「記者の仕事をバカにしている」「私自身も否定されたような気持ちになった」 国会議員の公設秘書による性加害で被害女性記者が証言

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国会議員の公設秘書による女性記者への性加害。証言からは圧倒的な権力の勾配が見えてきました

取材活動中の報道記者に対して国会議員の公設秘書が性加害を行った事件に関する国家賠償請求訴訟の第9回口頭弁論が12月17日、東京地裁(中村心裁判長)で開かれました。この日は、被害を受けた女性本人への証人尋問があり、女性は「立場のある人から受けた取材中の性加害は、記者の仕事をバカにしていると思う。どうせ訴え出ることができないだろうと私自身も否定された気持ちになった」と話しました。

公設秘書は「準強制わいせつ罪」「準強制性交罪」で書類送検された後、自殺。証言の中で女性は、その日の夕方、国会議員の後援会事務局長から「この自殺を謝罪と受け止めて告訴状を取り下げてくれないか」と電話があったことも明らかにしました。

【事件の概要】
事件は2020年3月に発生。元女性記者は、地域のコロナ対策について地方議員と情報交換をする場に参加し、参加者と飲食しながら情報を取っていた。終了後、参加していた上田清司・参議院議員(元埼玉県知事)の公設秘書だった男性が元女性記者を自宅に送り届ける名目でタクシーに同乗。車の中でわいせつ行為に及び、元女性記者は避難しようと一度下車したが、公設秘書も一緒に降りて、再びわいせつ行為をした。
3日後、公設秘書は元女性記者を「重要な情報を提供する」として飲食店に呼び出して、多量の飲酒をさせた後、ホテルの部屋に連れ込み性暴力をはたらいた。元女性記者は警察に相談し、被害届を提出。警察は捜査を進め、公設秘書を「準強制わいせつ罪」と「準強制性交罪」で書類送検したが、その後公設秘書は自殺し、不起訴になった。これを受けて元女性記者は「公設秘書による職務権限の濫用と、上田議員の監督不行き届きによって起きた性暴力だ」として、2023年3月、国に賠償請求を求める訴訟を起こした。

週刊誌報道による二次被害

証言台では最初に、裁判を起こしたきっかけについて聞かれました。女性は公設秘書が自殺した後、週刊誌の報道で、「女性記者が自殺に追い込んだ」「記者と秘書は不倫関係にあった」などと書かれたことを挙げました。親しい人には「事実と異なる」と説明しましたが、「よくあること」「示談金をもらえばよかったのに」などとも言われたそうです。

「私は、私が被害者なのだと知ってほしくて訴訟に踏み切りました」

元知事から情報が得られなくなるのは報道機関にとって損失

事件当初は、警察に被害届を出すことを躊躇した、とも話しました。

「元埼玉県知事から情報が得られなくなることは、埼玉に本拠を置く報道機関にとって損失。私だけではなく同じ会社の他の記者も情報が得られなくなると思いました」

「会社に抗議文を出してほしいと要望しましたが、全く動いてくれませんでした。労働組合を通した数年越しの交渉の末、やっと今年2月に抗議文が出されました」

「情報がもらえなくなるだけでなく、(元知事、現国会議員とは)今後の付き合いもあります。問題を起こしたくないのだと思います」

「私は会社を辞める覚悟で被害届を出しました」

報告集会で本人尋問の様子を説明する長谷川悠美弁護士=東京都内

「後援会事務局長より私の方が議員に近い」

事件の経緯について女性の証言が続きました。

女性は、懇意にしていた上田議員の後援会事務局長から「面白い会食があるから来ないか」と誘われ、2020年3月24日に飲食店に出向きました。秘書、後援会事務局長のほか、埼玉県選出の衆院議員、新座市議、病院長が来ていました。女性以外は全員男性でした。県内の新型コロナの状況について説明があり、感染拡大を受けて医療従事者の手当を上げてほしい、という要望が出されました。秘書は上田議員の代理として出席し、名刺交換をしていました。

