性暴力被害者の訴えを聞き取り、医療や法律相談につなげる「性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が存続の危機にあります。2010年に大阪で初めて開設され、2018年には全都道府県に設置されました。しかし、運営費への公的支援が不十分で、支援員は手弁当状態。病院を拠点とするセンターでは、医師・看護師の支援行為に補助金が出ず、経費は病院が負担し、通常診療の合間にボランティアで支えている状況といいます。センターを運営する8団体が8月27日、内閣府の加藤鮎子男女共同参画担当大臣に対し、国庫負担の引き上げなどを求める要望書を提出し、9月6日、オンラインで記者会見をしました。
要望は次の3点です。
1. 相談センターの運営にかかる十分な費用を国の予算で確保し、10割補助するなどしてください(現在の補助率は国と自治体が2分の1ずつ)。
2.医療、心理、法律相談等の専門支援の公費負担の内容・範囲が全国であまりに違いがあります。この実態を調査し、また、国が必要な費用すべてを補助して、全国どこでも、同じ内容の十分な支援を被害者が受けられるようにし、被害地や都道府県民限定などの制限を撤廃してください。(現在の補助率は国3分の1、自治体3分の2)
3.これまでは国が補助対象としていなかった、病院での医療従事者等の支援行為にも、補助金を出し、病院での支援を支えてください。
性暴力被害者への支援は2006年度から警察庁による医療支援事業が始まりました。その後、内閣府が2010年12月に、性暴力被害者のためのワンストップ支援センターをすべての都道府県に設置することを閣議決定し、2018年に全都道府県に設置されました。現在、全国52カ所あります(北海道、千葉、愛知、兵庫、島根に2カ所)。
刑法改正やジャニーズ事務所の性加害報道などを受けて、センターへの相談は増加しています。
内閣府の資料によると、2021年度は58,771件、2022年度は63,091件、23年度は上半期で35,990件の相談がありました。
センターは大きく3つの類型に分けられます。
・産婦人科医療を提供できる病院内に相談センターを置く「病院拠点型」21.2%
・産婦人科医療を提供できる病院から近い場所に相談センターを置き、相談センターを拠点とする「相談センター拠点型」15.4%
・相談センターと複数の協力病院が連携することにより、ワンストップで支援を提供しようとする「連携型」61.5%
ワンストップセンターの運営に必要な費用の内訳は以下の通りです。
速やかに医療につなげられ、専門的な支援を受けられる「病院拠点型」のセンターで、医療従事者の人件費や事務費に公費負担がありません。また専門家支援(緊急避妊、中絶、心理カウンセリング、法律相談、証拠採取保管など)は自治体の負担率が3分の2と高く、予算圧縮のため上限や不合理な除外規定が設けられていることも問題です。
専門家支援NPO法人性暴力被害者サポートひろしまの北仲千里代表理事は専門家支援のばらつきについて、次のように話しました。
「各自治体は警察公費と内閣府・自治体の公費負担のどちらか、あるいは両方を使っています。警察公費を使っている自治体は犯罪被害者支援の制度を参考にして基準を作ったため、配偶者間のレイプは除くなどの珍基準が適用されてしまっています。センターが2カ所ある自治体では2つ目のセンターへの支援が手薄になりがち。在勤・在住者に支援を限定している自治体もあります。でも、京都に居住していた時期に被害を受け、住民票は東京だが、長野の友人に打ち明けて長野のセンターに相談に行くというようなケースもあり得る。内閣府は、急性期は居住地や被害地にかかわらず支援の対象にするよう通知しましたが、性暴力被害の訴えは急性期には限りません」
内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(2023年)では不同意性交をされた被害経験がある人は女性の8.1%、男性の0.7%。被害者のうち47.1%は18歳未満の時期の被害で、そのうち、小学校入学前の被害が7.9%、加害者が保護者だったケースは7.1%にのぼります。子どものころに受けた被害に気づくのに数十年かかることはよくある、といいます。そのときに相談できる先が必要です。
「すべての被害者がどこの地域でも等しく必要な支援を受けられるようにするべきです」(北仲さん)
存廃の危機にあるセンターもあります。ワンストップセンターのさきがけとなった性暴力救援センター・大阪「SACHICO」は、拠点としてきた阪南中央病院から2025年3月末の撤退を求められています。今年8月、存続を求める署名活動が始まりました。
https://note.com/sachico_seigan/n/n1f0f28a60ec3
「SACHICO」の久保田康恵理事長もオンラインで記者会見に参加しました。
「当団体への相談者の6割が未成年、1割は9歳以下です。子どもや、動転して上手く話せない人は長時間の診療になり、知識やスキルを持った支援員が付き添います。でも、この支援員の人件費が出ない。医療者の診療に見合った報酬もありません」
病院の経営も厳しさを増す中で、警察同行以外の診療が難しくなり、センターに直接相談があったケースで診療につながったのは、2022年の278件から、2023年は61件まで急減しました。産婦人科の診療は24年4月以降、拠点を置く阪南中央病院では受けられず、他の病院に診察を頼んでいる状況です。
「男性の性被害の訴えも増え、50~60代になって幼少期の被害を訴える人もいます。学校の中の性的手段をつかったいじめもあります。親にも先生にも言えない。警察に訴えるのも違う。どこに相談していいかわからずにセンターに来る人が多い。被害者が心身の安全を保障してもらえる環境は予後にも影響します。ここで初めて本当のことが言えたと言う人の声を守る。声なき声を聴く活動を止まらずにできるようにしていきたい」(久保田さん)
相談員や支援員の人材確保も課題です。臨床心理士やソーシャルワーカーなど高い専門性を持った人が望ましく、研修も必要です。しかし、「給与が出ないので、若い人が就職先にできない。退職者にボランティアで相談員になってもらうケースが多く、高齢化も深刻です」と北仲さん。
2024年4月施行の困難女性支援法は「性暴力被害者支援」を明確に掲げていますが、同法は従来の厚生労働省婦人保護事業をベースに制定されたため、同事業に位置付けられていなかったワンストップセンターは、法の対象としての予算措置などがなされていないことも大きな問題です。
北仲さんはセンターにかかる費用を試算し、発表しました。
人口200~300万人規模の中規模の都市部で、年間にかかる費用は相談センターの運営費約3000万円、医療支援やカウンセリング、法律相談など専門支援を無料で提供する費用約342万円。
人口700万人超の大規模の病院拠点型センターで、医療従事者が対応するためにかかる費用は年1700万円。
北仲さんは「性被害を受けて妊娠し、中絶できないようなワンストップセンターでは意味がない。医療は必要な分を確実に出してほしい。来年度の予算に要望をぜひ反映してほしい」と求めています。