共同親権に慎重論相次ぐ 「別居親の親権より、経済的支援を」 国会で超党派勉強会始まる

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離婚後の「共同親権」の導入をめぐり、法制審議会家族法制部会が取りまとめた要綱案は、2月15日の法制審議会総会を経て法務大臣に答申されます。その後、民法改正案は国会で審議される見通しです。「共同親権」については、当事者間でも「推進」派と「慎重」派に意見が2分されています。2月9日に衆議院第1議員会館で開かれた超党派の国会議員による勉強会の立ち上げを取材しました。

諸外国にならえというなら「選択的夫婦別姓」が先

会議には10数人の国会議員が出席しました。
衆院議員の野田聖子さん(自民)は共同親権をめぐり、SNS等で激化する対立を踏まえ、「子どもの幸せを考えているはずが大人のエゴがぶつかりあって、誹謗中傷が繰り返される事は望ましくない」と切り出しました。

今回の改正の一因は「外圧」です。離婚後の親権は、日本は長らく父母の一方が持つ「単独親権」でしたが、諸外国では「共同親権」であることから、国際結婚の増加などを踏まえて改めるべきだという議論が発端でした。

野田さんは「こういった議論の場合、必ず『諸外国では』というのを出して、日本もそれにならえ、というが、法務省に真っ先にやっていただきたいのは、選択的夫婦別姓です。それが実現できていないのに、共同親権の議論が進むのは違和感を感じている」と話しました。

また、自身の生い立ちを例に、必要なのは親権ではなくて経済的支援と訴えました。
「私自分は婚外子で生まれている。父は私が幼い時に家出してしまった。周囲のさまざまな支えがあって経済的困窮がなかったから、今日の私がある。一番の問題は養育費。共同親権か単独親権かではなく、子ども達をあまねく支えていくにはどうしたらいいかを話し合いたい」

「離婚家庭の実態からかけ離れている」

参院議員の福山哲郎さん(立憲)は、「単独親権を一足飛びに共同親権にするということが、どれほど現状のひとり親世帯、DVやモラハラを受けて離婚し子育てをしている人からみると抑圧になるかを考えなければいけない」と話しました。

今、日本では年間の離婚件数が20万件にのぼります。福山さんは「DVやモラハラで離婚した父母が本当に子どもの転校や転居について、お互いが気持ちよくハンコを押せる環境が準備できるのか。それができず時間が長引き、子どもに不利益をもたらすのではないか、という懸念がある」と指摘しました。

福山さんにもDVでアルコール依存症だった父親の下に育った経験があり、今回の要綱案は「離婚家庭の実態からかけ離れている」と見えます。
要綱案では夫婦の一方から一方への暴力がある場合や子どもの利益にならない場合は家庭裁判所が「単独親権」を定めなければならないとしています。しかし、DVやモラハラをどうやって証明するのか、避難している被害者側に挙証責任を求めるのか、という課題が残っています。「国会全体で問題意識を共有していただいて、当事者の意見と『子どものために』を立脚点として進めたい。当事者の悲痛な声を虚心坦懐に謙虚に受け止めて、政府の流れに少し慎重になるべきだという声を上げていただきたい」

勉強会を呼びかけた大岡敏孝議員、野田聖子議員、福山哲郎議員(右から)=東京都千代田区

親権は「父母が共同して行う」

勉強会では法務省から説明がありました。
法制審議会家族法制部会では、3年間で37回の議論を重ねました。離婚を経験した子どもや親、DV被害者支援の立場からのヒアリングや実態調査、海外法制に関するヒアリングを重ね、パブリックコメントも実施しました。

その上でまとまった要綱案では、まず、親権は「父母が共同して行う」と定義。子の利益のために「急迫の事情」があるときは、例外として単独で行えるとしました。また、監護や養育に関する日常の行為は単独で行えるとしました。
離婚後の親権は、父母が協議して共同か単独かを選べるとしました。協議が調わない場合は、父母の申し立てにより、家庭裁判所が子の利益に基づき、共同か単独かを審判します。子の出生前に父母が離婚したケースや、父が認知したケースでも共同親権にすることができます。

子の心身に害悪を及ぼす恐れがある場合(虐待など)や、父母の一方が他方から心身に暴力や有害な言動を受けたケース(DVなど)など「子の利益を害する」と認められるときは、家庭裁判所は単独親権を定めなければならないとしました。
また、DVは繰り返されることが多いため、いったん収まったから危険はないとはせず、「急迫の事情」に含めて解釈するとの判断を示しました。
親権とは別に子どもの身の回りの世話をする「監護者」については、特に定めないでも離婚できる、としました。