「新型コロナに対応する現場の、生の声を聴く貴重な機会で、仕事にも十分に役に立ちました」

女性は会合の後半、酩酊してしまい、秘書にタクシーで送ってもらうことになります。その車中と降車後に秘書から性加害を受けました。会社や同僚にLINEで報告しましたが、「相手の立場が上、私が警察に言うと会社に迷惑がかかる」と考え、いったん飲み込みます。

3月25日に知らない電話番号から着信がありました。秘書でした。秘書は大野元裕・現知事の秘書から電話番号を聞いたと話し、「後援会事務局長より私の方が上田に近いので、仕事の役に立つと思います」と言いました。

「他の記者も動いていますよ」

3月26日、メールで秘書から連絡がありました。

「上田議員が新しい会派を結成しようと動いています。立憲と国民が分裂したら一気に動きます。他の記者も動いていますよ」

「取材させてください」と返信すると、「飲みながらでどう?」と聞かれ、了承しました。

「スクープだと思いました。他の記者に先に書かれてしまう。1日でも1分でも早く取材をしようと、会社に内容を報告し、夕方のニュースの準備を早目に切り上げさせてもらいました」

直前に性被害に遭ったばかり。同僚記者と一緒に取材対応をすることは考えなかったのかとの質問に、女性は「秘密事項であり、他の人を連れて行くと教えてもらえないと思いました」と証言しました。

どんな会派を結成するのか、誰がその会派に入るのかが重要だと考え、会派入りしそうな国会議員のリストを用意し、秘書に〇か×かを付けてもらうつもりで飲食店に向かいました。しかし、はぐらかされ続けます。

会社には店のトイレからLINEをし、「上田議員が明日、県庁に行く」などの情報を送っていました。しかし、女性にはその記憶が全くありません。

「店でトイレに立ったという記憶から、プッツリ途切れている。ホテルまで歩いた記憶も全くない。景色も覚えていません」

記者職を外れ、複雑性PTSDに苦しむ

女性は週刊誌報道の後、「不倫関係」「現地妻」などの風説を流され、記者職を外れました。

「取材相手に不倫していた記者とみられている。戻りたくても戻れない」

複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、今も事件のフラッシュバックに苦しんでいます。

「忘れようと努力しているが、(現場近くの)大宮駅を訪れる時や、電車で男性の汗のにおいを嗅いだときなどに思い出して苦しくなる」

「この自殺を謝罪と受け止めて告訴状を取り下げて」

女性は20年4月1日に埼玉県警に被害届を提出。県警は8月20日、「準強制わいせつ罪」「準強制性交罪」で秘書を書類送検し、その2日後、秘書は自殺しました。

女性は秘書が自殺したという一報を後援会事務局長から聞きました。

「動揺し、1日中泣いていました。私のせいで死んだと思った」

「夕方、後援会事務局長から再び連絡があり、『この自殺を謝罪と受け止めて告訴状を取り下げてくれないかと上田さんが言っている』と言われました」

女性は証言の最後に裁判所に訴えました。

「死ぬのは私の方が良かった。被害届を出してよかったと思うことが、今のところ一つもありません。どうか権力に屈せず、公平な裁判をお願いします」

国側「飲食というプライベートな場で起きた」

被告である国側は、事件は秘書の職務権限の濫用に当たらず、勤務時間外の飲食というプライベートな場で起きたと主張し、上田議員の監督責任も否定しています。

国会議員の公設秘書だった経験について証言した池田幸代さん=東京都内

秘書の権限行使について、長野県駒ヶ根市の池田幸代市議が証言台に立ちました。池田さんは福祉新聞の元記者で、その後3人の国会議員の公設秘書を経験しました。取材記者、政治家秘書の双方の実情を知っています。

池田さんは記者の仕事について次のように証言しました。

「国政は一番情報が欲しいところで、重要なニュースソース。記者は国会議員秘書から連絡を貰ったら、絶対に行かなきゃいけないと思う。そこには権力勾配がある。断ったら次の情報提供はしないよ、と言われ、オミット(除外)される。抜くか抜かれるか(他社に先駆けて記事を出すかどうか)で仕事をしている記者にとって最も怖いことだ」

国会議員秘書経験者「プライベートではあり得ない」

公設秘書の仕事については「市民社会と政治をつなぐ役割で情報のハブ(結節点)である」と定義。その職務権限については次のようなやりとりがありました。

——インフォーマル(非公式)な場での秘書の発言は職務権限の行使か?

