フジテレビ性暴力 メディアの中で「押しつぶされる女性たち」

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フジテレビの会見、なんだかモヤモヤするんだけど

 2023年に起きた元タレントの中居正広氏によるフジテレビの女性社員に対する性加害事件は性暴力であり、重大な人権侵害事案だとして、事件を調査した第三者委員会(竹内朗委員長)が3月31日、調査結果を発表した。フジテレビの公式ホームページで同日、全体で300ページ以上に及ぶ調査報告書(別冊も含む)が公開された。第三者委員会は男性タレントやスポンサーらに対して女性を「捧げ物」にする接待会合や被害に遭った女性に対する対応の不備を2次加害と位置付け、被害者に寄り添う対応ができなかった同社のガバナンス不全について厳しく指摘し、報告した。第三者委員会とその後に開催された清水賢治社長の会見を取材した。

報告書はフジに限らずメディア全体を凝縮している

  第三者委員会の会見は1月と同様、東京都江東区台場にあるフジ本社20階の広い会場で行われた。詰めかけた取材者は200人を超えた。ひな壇を前にして着席していると、会見開始1時間ほど前にフジのスタッフが抱えるように持ってきた報告書(要約版)の冊子が一人ひとりに配られた。

  報告書は9章に及び、調査の概要▽事件の内容や認定・評価▽会社の対応の評価▽女性を利用する不適切な接待会合▽企業ガバナンスの不備▽問題の原因分析や再発防止に向けた提言▽類似の性加害事案————などについてまとめられている。本事案以外にも、同社に蔓延するセクシュアルハラスメントなどの実態について社員アンケートの結果を公表し、幹部を中心にした希薄な人権意識ぶりを赤裸々に綴った。報告書は、過去に見聞きしたメディア内の出来事と被るものが数多く記され、フジに限らずメディア全体が抱える問題を凝縮しているように思った。また、委員会の報告はフジサンケイグループ元代表の日枝久氏(元フジテレビ取締役相談役、元CX代表取締役社長・会長、元FMH代表取締役会長)によるこれまでのワンマン体制、セクハラやハラスメントの加害者が役員クラスにまで昇進しているという実態にも及んだ。

国際基準の「性暴力認定」 被害者の顔が浮かんだ

  報告書を手にして、蛍光マーカーでなぞりながら、読み始め、真っ先に目に飛び込んできたのが、「本事案についての当委員会の認定」の項目にある、今回の女性社員への加害が、性暴力として認定された部分だった。率直に「よかった」と思った。過去にセクハラや性的加害だと訴えても、「証拠がない」と難癖をつけられ、「恋愛関係」とデマを流され、会社からなかなか性被害を認められず、深く傷つき、憔悴していたメディアの仲間の顔が浮かんだ。

 2023年6月2日に女性社員が中居氏による性暴力を受けたという認定。世界保健機構(WHO)が公表している「World Report on Violence and Health」(2002年)による「性暴力(Sexual Violence)」の定義に基づいて判断したという。女性社員と中居氏の間で示談契約が交わされ、互いに守秘義務があるため、制約があるものの、ヒアリングから以下の情報などを得て事実認定されたという。

・守秘義務を負う前の女性社員のフジテレビ関係者への被害申告(本事案における具体性のある行為様態が含まれる)
・女性社員に生じた心身の症状(本事案直後から重篤な症状が発生して入院に至り、PTSDと診断された)
・本事案の女性社員と中居氏とのショートメールでのやりとり(本事案における具体性のある行為態様及び女性社員の認識が含まれる。中居氏は女性社員とのショートメールでのやり取りは削除済みだった)
・フジテレビ関係者間の報告内容、関係者へのヒアリングにおける証言内容・証言態度など

 委員会は23年6月2日に女性Aが中居氏のマンションの部屋に入ってから退室するまでの間に起きたことについて、女性社員が中居氏によって性暴力による被害を受けたものと認定した。

 性暴力事件やセクハラは裁判でも、職場の労働事案でも、同意・不同意が争われ物的証拠がないことを理由に、認められないケースが多々ある。その中で、会社が調査を要請した第三者委員会がしっかりと性暴力認定をしたことは大きな一歩だ。

 被害を受けても、被害者に落ち度があったなどと誹謗中傷にさらされることが多く、告発をためらう被害者がいる。いまだに社会では女性に対する構造的差別があり、性暴力やセクハラ被害者に対する偏見がある中、今回当事者、関係者への聞き取りで認定されたことは画期的であり、また被害者にとって心強いものになるだろうと感じた。