要綱案についての記事はこちらです

【当事者たちの声】

元夫に親権 「子どものパスポートが取れません」

勉強会には離婚を経験したひとり親や、親が離婚した当事者が参加し、議員のヒアリングに応じました。
Aさんは、子どもが幼稚園のときに、元夫を親権者、自分を監護者として協議離婚しました。元夫は養育費を支払わず、面会交流もできていないといいます。
「子どもは高校生。いま困っていることは子どものパスポートがとれないこと。修学旅行で海外に行く公立学校も珍しくありません。親権者である元夫の同意が必要ですが、拒否されています。私の下で子どもが生活していることが気に入らず、パスポートが欲しければ、監護権をよこせと主張しています」
もう一つ困っているのが、財産の管理です。
「定期預金の解約は親権者でなければできません。私が学費を積み立てていても、子どものために使うことができません。私は子どもが受け取る生命保険に入っていますが、それも元夫が管理することになります」
要綱案にあるような「共同親権で、監護者指定がない」という事態になると、医療や教育についても決定が滞るおそれがあります。
「問題はケタ違いになる。子どもに関する契約ができなくなります。生活全般に元夫が口出しをするようになり日常生活がままならなくなる。もっとも被害を被るのは子どもです」
その上で訴えました。
「ひとり親を追い詰めるような法改正はしないでください。子どものためにとがんばって、がんばって、どうにもダメだったから離婚をした。その私たちに離婚後共同親権を強制しないでください」

共同親権の導入に反対するオンライン署名には9日間で4万5823筆が集まった=東京都千代田区

「絶望と恐怖と不安に押しつぶされそう」

Bさんは暴力、暴言、性行為の強要などのDVが原因で協議離婚しました。元夫は子どもとの面会交流を求めて、調停は4年に及びました。BさんはDVの証拠を持たず、調停に出せませんでした。調停委員は「会わせてみないとわからない」と試行面会の実施をBさんと子どもに強要しました。子どもは「帰りたい」と言っても聞いてもらえず、身体を触られ、面会交流後、爪がはがれるほど噛むなどの自傷行為をするようになりました。
Bさんは「DVや虐待が離婚後も継続しています。絶望と恐怖と不安に押しつぶされそうです。離婚してやっと手にいれた安全で安心できる日常を私たちから奪わないでください。子どもの笑顔を奪わないでください」と話しました。

「連れ去りじゃなくて避難だった」

Cさんは子どもの立場から話しました。30年前、母と一緒に家を出て、父の暴力から避難しました。
共同親権の議論をめぐり、新聞や雑誌で「(子の)連れ去り」と書かれたことに傷ついたといいます。
「連れ去りじゃなくて避難です。そこに至るまでに母も私もどれだけ我慢したか。それなのに犯罪のように書かれて……。子連れ避難ができなかったら、私たちは殺されてしまうところでした」
要綱案は共同親権の例外として「急迫の事情」がある場合としています。
「この無理解な社会の中で、誰が急迫の事情を判断できるのでしょうか。私と同じような子どもたちがまだ苦しんでいる現状があります。恐怖と暴言の家の中に子ども達を閉じ込めておきたいのでしょうか。わかってください」
Dさんは離婚後に夫のモラハラに気づきました。証拠はありません。今から共同親権を求められたら拒めないことに恐怖を感じていると言います。「#ちょっと待って共同親権プロジェクト」が1月30日に始めた岸田首相あてのオンライン署名には、8日までに4万6823人が署名しました。Dさんは署名の束を持ち込み、「この署名を受け取ってほしい」と法務省に求めました。

【議員の質疑応答】

単独でできる「日常の行為」って具体的に何?

議員の質疑応答では衆院議員の枝野幸男さん(立憲)が弁護士として離婚事案に携わった経験などを踏まえ、法務省に説明を求めました。
「共同親権の例外の『日常の行為』とは具体的に何を指すのか?明確なんですか?パスポートの取得は単独で、監護権でやれないのか。離婚の条件に親権を持ち出し、別居親が親権を持っているケースは山ほどある。Aさんのように子どものことがスタックして苦しんでいる人も現実にたくさんいる。まずはその解決を急がなければならない」

「法改正によって新たな人権侵害」

参院議員の小池晃さん(共産)も「当事者のお話を聞き、共同親権の導入には大きな問題があると痛感した。拙速な共同親権の導入より、(子どもの権利から)親権を見直す民法改正をやるべきだ」と主張しました。
参院議員の仁比聡平さん(共産)も「共同親権になると、子どものことでずっと裁判を争わなければいけない。解放されるどころか、拘束され続ける。家裁に毎月ずーっと行き続けなければならないことになるのではないか。改正条文によって新たな人権侵害が起こってしまう」と懸念を述べました。

超党派の国会議員らは共同親権導入で起きる問題を具体的に列挙するよう求めた=東京都千代田区

「天地がひっくり返っている」

野田聖子さんは「現実的に共同親権になったらこういうことができない、困難になるということのリストを出してもらって、対応を一つ一つ詰めていかないといけない」と指摘。「離婚やDVの大嵐の中にいる人たちは、法案を作成する人たちのように、冷静に事態に向き合っているわけではない。言ってしまえば、法制審議会の人は、渦中の人ではないわけです。そのギャップをちゃんと受け取ってください」と法務省に注文をつけました。また家庭裁判所の体制強化も求めました。
福山哲郎さんも「これまでの原則単独親権が、原則共同親権に天地がひっくり返っている。単独親権にするには条件がたくさん必要で、家庭裁判所の判断が必要になる。単独親権をとるのには大変なことだということになっている。法務省の丁寧な説明は無理の裏返しになっている」との見方を示しました。
超党派の国会議員による勉強会は今後も随時開催される見通しです。