国会議員の名前が入った名刺を持っている以上はもちろんそうだ。

——飲食の場はプライベートか?

秘書として上司(議員)の看板を背負って行っている以上、プライベートではあり得ない。

——会食の参加者がアルコールで体調が悪くなったら?

まず、体調が悪くなる前に(飲酒を)やめさせる。みんなが帰れるようにするのは私の責任。タクシーで送り届ける中での性暴力は権限の濫用。安全に送り届けるのが秘書の仕事なのに、性暴力をしてどうするんだ。

——公設秘書はどこまで議員に報告するのか?地元の有力者との会合は?

事前にも事後にも議員に報告すべき内容。

——記者と2人の飲食は?

報告しているはずだ。報告していないとすれば議員に言えないことをしたんだろう。メディアと会う時は事前に報告する。本来であれば、議員が指示をしてメディアと秘書が会うのが筋だと思う。

——記者への情報提供を飲み会の場で行うことはあるのか?

インフォーマルな場での情報提供の方がメディアにとっては価値があるものです。

原告側弁護士「時間が経っても形を変えて被害が生じている」

閉廷後、原告側が都内で報告集会を開きました。池田さんを尋問した青龍美和子弁護士は「議員秘書による性暴力事件は大きな権限や優位性を濫用した結果だ。その背景に『ジェンダー化された政治の構造』があり、女性議員が活動しにくかったり、ハラスメントが横行したりしている。メディアの中にも同じ構造があるとわかった」と話しました。

青龍美和子弁護士=東京都内

原告本人を尋問した長谷川悠美弁護士は「一言では言い表せない被害があると尋問を通して認識した。被害を受けた時ももちろんだが、時間が経っても形を変えていろんな被害が生じて、今も苦しんでいるということが傍聴している人にもわかったんじゃないかと思う」と話しました。

また、国側の原告への反対尋問で「防犯カメラの映像にあなたに不利なことが映っていなかったか?」「タクシー運転手の証言を聞いたか?」など捜査記録がないとできない質問があったことに注目。これまで、原告側の捜査記録の開示請求に対し、「保管期間は1年で、すでに破棄された」としていた国側の主張との矛盾が生じていると指摘しました。

長谷川悠美弁護士=東京都内

「事実の無化」を放置すると暴力が増長する

中野麻美弁護士は「原告は会社に迷惑がかかると思っていたという。それがこの事件の本質。情報が取れなくなる。自分だけじゃなく、企業体がそういう立場に追い込まれる。それだけ政治権力は大きな力を持っている。その中でひとりが立ち上がるというのはどういうことなのか。自分が記者という仕事についている。その使命と正義感が勝ったんだと思う。被害を受けた人間しか味わうことのない葛藤であり、これで加害行為があったことを否定することはできなくなった」と話しました。

中野麻美弁護士=東京都内

その上で国が責任を否定することが何を意味するのかについて、こう述べました。

「公設秘書が自死した、不起訴にした、不起訴から1年で記録は抹消する、これが何を意味するか。国会議員というのは国民全体の代表者。その国会議員によって構成される国会を守っているのは秘書なんですよね。秘書も含めて国会という政治の場がある。国会議員秘書という特別職であるところの公務員が行った性犯罪、性加害というものに、どれだけの問題があるのかを認識していたら、記録は破棄しちゃいけないと思う。1年で破棄というのは『事実の無化』です。それを放置すると暴力が増長する。そういう構造の中で事実関係を見て行かなきゃいけない」

次回の口頭弁論は2025年2月20日の予定で、双方が最終準備書面を出して結審となる見込みです。