記者会見に応じる第三者委員長の竹内朗委員長=2025年3月31日東京都江東区台場のフジテレビ本社で、吉永磨美撮影

「権力勾配」があり「業務の延長線」での重大な人権侵害

 さらに目を引いたのが、重大な人権侵害事案が、フジテレビの「業務の延長線上」で発生したと判断したことだ。

 報告書では、大物タレントの中居氏はフジテレビにとって有力な取引先であるとして、入社数年目のアナウンサーだった一般社員の女性社員と中居氏には「圧倒的な権力格差が存在していた」と指摘。権力格差のある関係性を前提に、中居氏から誘われた食事について、女性社員が中居氏との良好な関係性を構築・維持するため、円滑に業務を遂行することと考えるのが当然だとして、業務上の人間関係が継続していた、としている。

 中居氏のショートメールには「メンバーの声かけてます」と記載があるなど、編成局幹部B氏ら同社関係者を含む記載内容で、プライベートな食事であると思わせる表現は含まれていなかった。同社で番組出演タレントとの会合は業務遂行に資するとして、業務の延長線上と捉えることは不自然ではないとした。

 さらに、報告書には、厚労省が示した男女雇用機会均等法に基づく指針の中で、「雇用主がセクハラ事案に関して雇用管理上構ずべき措置」を定めた指針においても、通常就業している場所以外であっても、業務を遂行する場所を「職場」と見なすことなども添えられている。

記者会見で答弁する第三者委員会の五味祐子委員=吉永磨美撮影

社員B氏の関与関係なく業務実態で判断

 1月27日の同社の記者会見でも編成制作局幹部のB氏が関与しているのかどうかに焦点を当てた質疑応答が繰り返された。同社役員はB氏は関係ないと明言し、女性社員の身分を言わずに業務上かどうかについても明言を避けていた。しかし、委員会はB氏の関与いかんに関わらず、同社内で常態化していたタレントと社員の会食の業務実態から、「業務の延長線上」だと判断した。

 委員会は「プライベートの問題と即断するのではなく、業務の延長線上の行為である可能性を認識して本事案について適切な事実確認をした上で対応を検討し、意思決定を行うことが適切であった」と結論づけている。

 これまでも加害の現場が「飲み会」だったり、会食をしながらの取引・取材、業務で参加した懇親会の二次会、三次会だったりすると、そこで起きたことは、「プライベートだ」と線引きをされ、業務上ではないことにして、会社の責任回避がたびたび行われてきた。

 権力勾配のある上司から部下へ、取引先・取材先による加害でも、性加害認定をされずに苦しむ被害者がいるのだ。とりわけ、取材先から取材中に女性記者が受けた性暴力についても、公権力側が業務上だと認定しないことで苦しむケースの国賠訴訟が起きている。本報告書で展開された論理がこれからの加害認定に役立つことに期待したい。

調査に関わった弁護士たちが並ぶ第三者委員会の記者会見=吉永磨美撮影

会社の「切り離し」や不適切対応は「二次加害」

 さらに会社の中の性被害で「よくある悪いパターン」がこの事例でも、やはり起きていたことに胸が痛む。報告書によると、自分が勤めている会社が「プライベートの問題」と認識していることが女性社員に伝わり、「会社は守ってくれない」「会社から切り離された」として孤独感、孤立感を抱かせていたというのだ。被害者ケア・救済の視点からも不十分な対応であった。

 フジテレビは雇用主として、安全に配慮する義務や責任を負っている。傷つくかも知れない、と腫れ物を触るがごとく対応し、適切な措置を執っていなかったことはかなりの問題がある。上場企業である同社が、被害の女性社員のケア、人権侵害の是正と救済、業務復帰のための環境整備を最優先として対応方針を決定していなかったことは本当に残念だ。

 そして、人権方針に基づく対応や専門家に助言を仰ぐ発想もなかった。セクショナリズムもあって、編成制作局の問題は「編成ごと」という呼び方で、たとえ重大人権侵害事案でも、当初はすぐにコンプライアンス部門にかけられこともなく、事なかれ主義で片づけられていた。

 報告書で、第三者委員会は、中居氏の依頼を受けて、B氏が100万円を女性社員の入院先に届けるなどの行為は、法的紛争にも影響し得るもので、口封じとも評価し得ると判断。「女性社員への二次加害行為に当たり得る」と断罪した。さらにB氏が、フジのバラエティ部門の法的アドバイザーだったK弁護士を中居氏に紹介したことを編成制作局が中居氏のサイドに立つことを表した行為と捉え、これも二次加害だと認定した。

 委員会は、フジの経営陣について、適正な経営判断を行うための知識、意識、能力が不足していることを挙げた。

3月31日の記者会見冒頭で謝罪文を読み上げるフジテレビの清水賢治社長=吉永磨美撮影

「万能感」からの幹部本位の判断と行動

 今回の幹部本位の稚拙な判断や行為は、ことごとく女性社員を傷つけている。

 ハラスメントが問題視され撲滅に向けて動き出す企業が多い中、大手メディアのフジテレビは世間とはかけ離れた対応しか取れなかったのだろうか。これはフジだけの話なのだろうか?

