と撤回を求める抗議決議案」を賛成多数で可決した。

警察官が自民党本部に近づかせないようブロック

集会は「沖縄への偏見をあおる放送をゆるさない市民有志」などが呼びかけ、「パレスチナ虐殺阻止」や「琉球解放」に取り組む学生らのグループも参加しました。

参加者の男性によると、集会開始の1時間ほど前からすでに警察官が自民党本部前の歩道に集まり、盾やカラーコーンなどを置いて建物に近づかせないようにブロックしていたそうです。午後6時ごろには、地下鉄駅への出入り口付近で「ここから先は通行できません」などと市民を制止。車道の反対側で足止めされたり、車道の中央分離帯で警察官に取り囲まれたりし、集会の現場にたどりつけない人も30人ほどいました。

警察官が歩道の中ほどに立ちはだかり、集会の参加者を車道側においやった=2025年5月16日、東京都千代田区永田町

そんな混乱と妨害の中、集会の参加者によるリレースピーチが約1時間にわたり続きました。

パレスチナと重なる沖縄戦

「僕はパレスチナで起きている虐殺が毎日SNSで流れているのを見ています。最初はガザ中部から南に避難するように一方的にイスラエル軍がビラを撒いて、住民が南部に避難していきました。ギュウギュウになりながらテントで生活しています。そこをイスラエル軍は空爆しています。そのような状況を毎日見ていて、僕はずっと沖縄戦のことを考えていました。沖縄戦も人々が南部にどんどん避難をしていく。あげくの果てには崖から飛び降りるしかなかった人もいる。SNSで見ているガザの風景を沖縄戦のことに結びつけて、これ以上、沖縄戦の歴史を踏みにじることをさせてはいけないと思っています。パレスチナの虐殺に反対しているからこそ、より強く思っています。いまも自民党政権は九州沖縄に自衛隊の南西シフトをしいて、再び軍事化しようとしていますよね。日本軍が市民を虐殺したやり方を、もう一回繰り返すことになるんじゃないですか? だから防衛費が上がることにも反対しているし、そもそもうちらの生活、どうなってると思っているんだ! 今、本土の人が声を上げることが重要だと思っています」(奧誠之さん)

琉球を利用するが犠牲を払わない日本

「内容のない嘘、ごまかし。どこまで私たちを馬鹿にするんですか。1945年3月、慶良間諸島渡嘉敷島では集団自決が329人にも上りました。なぜか。1944年9月、ここに秘密の日本軍基地ができました。その基地建設に、島民が動員されています。島民が捕まれば秘密が漏れる危険性がある。だから何かあった時には全員玉砕することとして、戦争が遂行されたんです。日本の政府はあらゆる理由をもって琉球を利用しようとするが、日本がそのために犠牲を払うことはない。それがどれだけ腹立たしいか。私はその一員でいることが恥ずかしい」(黒田恵さん)

選挙のたびに「辺野古」を避ける自民党

「ここで警備をしている警察官のみなさん。ひめゆりの館の展示を見たことがありますか?私は最初に行ったとき、4時間釘付けになって、証言される方達の映像から目が離せませんでした。本日私たちは沖縄の方々の記憶に対する敬意を持ってここに立っております。沖縄戦は戦局が本土に及ぶのを遅らせるために、いわば捨て石となって繰り広げられた闘いでありました。島には多くの民間人が取り残され、軍の指示の下、避難も許されず、銃弾の飛び交う中で20万人以上の命が奪われました。ひめゆり学徒隊もまた看護手伝いとして動員されました。病院と呼ばれたそこは壕の中でした。そこで切り落とされた手足を運んだり、砲弾が飛び交う中で薬や食料を運ぶ。その中で自分たちも命を落とすようなことがあったわけです。もうあんな思いはしたくない、させたくないという生存者の証言に、私たちは耳を傾ける必要があると思います。西田議員の発言はこうした証言と記録の積み重ねを無視し、まるで歴史をねじ曲げようとするかのようでした。一部を撤回したとはいえ、その真意に疑問が残っています。

自民党は選挙のたびに『辺野古』の言葉を避けてきました。国民の命と暮らしにかかわる重要な問題を、票になるかならないかで語る政治でいいのでしょうか?私たちは歴史に誠実である政治を求めます。過ちを認め、責任を取るという最低限の誠実さを西田議員には求めたいと思います。政党としてもこのような発言を許さないという明確な姿勢を示してもらいたい。今日ここに立つのは、怒りのためでもありますが、尊厳を守るためでもあります。どうか沖縄の人の言葉に耳を澄ませていただきたい」(渥美由美子さん)

歴史認識の差異ではなく、明らかな嘘

西田氏が問題の発言をした講演の直前、同じ会場で故・安倍晋三元首相の顕彰祭が開かれていたことが明らかになっています。

この日の集会を呼びかけた川名真理さんは、2017年に東京MXテレビで放送された番組「ニュース女子」で、沖縄の米軍基地建設反対運動への誹謗中傷があったことに抗議してきました。「安倍首相時代の沖縄に対するヘイトスピーチと今回の問題は、事実をねじ曲げる点で根っこが繋がっていると感じた」といいます。

川名さんは「西田議員は嘘の歴史認識で沖縄の歴史教育を踏みにじった。辺野古で座り込みをしている女性がSNSで『私たちはもう手一杯で傷だらけ。本土の人が抗議してください』と書いているのを読んで呼びかけられたと感じ、抗議行動をすることにした」と語りました。マスメディアの多くが「西田議員が発言を謝罪・撤回した」と報じていることにも違和感があるといいます。「西田氏はTPOに問題があったと言っているだけで、発言の骨子を撤回していない。ここにあるのは歴史認識の差異ではなくて、明らかな嘘。これを許すと(沖縄戦の語り口には)両論ありますね、という認識に絡め取られかねない」

歴史改ざんは社会に不安や混乱もたらす

川名さんらは20日に自民党本部を再び訪れ、西田議員の辞職を求める申し入れ書を石破茂党総裁に提出する予定です。

申し入れ書の末尾にはこうあります。

「史実と異なる歴史認識を持ち、指摘されても撤回せず、沖縄の平和教育を侮辱し、都合のいいように歴史を塗り替えることを肯定する……このような西田氏のあり方を貴党は問題にしないのでしょうか。西田氏の発言は沖縄の人々を深く傷つけました。また戦争の記憶を正しく継承することは平和国家の礎となるものですが、歴史を改ざんしてもいいという発言は、その道筋をないがしろにし、社会に不安や混乱をもたらします。明確に否定しなければ、自民党は西田氏のむちゃくちゃな歴史認識も、沖縄の平和教育を侮辱したことも、容認しているように映ります。以上の観点から、私たちは西田昌司氏の議員辞職を強く求めます」