屋外の仮設トイレは凍結、自衛隊のお風呂は深さに課題 応援の職員を派遣し「受援体制」の構築を 輪島市からの報告

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 屋外の仮設トイレは手洗いの水が凍結、自衛隊の浴槽は深く高齢者の入浴には台座が必要――。
 一般社団法人日本避難所支援機構(JSS)のメンバーで自治体職員の武田輝也さんが、1月8〜16日、能登半島地震で被災した石川県輪島市旧門前町に、公衆衛生活動チームの先遣隊として入りました。主に保健衛生の観点から、気になった点や課題について伺いました。

 避難所に公務を担う人材の投入を

 旧門前町は輪島市の西半分にあたり、人口5106人(2021年)。現在、災害対策本部が把握している避難所は54カ所ですが、学校や公民館などの指定避難所は20もない。半数以上が個人宅の納屋やビニールハウスといった自主避難所です。

 東日本大震災などこれまでの災害と比べると、県内から応援の職員派遣が少なく、自身も被災した数少ない職員が避難所のロジ(調整役) を担っていることが気になりました。交通途絶などで、3分の2ぐらいしか登庁できていない上、インフルエンザと新型コロナの蔓延で体調不良による欠勤も相次いでいます。職員がいないと、外からの物資や人員の手配が上手く回りません。私たちも避難所の調査の取りまとめなど、一部の機能を代替しましたが、期間が限られます。早急に公務を担う人材を投入し、受援体制を整えることが必要です。

食料支援、輪島市に届かず

 指定避難所は高齢者が8割を占めます。冷たい床に雑魚寝の生活。低体温症やほこり、粉塵の吸い込み、運動しないことによる活動性の低下が見られました。

 断水で避難所内のトイレは使えず、屋外に設置された仮設トイレは雪が降ると手洗いの水が凍結します。寒く、狭く、段差があるので、高齢者は使いたがりません。トイレに行く回数を減らそうと水分を取るのを控えるため、脱水症状や体調不良を引き起こしています。

屋外の仮設トイレ。気温が零下になり、手洗いの水が凍って使えないという=石川県輪島市、武田輝也さん提供

 食料支援は輪島市には届いていません。16日まで、お弁当は一つも届かなかった。カップ麺、パン、賞味期限を3日過ぎたおにぎりのみ。温かい食事が必要です。

災害用資材を活用しきれていない

 避難所の環境改善策として、段ボールベッドを組み立てました。パーテーションを設置し、プライバシーが守られるよう工夫を始めています。

震災から10日後にようやく避難所に設置された段ボールベッド=石川県輪島市、武田輝也さん提供

 また、避難所の屋内に段ボール個室を設置。その中に「ラップポントイレ」を設置しました。バリアフリーの洋式トイレで、し尿は使用ごとにシートに密閉処理され、1ヶ月程度の保管が可能です。

避難所の中に段ボール個室を設け、その中にし尿を密閉処理できるラップポントイレを置いた。凍結や段差の心配がなく使える=石川県輪島市、武田輝也さん提供

 実は段ボールベッドは100人に1〜2個、ラップポントイレも各指定避難所に1〜2個、すでに届いていました。しかし、組み立て方やカートリッジの取り替え方が分からないまま、放置されていたのです。災害対応経験のある人が被災地に入っていって資材を活用できるようにすべきです。

高齢者のために「浴槽台」を

 自衛隊の入浴支援も開始されましたが、浴槽の深さが60センチほどあり、高齢者は浴槽のふちをまたいで利用することが困難です。市の保健師が要望を出し、介護施設などで使用する「浴槽台」を設置しました。浴槽の外に2段、中にも2段の階段を設け、手すりをつけています。13年前の東日本大震災の時は、若い人は自衛隊のお風呂、高齢者はデイサービスのお風呂と振り分けることができました。しかし、今回は高齢者福祉施設も軒並み断水で使えない状態で、浴槽台の活用は必須です。

自衛隊のお風呂に後から設置した浴槽台。高齢者も浴槽のふちをまたいで入れるようになった=石川県輪島市、武田輝也さん提供

 インフルエンザや新型コロナの感染者は当初は別室に隔離していましたが、患者が増えすぎて、10日以降は同じ体育館フロアをゾーニングして使っています。

現地は圧倒的に人手が足りない

 自主避難所の状況把握は16日ごろからようやく始まりました。自分たちで炊き出しをしているので、食事の環境は指定避難所よりいいところが多い。一方で、余震により家屋や納屋が倒壊する恐れがあり、雨漏りをしている家屋もある。夜は車中泊も目立ちます。狭い所で寝返りも打てない状況はエコノミークラス症候群が発生しやすくなります。自宅避難の高齢者は体調が悪化しても周囲にわかりにくい。戸別訪問などで、避難所に来るよう誘導する必要があります。

医療チームとともに訪れたビニールハウス内の自主避難所。自分たちで煮炊きして温かいものを食べていた=石川県輪島市、武田輝也さん提供

今回の災害はインフラの復旧が遅いので、被災地の外への二次避難の取り組みが石川県などにより強く勧められています。しかし、家族や近隣と離ればなれになることに抵抗がある人も少なくありません。既存の避難所の環境を改善することも並行して行われなければならないと思います。

現地は圧倒的に人手が足りていません。他の自治体や、ノウハウを持つ支援団体の手が必要です。
(聞き手:阿久沢悦子)

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