 私は、1月の会見で幹部の口から出た「万能感」という言葉に象徴されていると感じた。フジに限らず、メディアに勤める男性社員から聞いたことのあるこの「万能感」。それがどこからやってきて、どのように醸成されていくものか、じっくりと検証する必要がある。

「性別・年齢・容姿などに着目して呼ばれる会合」

 「これも、これも」と注目すべき文章にアンダーラインを引きながら、貼った付箋があっという間に10枚になった。

 委員会は本件事件の類似事案も調査し、同社内で女性社員を「捧げ物」にした接待会合が常態化していたことを報告している。報告書には、フジでは有力な取引先と良好な関係を築くために、「性別・年齢・容姿などに着目して呼ばれる会合」というものが常態的に開かれていたことが記されていた。「いずれの会合でも有力な出演者からハラスメント被害に遭うリスクが存在していた」と記されている。さらに、経営陣によるハラスメントが許容される状況、ジェンダーバイアスの偏り、男性職員が多い、意思決定層に男性が多いという男性優位構造についても指摘されている。

3月31日の会見は、1人1問というルールで、司会者から当てられた=吉永磨美撮影

「女性に対する構造的差別」が結論になく、がく然

 報告書では、男性優位構造について、一般論として「女性は一段低く見積もられたり、モノ化されたり、ケアの役割を押し付けられたりする場合がある」という表現にとどまっていた。フジテレビ内にあった「女性に対する構造的差別」について、明確に結論付けられていないことにがく然とした。

 そもそも、フジテレビという企業内において、女性をモノ扱いにして、飲み会で有力出演者と二人きりになるのを知っていながら「置き去り」にされ、「捧げ物」にする人権侵害文化がなければ、こんな事件も起き得なかった。事件の原因、発端を作り、被害に陥るように差し向けたのは、まず企業そのものであることに反省がない。

 由々しき企業文化である以前に、女性に対する構造的差別があることを断じなければならないだろう。そしてそれを受け止めてフジテレビは徹底して、考え方を改めなくてはならない。「人権侵害」という言葉に丸める前に、まずは社会全体に蔓延し、とりわけ企業内に横たわる構造的差別への振り返りと是正が必要だと考える。

女性に対し雇用主の責任いつ果たすのか?

 記者会見の質疑の中で、清水社長は、「女性社員に謝罪したい」という言葉を何度も繰り返した。一方で、取材陣から労働災害認定などについて質疑があっても、具体的な方向性は示さなかった。本来ならフジテレビは、自社の社員である女性を守り、職場の人権侵害事件として取引先である中居氏に抗議し、賠償させる、場合によっては、法的措置を取らなくてはならない立場なのだ。一体、フジの幹部は所属社員だった女性に対する責務をいつ果たすのか。

 1月の会見で、港浩一社長(当時)は、女性社員を気遣い、何度か対面したような話しぶりだったが、報告書では女性社員との対話の必要性が説かれていた。1月の会見では、女性社員はフジに雇用された立場であることも隠され、雇用主として果たすべき「安全配慮義務」を果たす責任について明言を避けていたように見えた。

1月27日の記者会見を最後にフジテレビの社長を退任した湊浩一氏=吉永磨美撮影

 3月31日の会見で清水社長は、女性の身分が明らかになり、フジテレビと雇用関係にあることが公然となったにも関わらず、「謝罪する」と言うだけで、一刻も早い対応をとるべきであることに無自覚とも言える反応だった。本当に、被害者である女性社員に寄り添うのならば、被害者が納得するように、被害者が提示した解決方法をまず聞いて、その上での解決がなされるべきだ。フジテレビは、対外的説明を果たす意味でも、会見と報告書の提出を受けて終わりとしてはならない。

メディアの中で「押しつぶされる女性たち」

 そして、この話は、フジだけの問題ではないのだ。

 これまで、放送に限らず、新聞メディアでも、警察や政治家など取材先の機嫌を取り、会社として重要な情報を得るため、若い女性記者を酒席に呼び出し、その延長線で女性記者が性的被害に遭うケースは珍しくなかった。メディアの組織内では、上司と部下、先輩と後輩という「内なる権力勾配」と、女性をモノ扱いにする構造的差別がある。そして、呼び出された酒席に行けば、公権力や情報源とメディアという立場に置かれ、国民の知る権利に奉仕する「公共財」である情報の受け渡しを巡る「権力勾配」が存在する。若い女性記者は二重の権力勾配の下で、大きな力に押しつぶされてきたのである。

 そしてこれはメディア業界に限った話でもない。社会のあちこちに「権力勾配」の弊害と「女性に対する構造的差別」が横たわっている。社会に影響を及ぼすメディアから変わらないといけない。

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