離婚後の共同親権が可能になる民法改正案が国会で可決・成立してから1ヶ月。審議過程で不備な点、曖昧な点が多数、明らかになりました。2年後の施行までに検討、詳細を詰めなければならない宿題も衆参両院の附帯決議に盛り込まれました。
DVや虐待の被害者が、共同親権の導入により新たな被害を被る危険性がないようにしてほしい———。
ひとり親家庭の当事者や弁護士、学識者らでつくる「ちょっと待って共同親権プロジェクト」「離婚後共同親権から子どもを守る実行委員会」と、弁護士有志による「共同親権について正しく知ってもらいたい弁護士の会」が6月20日、岸田文雄内閣総理大臣、戸倉三郎最高裁判所長官、露木康浩警察庁長官のほか、9人の大臣にあてた要請書を提出しました。
要請書では今後の法制度の整備にあたり、次の5つの方針に沿って進めることを求めました。
・検討プロセスにDV・虐待の被害当事者と支援者を参画させること
・ポストセパレーションアビューズ(*1)の実態把握のための体系的な調査を実施すること
・DV・虐待被害への支援が萎縮しないよう、予防・対策措置を講ずること
・ガイドラインやQ&A等について、確定前に、専門家や当事者の意見を聴取・反映すること
・DV・虐待の軽視を原因とする不十分な支援、審判、判決等についての調査と統一的な相談窓口の設置を行うこと
*1)別居・離婚後のDV・虐待の継続、濫訴などのリーガルハラスメント、ストーカーや嫌がらせ行為
当事者の不安・危惧、各省庁に
そして、省庁別に当事者の不安・危惧をまとめた159項目のリストを示し、文書での回答を求めています。
省庁共通では
・婚姻時も子の転居や進学、医療(手術)など重要事項について父母双方の合意を求めるのか、離婚後共同親権のみなのか
・離婚後共同親権のみとした場合、離婚しているか単独か共同親権かを証明する書類は戸籍謄本か
・婚姻中の共同親権の場合には戸籍を出さなくていいとなった場合の合理的根拠は何か
・自治体・個人を問わず膨大な問い合わせが想定される。共同親権に精通した問い合わせ対応に特化した部署を各省庁に設置すべきではないか
・DVと虐待を直接の担当者が見抜く力をつけるための研修を必須とすべきではないか。また、その研修にはDV及び虐待の被害当事者を登用すべきではないか
・自治体によって異なる運用があるかどうか担当省庁が確認し、全国で統一的な対応とするべきではないか
急迫の病気、だれがどう判断?
そのほか、厚生労働省には
「どこまでを急迫の治療を要する病気であると誰が判断するのか。別居中(共同親権)でも診察してもらえるのか。急迫でない病気の治療方針に父母相違があった場合、どのように判断するのか」
「同居親が子どもとともに生活保護申請をする際に別居親のサインが必要か、 別居親に扶養照会がいくのか」
こども家庭庁には
「離婚後共同親権の場合、監護者が単独であれば、児童扶養手当の受給ができるのか」
「保育所・認定こども園の進学決定について保護者2名の印鑑(サイン)が必要になるのか」
高校入学申し込み時に保護者2人の印鑑が必要?
法務省には
「親権者自ら行う行為が『日常の行為』か判断がつかない場合、どこに確認すればよいのか。確認を取らずに行為を行った場合、責任を問われるなどトラブルが予想されるが、回避する手段を検討しているのか」
「親権を持つ別居親の同意が得られなければ、転勤、転職、親の介護などやむを得ない事情があっても引っ越すことはできないのか」
文部科学省には
「高校合格後入学申し込み時に保護者2人の印鑑(サイン)が必要か。片方でよいのか」
「一方の親がプールに入れることを許可し、他の親が許可しない場合はいずれの親の意見を採用するのか。誰が判断するのか」
「就学援助の所得制限計算方法は、親権者の所得の合算か」
などの懸念点をぶつけています。
全項目はこちらのリストをご覧ください。
2026年4月以降の施行を求める
改正民法は公布された2024年5月24日から2年以内に施行されます。
要請書を受け取った法務大臣政務官に対し、斉藤秀樹弁護士は「17歳の受験生を持つ親が、進学先の決定で両親の許可がいるのかどうか不安にならないよう、4月以降の施行としてほしい」と要望しました。
斉藤弁護士は「法定養育費の額も早く決めてほしい。法的解釈で詰めなければならないところがたくさんあるので、当事者と専門家の意見を入れながら、一つ一つ確定していってほしい」と話しています。